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世界の果てに  作者: 手塚ケンジ
第1巻
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第1章 死神

第1章 死神


熱風が砂漠を吹き抜け、砂埃を巻き上げている。空には雲ひとつなく、熱気が下界に重く降り注いでおり、日差しが遮られることはない。いくつかの岩を除けば、見渡す限り何十キロも何もない場所だ。


ただ、その何もないところに、大きな軍事基地があった。


基地の中には厳重な警備体制が敷かれ、いたるところに監視の目が光っている。監視員たちは明らかに何かを探し回っている。そんな中、ロジャース中尉は、ライフルのスコープを覗きながら居眠りをしていた。軽いいびきが聞こえてくる。


「中尉!!」


ロジャース中尉はすぐに目を覚まし、銃をしっかりと握った。隊長が彼の後ろに立ち、その大きな体がすべての光を遮った。


「申し訳ございません、隊長!昨夜よく眠れなかったのです!」


「もし、君の監視下で何かが起きたら、私たちは長い長い眠りにつくことになるんだぞ。君の判断ミスで我々の命を賭けるな!」


「もちろんです、隊長。 気を付けます!」


隊長は頷いただけで、歩き出した。ロジャース中尉はライフルのスコープを覗き込みながら、辺りを見渡し続けた。


「この長い当直は命取りになる。目を開けているのがやっとだぜ・・・」


その時、遠くに大きな岩がスコープ越しに見えた。スコープを少し右にずらすと、砂埃の中にじっとたたずむ人影のようなものに目がとまった。寝不足や風による目の錯覚でないことを確認しようと、何度かまばたきをした。


その人影はまだそこにあった。


「おおい!何か見えるぞ!」

他の仲間が、ライフルを握り締めながら、すぐさま彼のそばへやってきた。


「“奴ら”の一人なのか?」


「遠すぎて確認できない。あそこだ」。彼は遠くの崖の地層に向かって指を差し、「この方向でスコープを覗いて確認しろ」と言った。


スナイパーは指示通り、ライフルをその方向に向けた。スコープ裏側のダイヤルでズームを調整すると、カチッという音がした。


「さて、どうだ?」


「砂漠がお前の目を弄んでいるようだ」彼はライフルを横に下げた。「何もないよ、ロジャース」

「おい待てよ、そんなわけがない。いや、誓って・・・」ロジャース中尉は再びスコープを覗き込んで確認した。


そこには砂漠があるだけだった。人影はもうなかった。


「俺は・・・確かに何かを見たんだ」


スナイパーは彼の肩を叩いた。「それはおそらくキツネかなんかだったんだよ。もしかしたらミーアキャットかもしれない。それとも何か別の美味く食べれるヤツさ」


「ここにはもう野生の動物はいないよ。もうみんな食べ尽くしたんだ」。もう一人のスナイパーは独り言のように料理のようなものをつぶやきながらすでに立ち去って行った。


「クソ砂漠め!」。


ロジャース中尉はライフルを立て直すと、スコープを覗いて監視に戻った。


“走れ・・・!”


スコープのレンズに一筋の亀裂が走った。

「あれ?」 彼の視界が赤く染まった。「な・・・ん・・・だ・・・?!」

彼のライフルはリボンのようにバラバラに解けていった。そして腕からも、彼の体の他の部分からも、血が四方に飛び散り、ロジャース中尉であった人物の背後に立っている何かを赤く覆った。

黒衣をまとった背の高い生き物が、腕を高く上げ、その先に鋭い鉤爪をむき出しにして立っていた。肩と胸の一部には骨の鎧が、頭には雄牛のような角があり、両肘からは鋭い骨が伸びている。2本の長い尾が前後に動き、それぞれの尾の先にはさらに鋭い骨があり、それらを振り回すような鈍い音がした。

ロジャー中尉の血がその得体のしれない何かから滴り落ちている。その得体のしれない何かは、4つの目で他のスナイパーたちを見つめた。スナイパー達の顔には恐怖が刻まれていた。


“どれほどの時間が経ったのだろうか・・・”


震えながら後ずさりするスナイパーの一人の脚に尿が漏れ始めた。

「ヤバイ・・・死神だ・・・!」


“どれほどの時間が経ったのだろうか・・・”


他のスナイパーの一人が素早くライフルを構え、彼に向ける。目は大きく見開かれ、呼吸も速い。


「おい!お前ら! 覚悟はあるんだろうな?!」

彼は、玉のような汗を流しながら、スコープ越しにその化け物を見つめる。


“どれほどの時間が経ったのだろうか・・・”


「今ここで、この悪魔を殺す!アズラエルを殺す!!!」


彼の目は大きく見開かれたまま、体から頭を浮かせ、強烈な印象を与える。アズラエルと呼ばれる生き物は、腕を横に伸ばしたまま地面に倒れた死体の前に立ちはだかった。その爪は鮮血に染まっていた。


「う、う、動くのさえ見えなかった......!」


スナイパーの一人が、その場に固まったまま言った。彼はもう動く勇気がなかった。彼の中には恐怖だけが残っていた。


“血と肉に痺れるのは何年ぶりだろう・・・”


アズラエルは瞬時に突進し、恐怖に打ちひしがれたスナイパーの胸を両足の爪で突き刺した。まるでバナナの皮を剥くように上半身を真っ二つに切り裂いて突き刺した。


「うおおおおおああああああ!!!」残るスナイパーの一人が、立て続けに数発の弾丸を放った。死神はまるでスローモーションで見ているかのように、一発一発を簡単にかわした。


“いつも同じだ・・・無力な顔、無駄な戦術・・・全てが消え去る・・・”


最後の二人のスナイパーが身を寄せ合い、銃弾を撃ち放ち始める。最初の弾丸が発射される前に、アズラエルは彼らの隙間を縫って飛び出し、尾をそれぞれの首に巻き付けた。

バキッ。

二人の首が横に倒れ、地面に倒れ込むと同時に2つの亀裂が聞こえた。


“真の絶望を前にして・・・”


「ガアアア!!!」死神は地響きのような叫び声を上げ、血まみれの戦利品が目の前に散乱している。

死神は四つん這いになって体を低く地面に押し付け、二列の歯を唸らせながら手足に力を込めた。轟音とともに群れを蹴散らし、基地の上空に舞い上がった。

その瞬間、砦の周りに散らばっていた兵士たちが天を仰いだ。それは、天空を飛び越え、一瞬、浮遊したように見えた。

隊長は「早く撃て!」と怒りの声を上げた。弾丸の雨が上空に降り注いでいった。


“この人たちはどうしたんだ。死しか待っていないことがわからないのだろうか。なぜだ・・・彼らは・・・”


弾丸は、空間がまるで固い地面でできたかのように、空中で蹴り飛ばされ、そのまま急降

下していく。


“走れ”


「危ない!!」

爆発した土埃と石が砦の中に散らばる。兵士たちは何かにつかまる者もいれば、あちこちに吹き飛ばされる者もいた。隊長はライフルをしっかり握り締め、壁の後ろにいた。

「生きてここから出られるわけがない、死神め!」

隊長の頭に未知の液体が滴り落ちてきた。そしてまた別のものも。


「なんだこれは・・・」

船長が顔を上げると、4つの飢えた目の視線にさらされた。

「この・・・!」

アズラエルは腕を振り下ろし、大尉の首の両脇に突き立てた。血しぶきが壁や周囲の兵士たちを塗りつぶした。

「隊長・・・」

「ああああああ!!!」

残された兵士たちは武器を捨て、殺戮から逃れるように様々な方向へ走り去っていく。


“もう作戦はない。もう武器はない。オレたちは・・・それを・・・止めることはできない。2年間、ずっとこうだった。飽くなき暴力の2年間だ”


その生き物は隊長の体の上に身をかがめ、背中の肉を引き裂いて喰らいはじめた。まるで薄いクラッカーででもあるかのように背骨を噛み切り、パチンという音が聞こえた。


“それは・・・我々は・・・許しがたいものだ、アズラエル”


ヒュルルルッ!

上空から大きな渦巻きのような音がして、その生き物は空を見上げた。基地の上空には軍用の大型ヘリコプターが配置されていた。そのヘリコプターは2つのプロペラを持ち、強い突風を発生させ、砂埃を巻き上げていた。その塵は、死神の食事の時間を邪魔した。


「グルルルルルル・・・」

その顔は怒りで皺を寄せ、浮遊するヘリコプターに牙を剥いた。その横には大きな文字で「Alpha」と書かれている。


“またこいつらか・・・”


ヘリは90度回転し、背中が基地に向いた。後部ドアのタラップがゆっくりと開き、後部開口部の端に2人の若い男が立っているのが見えた。一人はアフロをモヒカンに剃り上げ、両サイドを刈り上げている。

「ハジ軍曹、間に合ったか?」その隣には、同じような軍服に金髪の長髪をポニーテールに結った男がもう一人立っていた。二人ともオープンジャケットの下にグレーと黒のシャツを着て、肩にはハーネスらしきものをつけている。

金髪の男は両肩に数字の0があるのに対し、ハジは後ろに軍章が付いたAだけだった。

「もう何度も言ったが、俺に馴れ馴れしくするなよ、ゼロ。二等軍曹でいいんだよ。それに、俺たちは間に合ってないぜ」


ゼロは眼下に広がる殺戮と瓦礫を見下ろした。彼と死神は一瞬目を合わせた。

「お前があの有名な大量殺人死神のアズラエルか、あぁ?」ゼロは息を切らしながら囁いた。

「早とちりするなよ、ゼロ」ヘリコプターの暗闇から、同じ制服を着た3人目が現れた。上着は緑色で、乱れた黒髪に緑色の帽子をかぶっている。


瞳は乳白色だ。

「大目に見てくださいよ、隊長。あなたに頼ってばかりいては、俺はエース級とは言えない」そう言って、ハジは緑の服を着た男の肩に手を置いた。


「1つ、お前はいつも通り地上から応援を走らせるんだ。この獣を倒すには、俺たち全員が必要だ」


一人は半笑いを浮かべた。「任せてください。でも、他のメンバーも連れてきて欲しかったな。数人の精鋭だけで勝てるような戦いじゃないんだ」


ゼロはポニーテールを大きく風に揺らしながら、スロープの端に近づいてきた。「その反対だ、隊長!これで誰にも邪魔されずに最高の仕事ができる。そして、死神を倒した英雄として帰るぞ!」


ゼロの周りから、かすかな金色の光が放たれ始めた。

笑顔が消えた。「残ったものはトロフィーとして持ち帰る」


死神は突然立ち上がり、ヘリの後方を睨みつけた。


“なぜ今、あらゆる部分が緊張しているように感じるのか・・・あの金髪の男は誰なんだ?前回は一緒じゃなかったぞ・・・”


ゼロはパラシュート無しでヘリの後部から飛び降りた。

ハジはとっさに彼を掴もうとした。「ちょっと待て!」

ハジはすぐに彼を掴もうとしたが、その手は何も感じず、ゼロは彼の手の届かないところに落ちていった。


「歯を食いしばれ死神、こいつは痛いぞ!」


第一章終わり

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