第二章: 真夜中の部隊
第二章: 真夜中の部隊
衝撃波が基地を襲い、地響きのような音が響く。
アズラエルは両足を地面につけて耐え、二本の尾でゼロの攻撃を防いでいた。その一撃は、死神の尾にあるトゲ状の突起物で食い止められた。
「チッ」と、ゼロは舌打ちをし、アズラエルの尻尾の防御からはじかれ、数メートル離れた場所に着地した。彼の体の周りにある黄金に輝くオーラは、まだよく見える。
『おおっと。アズラエルが完全防御に回ったのは初めてかもしれないな。俺たちはついに、本気で反撃できる人物に出会ったのか?』
ヘリに戻ったワンは、降機準備をし始めた。小さな茶色の袋を手に取り、右足に巻いた万能ポーチに入れる。
「待てよ、ワン」という声を聞き、ワンはハジの声のする方向に振り向いた。
「なんでしょうか」
「前回どうなったか覚えてるよな?」
「当然です。2度と失敗することは許されません」
ハジは手を伸ばして手のひらを開いて見せた。その手には小さなイヤーピースがあった。「もしもの時は、代替策を講じるつもりだ。司令部はもう失敗を許さないからな」と、ハジがイヤーピースを差し出した。
ワンがイヤーピースを掴み、左耳に装着した。「心配しないでください、軍曹。今回はゼロがついています」。ワンはハジに向かって首を縦に振ると、ヘリから眼下の戦場へ向かって飛び出した。
ハジはボタンを押し、ハッチの扉を閉めた。
「パイロット、もっと高く飛んでくれ。これから起こるあらゆるカオスに巻き込まれないようにな」。
* * * * *
地上に降りたゼロとアズラエルは、にらみ合ったままだった。ゼロは上着のポケットから鎖を取り出した。それぞれに誰かの名前が書かれた犬のタグが付いていた。
そして、その犬のタグを二人の間にある地面に投げつけた。
「怪物、お前には理解できないだろうが、このタグは俺の親友のものだ。お前の血の欲望のせいで失った友人たちなんだ」
彼は右腕を宙に浮かせ始めた。「前回はここにいられなかった・・・だが・・・」
右腕の筋肉が膨らみ、大きくなり始めた。そして、その筋肉はみるみるうちに小さくなり、痩せた状態になった。
「その埋め合わせをするぜ」
『待てよ、この動き見たことあるぞ・・・』
ゼロは目の前の地面を叩き、コンクリートと粉塵の大爆発を引き起こした。そして、辺り一帯が巻き上がった粉塵が雲のように広がり、一面を覆った。
『そうか!前回一緒に来た者の中に、魔人並みのパワーを維持したまま筋肉を凝縮する能力を持つ者がいた。でも、なぜだ・・・』
アズラエルの目は、あらゆる方向に動き始めた。鼻は近くのニオイをすべて感知し、耳は周囲の音をすべて察知した。目が見えなくても、その感覚は並外れていた。
「グラァァァァ」
アズラエルは、動いた何かをすぐさま両尾で攻撃した。
布が裂ける音がして、ゼロの上着に突き刺さったが、ゼロはそこにはいなかった。
「言っただろ!」ゼロの声が響く。
死神は振り向こうとしたが、遅すぎた。
「こいつは・・・痛いぞ!」
振り向こうとしたアズラエルの顔面にゼロのパンチが炸裂した。
バーン!
アズラエルは足を滑らせ、目にも止まらぬ速さで近くの壁に激突した。ゼロはこの隙に土煙の中から退散した。
「報告しろ、ゼロ。今のは何だ?」装着していたイヤーピースから、ワンの声が耳元で響いた。微笑みながら、「隊長、この手でアズラエルを捉えた音です」と答えた。
そう遠くないところで、ワンは近くの岩盤の上にひざまずいている。右手を岩の硬い表面に押し当て、目を閉じている。一つの思考が彼の心を支配していた。
実はこちらが優勢なのか?もっと抵抗してくると思っていたのに・・・何か変だぞ。
ハジはヘリのコックピットから眼下の戦場を見下ろした。アズラエルの衝撃による粉塵は、まだ眼下に広がる光景を覆い隠している。しかし、イヤホンからゼロの声が聞こえる。
ハジは地上にズームしたモニターに目を向ける。「アズラエルは、インファナルに分類されるS級死神だ。その能力は圧倒的なスピードと瞬発力。我々が知る限り、最も多くの死者を出している。ゼロ、我々のわずかな優位性を失う前に、これを終わりにするんだ」
「了解です。軍曹」
瓦礫が移動する音がして、アズラエルは再びゆっくりと上昇し始めた。
「グルルルル・・・」
『思考が聞こえない。言葉を発することもできない。だが、常にある感情を感じることができる。この感覚・・・これは恐怖なのだろうか?』
「このパンチはヨンからのものだ。彼女がよろしくって言ってたぜ」ゼロは腕を前に出してにやりと笑った。その腕の周りの空気が熱を放ち始め、波打ち始めた。突然、腕から炎が立ち上り、燃え上がった。
「あいつの技を使うなんて、ニイに嫌われそうだけど、男なら仕方ないな」
ゼロは少しグロッキー気味のアズラエルに向かってダッシュした。この瞬間を逃すわけにはいかない。
『信じられない。この部隊の他のメンバーは通常1つの特殊能力を持っているが、彼は複数の能力を持っている!彼はついにそれを実現したのだろうか?もしかして、最後にそれをやってくれるのは彼なのか・・・頼む・・・。』
ゼロはまだ動かないアズラエルに距離を詰めた。彼は攻撃に備え、炎の腕を振り上げた。
アズラエルの口が震えだし、「殺ぉ・・・ろ・・・せぇ・・・」と言葉が漏れる。
ゼロは目を見開き、すぐに攻撃に歯止めをかけた。アズラエルは口をパクパクさせながら、まるで言葉が詰まったかのようにじっとしている。
「ワン・・・」
「ありえない!」ハジが口を挟んだ。「死神が話すのを誰も見たことがないんだ。ましてや」『我々』の言葉を話すなんて」
「軍曹」ゼロは自分を取り戻そうとした「私がおかしいのか、それともまだ誰か・・・」
「ゼロ、逃げろ!」
ワンの声が彼の注意を引き付けたため、アズラエルが攻撃を開始し、その爪がゼロからわずか数センチのところをかすった。
くそっ!かわす暇もない!ゼロは最悪の事態を覚悟した。
その直前、二人の間の地面からツタが飛び出し、アズラエルに巻きついて縛り上げ、さらにその上を覆うように地面に叩きつけたのだ。
『グラアアアアアア』
ゼロは衝撃と安堵の中で、捕らえられた生物を見下ろした。「隊長・・・どうやって・・・?」
「我々がここに来た時、君がドラマチックな登場をしようとして忙しかった間、私は戦場のあちこちに種を撒いていたんだ」
「すごいな。先見の目を持つのは君に任せたよ。だから大金を稼げるんだろうな」
ゼロはため息をついた。
隊長は自然そのものを操ることができる・・・常に様々な種を持ち歩き、その時々に応じた使い分けをしているのだろう。彼は目が見えないかもしれないが、その力は遥かに大きな視界を与えてくれる。私には真似のできない能力を持つ人だ・・・。
「軍曹」ワンが無線で話しかけた。
「おう?」
「知っておいてほしいことがある。アズラエルがゼロに突進したとき、私は最後の瞬間まで地上の彼の動きを感じませんでした」
「つまり、アズラエルは並外れたスピードがあるっていうことか?」
「いいえ、そういうことではありません・・・超高速といえども、地面の上を走っているわけではないということです。通常は、足が一歩一歩地面に衝撃を与えているはずで、地面に触れている以上、動きを感じることができるはずなんです。しかし・・・はじめの一歩を感じただ
けで、彼はすでにゼロの所にいたのです」
「楽しい会話を邪魔して悪いが、問題が発生したぞ」
アズラエルが立て続けにツタを切り始めると、ゼロはダッシュで後退した。
「アアアアアアアアアアアアア!」
アズラエルは飛び上がり、最後のツタを断ち切った。そして、以前はぶつかってしまった壁の上に着地した。
『この感じ・・・』
機内に戻ったハジは、目の前のモニターに映し出されたゼロとアズラエルの空からの対決に釘付けになっていた。
ガシャン!
コックピットのドアが開き、長い白衣を着た科学者の男が飛び出してきた。乱れた寝癖のような髪に、顎には無精ひげが少し生えている。手には方眼紙を印刷したようなものを握っていた。
「サディキ二等軍曹!」
「ロビンソン?おい、ここに勝手に入るのは・・・」
「お邪魔して大変申し訳ございません。しかし、お願いです。ぜひお伝えしたいニュースがあります」
ハジは軍事科学者に歩み寄り、「では話せ」と言った。
「閣下、我々は指示通りアズラエルという死神を監視しています。ゼロが初めて彼と交戦したとき、わずかに上昇した測定値を拾いましたが、その後、上昇するにつれて希薄になりました。結局、センサーが正確な数値を拾えるのは、前回の会議で説明した一定範囲内だけなのです。だから、私たちは・・・」
ハジは明らかにイライラした様子で彼の手から紙を奪い取った。「何がいいたいのだ?」
ハジはそのグラフを見て目を見開らいた。「これは正確なデータなのか?」
「現在の高度で約85%の精度です。平均から低い値で推移していましたが、ほんの数分前に突然このような現象が起きました。ご存知のように、青い線は一般的な死神の平均的な精神活動値を表しています。黄色はAクラス以上の死神の平均値です。そして赤い線は・・・アズラエルの測定値です」
ハジは、もう一度ページをめくって、自分が見ているものが真実であることを確認した。赤い線が黄色い線を大きく上回っている。すぐにモニターに視線を戻すと、そこにはまだアズラエルとゼロの睨み合いが続いていた。
「ロビンソン。中佐に無線連絡してくれ。今すぐにだ!」
*****
下界では、戦場から完全に砂埃が消えていた。
アズラエルは、ゼロを見つめながら立っていた。口元からヨダレを垂らし、小さな唸り声が聞こえてくる。その周りには、かすかに影のようなオーラが漂い始めている。
空気が・・・急に変わった気がする、とゼロは思った。
アズラエルが一歩踏み出すと、まるで空気に波紋が走ったような感覚に襲われた。ゼロは鳥肌が立った。
遠くから、ワンは地面に手を当て続けていた。そうやって周囲の自然とつながっている限り、そこにたまたまつながったあらゆる活動も見ることができる能力を持っているのだ。誰かが地面を歩いている様子も、木々の音の振動も。これが、彼の視覚を超えた能力なのだ。
「ゼロ、気をつけろ。ここは何かおかしいぞ」
ワンがそう言ったとき、額の横を一筋の汗が流れた。
「ああ、それは感じるよ」
ゼロはジャケットを脱いで、ドサッと地面におろした。ジャケットの下には、サイドが黒い切り替えになっているグレーのシャツが体にまとわりついていた。肩には背中でXの文字を描くようなバンドがあり、胸の前までつながっていた。部隊の標準的な制服だ。ゼロは脱いだジャケットの上にひざまずき、何の特徴もない真っ白なフェイスマスクを取り出した。
そして、そのマスクを手のひらに乗せ、装着する準備をした。「ワン、この案件ではお前が必要だ」
「今頃気が付いたのかよ」と、ワンは苦笑した。
アズラエルは突進の準備をするかのようにしゃがみ込んだ。影のようなオーラが濃くなり始めていた。
ゼロは大きく息を吸い、そして吐いてから顔にマスクを被せた。
「フェイスレス・トランス」
第二章終わり