始まりは、唐突であっけない
事の始まりは、何時だって唐突だ。自分の理解が及ばぬ出来事程その性質は顕著に感じられる。
そして大概、実際に気が付く頃には何もかもが後の祭だ。
その日も、普通より少しだけ恵まれた程度の、ありふれた1日だった。
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「ここ、どこだ?」
目を開けたらそこは一面野原で、後ろを見れば、眼下には町らしきものが見えて、つまりここは山か崖の上で―――
おいおい、これはどういう状況なんだ?確か俺はさっきまで花音と一緒に自分の部屋にいたはずじゃないか?夢か?
いやまて、俺だけじゃない、花音もいる。
...呼吸も脈も安定している。
花音はまだ倒れているが、もしこれが現実でも寝ているだけだ。
それにしてもこれは状況が飲み込めない。意味が分からない。
これじゃまるで転移だ。アニメやラノベで見る、異世界転移と同じじゃないか。
だが、今は21世紀の文明社会。
それは物理法則が許さない。
だとしたらやはり夢か?
自分の頬をつねる。
普通に痛い、というかさっきから頭が痛い。
これは現実なのか?いやまて、そもそもあの町に見覚えがあるぞ。
今はとりあえず冒険者ギルドに行って情報を聞きに――ん?冒険者ギルド?なんだこの記憶は。
思い出そうとしてみると魔術やら武術やらの記憶もある。
――――よし、一度整理しよう。
・まず、俺は家にいて花音と話をしていた。そしたら急に眠気がして、寝てしまった。
・目を覚ましたらここにいた。そして曖昧だが俺の知らない記憶がある。そしてその記憶というか知識の内容は様々で、詳しく思い出そうとしても、思い出せない部分もある。
・結論、状況や記憶から考えてここは別の世界で、この記憶は、この世界の人間のものである可能性が高い。
よし、段々整理がついてきた。
信じがたいが、ここは行動あるのみ。
何事も試してみなくては何も分からない。
さしあたり、この状況でまず何をするかというと、魔術を使えるかやってみることだろう。
何故って、もし使えれば、ここが異世界であると確定して、かつ新しい記憶の真否も確認できる。
まあ、本音はやってみたいっていうのと、もしできなかったら、花音に見られたくないってのなんだけどな。
ちなみに花音はまだ寝ている。
「よし、やるか~!」
この新しい記憶にある魔術について説明すると、まず、魔力という霊的なエネルギーがあり、それを己の魂を器として練り上げ、杖や体の一部を媒介として現象を産み出すというものらしい。
本来、その感覚は他の魔術が使える人に教えてもらうみたいだが、俺はこの新しい記憶が正しければできるはずだ。
そして魔術には属性があり、火、水、風、地、雷の基礎五種に派成形が山ほどと、特殊属性も山ほどあり、そこからさらに、初級、中級、上級、特級、皇級、伝承級、神話級と難度が分かれるらしい。
術の発動方法も、詠唱に無詠唱、魔法文字やその応用の魔方陣。特殊な方法も勿論あるという。
魔術に関しる知識は一度や二度では到底説明しきれない程とにかく多いので、また追々考える事にする。
とりあえずは、一番簡単で安全そうなウォーターボールから使ってみることにした。
「よし、来い!水球..!」
すると、俺が付きだした右手の前に直径50cmくらいの水の球が出来上がる。
そして、さらに追加で魔力を込めて、なにもない前方に向かって撃ち出してみる。
ヒュンッ
「すげぇ.....」
「え?」
水球の速度は想像の1.5倍は速かった。時速120kmくらいはあったのではなかろうか。
それにしても魔法が使えるってすごいな。
感動した。
正確には魔法ではなく魔術だが、異世界に転移して、そんな力を使えると知って試さない現代日本男児は存在しないだろう。
――なに?二つ声が聞こえたって?いやそんなバカな
「あっ」
「いや、『あっ』じゃないわよ!『あっ』じゃ!」
気づいたら花音が起きていた。
何となくの後ろめたさから花音に背を向けていたせいで起きた事に気が付けなかったのだ。
総介はどうする?
たたかう
にげる
→いいわけをする
総介はいいわけを始めた。
「いえいえそんな、おはようございます。今日は一面青空のいい天気ですね。ところでさっきのあれなんですがね、これには山より高く、海より深い理由がありましてね.....」
「そんなこと知らないわよ!大体まずここはどこなのよ!私さっきまで聡介の部屋に一緒にいたはずなのに、気が付いたらこんな草原にいて!けど、それだけまだならいいわよ。でもさっきのあれは何!?何もないところから急に水の球が出てきたやつ!意味が分からないわ!」
花音がものすごい勢いで疑問をぶつけてくる。
ただ、まあ誰だってそうなるだろう。
花音自身も言っていたが、気づいたら変なところに跳ばされていて、
しかもさっきまで喋っていた幼馴染みが魔法を使ってるときた。
そりゃあ動揺も混乱もするだろう。
なので、俺が目覚めてからしたこと、考えたことすべてを花音に話した。
記憶については話すか迷ったが、隠しても仕方がないし、全て話した。
というかなんか悪いことをしている気分になってごまかして言い訳なんかしようとしたが、別に何もやましいことなんてしてないよな。
これからはあれが当たり前になるかもしれないし別になんも悪くない。むしろ堂々としよう。
そうしよう。
「..ふーん。で、その記憶とやらにあった魔法を使ってみたって訳ね」
「そういうことです」
「で、これからどうするつもりなのよ」
「それなんだよな~~」
そう、問題はそれだ。
元の世界に帰るのか、この世界で生きるのか。
どちらにせよ、直近の行動をどうするのか。
「もちろん私は帰りたいわよ。ここがどんな世界かも知らないけど、あっちには家族がいるし、友達もいる。帰らない理由がないわ!総介はどうなの?」
「まあ俺も、帰りたいと思う..はずんだがな~~」
「どういうことよ」
「いや、それがな」
俺も勿論帰りたいと思う。
が、何か違和感のような、帰ってはいけないような気がするのだ。
そのせいで考えることをやめていたのだが、花音に言われては避けられない。
まあ十中八九新しい記憶のせいだろう。
だが、肝心のその記憶も靄がかかるような感じがして、思い出せないところがある。
それに、帰り方も帰れるかどうかも分からないし、俺の記憶を見ても、異世界に関わるところは、やはり靄がかかって、思い出せない部分が多い。
「今はそんな感じだが、分かるときが来ると信じて取り敢えずは置いておこう。これからこの世界で調べ、学び、帰るために努力はする。ただ、どちらにせよ今は帰り方が分からない。だからまずは今日、明日を生きていくために行動しないか?」
「そうね。で、まずはどうするの?」
「じゃあ早速今から近くの町に行こうと言いたいところだけど、一度、所持品の確認と俺の記憶の共有、花音も魔術が使えるかとか、できる準備をしてから行こう」
まあ、結論を先伸ばしにするだけだが、それでも、今焦って答えを出そうとするよりはよっぽどいいだろう。
今はできることを少しづつ地道にやっていくことだけを考えればいい。
「分かったわ。けど、総介がノリノリで魔法使ってたの、私忘れないから」
「勘弁してください」
そんなこんなで俺の――俺たちの異世界生活は、幕を明けた。
昔書いていた話を編集して書き直しました