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ヴェレス戦記  作者: 百瀬(ももせ)
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【車田 千津葉】

《私は彼がいればそれで良かった。つまり彼が、私の全てだったの。だから戦争は、私の全てを奪ったの》



 年が明けた。

 わずか数分前、彼はこの豪雪の中へ緊急召集とやらで飛び出して行った。

 新年を迎えたこの日、せっかく忙しい彼が休みをとって私に会いに来てくれたっていうのに。

 それもこれも、今目の前に流れているこのテレビのせいだ。

「我々はもう我慢などできない!」

 何かとても堅苦しい言葉で、さっきからこのテレビのとても偉そうな軍人は喋っている。

「……世界は! 緩やかに破滅へと歩き続けている。今、この瞬間もである。しかし、彼らもバカではない、馬鹿ではないと……私は信じていた。だが、どうだ? この数十年、海位の上昇によりいくつの国が沈んだ? この数十年、いくつの国で紛争が起こった? この数十年……どれだけの人が死んだ? 数え切れない、数え切れないほどだ! みな国連が助けてくれるものだと思っていた! だがしかし! 国連の蛆虫共は自らの国々の保身に走り、事実から目を背け、見捨て! ……あまつさえ自分の国の不足を補うために、瀕死同然の国からその微かな灯さえも奪い取った! これが許せることか!?  断じて否! 我々、ロシア! 朝鮮! 中國は! ここに連盟離脱を宣言する。そしてここに、新たにアジア連邦を組織することを共に発表する! 堕落した国連などに、これ以上世界を委ねてはならない! 我等アジア連邦は、世界に対して宣言布告を発表する! この世界は、もうダメだ。集え。我等の元に! 人種など問わない。世界を変えたいと思う者ならば、歓迎しよう! 諸君、変えようぞ! 世界を、 我等の手で!」

 ――それは必然であったのかもしれない。

 何故なら世界はこの数十年で混迷の極みとなっていたからだ。テロ、紛争、地球温暖化。信じられないほど大勢の人々が死んだ。どこかの預言者が、

「これは増えすぎた私達人間への神の裁きだ」

 などと喚き散らすほどに。

 不満は溜まれば爆発する物……これはその一つの形なのだろう。

 でも。実際、私には世界なんてどうでもよかった。私の世界は彼と過ごすこの部屋で、彼さえいれば私の世界は生きていた。

「部屋?」

 私はすぐに自分の考えを訂正した。私の住む世界は彼がいるだけで存在し、 尚且つキラキラ輝きながら廻るのだと。

「……恥ずかしいこと考えちゃったな」

 頬が熱くなるのを感じながら、私は彼が手をつけなかったご飯を冷蔵庫に移すことにした。

 彼は帰ってきたら疲れてるだろうから、何か元気の出る料理をもう一品作っとこうかな、などと考えながら。

しかし、私が新しく作った一品も含めて保存した料理が彼の口へ運ばれることはなかった。


――私が彼の戦死を聞いたのは、翌日の昼のことだった。

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