【ユーリ・ビスマルク】
《我慢できなかった。ただ、ただ破滅を待つだけの世界を。許せなかった。解っていても尚、私腹を肥やし続けるあいつらを……だから戦うことに、躊躇いはなかった》
日本の暦で一月一日。
アジア連邦は世界に対して宣言布告した。同日、午前零時三十三分。各地で電撃作戦が開始された。
俺の配属された部隊もこの作戦の一つ北海道上陸作戦に参加。
今、俺は初めて実戦投入された人型戦闘兵器『ヴェレス』のパイロットとしてこの作戦に参加し、たった今空母から発進したところだ。
「うひょ~こんなのありかよ!」
コックピット内全体に広がるパイロットモニターに小窓の通信モニターが開かれ、他の兵士が騒ぎだした。
「呑気な奴だな、お前」
「だってよユーリ、こんな兵器があったら戦争なんて簡単に終わっちまうぜぇ!!」
はしゃぐのも無理のないことだ。 このヴェレスの機動性なら、前大戦時の弾丸の雨ぐらい軽々とくぐり抜けることができる。
「崖に誰かいるぞ!!」
新たな通信モニターがパソコンの小窓と同じようにサイドモニターに開かれ、兵士の一人が叫んだ。
「見張りか、何人いる!?」
バレたのか? まずい……こんな早くから作戦に支障が? それは絶対に許されない!
俺は躊躇いなく、ヴェレスに装備されているマシンガンを発射した。
「四人逃げるぞ!」
外した? 焦って狙いがズレたのか、クソッ……一先ず陸に着地を。
考えるのと同時に俺はヴェレスを操作して崖上に着地すると、続けて他のヴェレス達も着地していく。
「逃がすものか!」
マシンガンを構え直し、俺はワゴン車を的確に撃ち抜いた。
――あと二人。
「ああん? ガキじゃねえか、おい」
一人の兵士が興ざめだと言わんばかりに落胆の声を発する。車の爆発で吹き飛ばされた残りの二人へ、俺は機体のメインカメラを向けた。
「なんでこんな所に子供が……」
戸惑いが生じなかったと言えば嘘になる。
――しかし、一般人とはいえ見られたからには。
「構うな」
俺がもう一度マシンガンのトリガーを引く直前に、声と共にコックピット内へ新たな通信サイドモニターが開かれた。
モニターに写っているのは、
「……ファイク隊長」
「作戦はすでに開始された。今更情報漏洩など、気にすることではない。作戦を遂行しろ」
淡々と命令を告げる隊長は、見た目はまだ二十代そこそこで俺とは違いエリート中のエリートだ。そして、人望もある。
その不可思議な出で立ちはエリート性が相まって、部下からは信奉されている節すらあるのだ。
何より、あの銀色の長髪は隊長の不思議なイメージを一層際立たせていた。そして、俺もあの隊長の手腕には一目置いていた。隊長の命令なら従うしかない。
俺は目的地に向けて機体を方向転換させファイク隊長の機体を追い始める。
「ユーリぃ、何焦ってんだよ。射撃なら俺に任せてくれりゃよかったのによぉ」
「ラム、そうだな悪かった」
隊長に変わってサイドモニターに写ったのは、独特なテンションのラム・ダース。
年齢は三十代後半ほどらしいが、ボサボサの頭と無精髭が実年齢以上の貫禄を醸し出させている。
最初は陽気な奴だと思っていたが、素性を探ればなんてことはない。戦争屋、いや、戦闘狂だった。
「まさかお前、俺の腕を信じてなかったのか? 見てろ!」
言うと同時に奴は、見事に遠方の民家を一軒だけ撃ち抜いて見せる。
「どうだ!? 綺麗に燃え上がる俺の腕を証明するあの炎を!」
「あぁ、認めるよ。だからヘルメットを被れ」
俺が殺してしまった先程の人間、そしてあの民家に住んでいるであろう家族は不憫だとは思うが同情はしない。何故なら俺達はこれからもっと多くの人を殺すだろう。
それに逐一同情していては身がもたない。崇高なる理想のための礎となったのだと、俺は心の中で割り切った。
「作戦開始だ」
隊長の声だ。もう攻撃目標につくらしい。
「諸君の健闘を祈る。全ては、世界のために」
前方に基地が見えた。各機が散開して、基地を包囲していく。
「「世界の破滅を、防ぐために!」」
パイロット全員が叫び声をあげて次々とヴェレス部隊が基地へ侵入し始めた。俺もそれに続き基地に機体を躍り込ませ、引きがねを引いた。
――崇高なる理想のために。