【イリヤ・マーカー】
《求めたものは、創造の限界。欲したものは、そのための犠牲。アジア連邦では、もはや私を満足させられなかった。》
開戦一年半前。
私の開発研究チームは人型戦闘兵器、『ヴェレス』の開発に成功した。
ロシアは秘密裏に量産を開始。我々は更なる開発を進め、開戦直前に三機の異なる特性を持った試作機を製造するに到った。
私は身体が震えた。人はどこまで自分達を殺す兵器を作り出せるのかと。その限界を見てみたいと。
私はこの喜悦の感情を抑えることができなかった。
「マーカー博士、実に素晴らしい! あなたのおかげで戦争は早く終結するでしょう」
だがある日、この将軍。名前はなんと言ったか? ……まぁいい。こいつには感謝している。
戦争が終わってしまえば兵器は戦わなくなる。それは私にとって最も許されないことだ。
するべき事は簡単で、ここを去ることになんの未練もなかった。開発チームのみんなもついてきてくれたよ。
「アジア連邦は国連よりひどいことをしようとしている。例えば……」
適当な大義名分さえ掲げれば、みんな私についてきた。我々は開発さえできれば、他はどうでもよかったのでね。私達はそういう集まりだった。
程なく私達は日本国へと亡命した。試作機『ペルーン』『スヴァローグ』『ストリボーグ』を持ってね。
――更なる終わりなき戦争のために。
しかし程なく、日本国でアメリカやEUにヴェレスの情報を流していた私達は、問題にぶち当たることとなる。
試作機三機の性能にパイロットがついていけない事態が発生したのだ。その驚異的な性能に、パイロットが失神してしまう。
どうしたものかと頭を悩ませていた私だが、ある日名案が頭に浮かんだ。
「まさかロシアのドーピング技術に頼ることになろうとは」
私は書類を眺めながら一人、不敵に笑みをこぼした。
選考は一般人を避けた。家族、親族から私達の情報が漏れる可能性があったからだ。
この土地は連邦の電撃作戦によって一度戦禍に曝されている。程なくそれは集まった、私の望んだ私達の兵器のための実験体――戦災孤児という奴が。
「カリン・フォードウェル」
「秋原 秀二」
私はオフィスで書類をめくる手を止めた。
「この車田 千津葉という奴は?」
先の二人は明らかに身寄りのない子供だ。だがこいつは歳二十前半、しかも素性が書類に記載されていない。
「私達の車の前に急に飛び出してきましてね。どうやら軍の車と間違えたようで、彼が殺された。仇が討ちたい。私も軍へ入れてくれと言うもので」
自然と口がにやけてしまった。こいつなら、私の機体を扱えるかもしれない。
私は直感を信じるタイプだ。
「なら、この三人でいこうじゃないか」
燃やせばいい、憎しみの炎を。私はお前達に薪を存分にくべてやる。
討てばいい、気が済むまでな。程なく世界がそのための舞台を整えるだろう。
そして戦えばいい、死ぬまで。お前らが何を思い、どう戦おうが、それは全て私のためになるのだから。
「……クク、ク、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
……どうにも身体の震えは、しばらく止まりそうもなかった。