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姫を破り捨てた夜

 アランディス卿は宿舎へと戻り、私が先導して姫様の部屋へと案内する。ギィと開けるとそこには見慣れた部屋があった。カーテンを開け、暗くなった室内にランプの光を灯す。


「すごぉい! 部屋広! きれーい! 」


 姫様は大満足のようだ。皇后にも会って、自分がシャルロッテ姫だという自覚が染み込んだのだろうか。


「気に入りましたか? 姫様? 」

「うん! 」

「ではまずはお風呂に入り、汚れを落としましょう。今日は私が姫様を連れ回してしまいましたから、お疲れでしょう? 私が洗い流しますね」

「お風呂って一人でやるものじゃないの? 」

「……いえ、貴族は常に数人の使用人に体を洗わせるのが基本ですが……」

「えぇ! そうなの!? 」

「ええ。ということで慣れましょうね、姫様? 」


にっこり私は口角を上げて微笑んでみせた。

 そのあと、姫様の悲鳴が上がったことを知っているのは私だけだ。




 なんだかんだ言って風呂に入り、温かい湯に浸かった姫様は布団に寝転がる。

 ぽかぽかして、ウトウトしているのだろうか? 香りの良いハーブティーを準備したポットとカップをサイドテーブルへと運び、姫様を覗き込む。すると目はぱっちりと冴えていた。


「おや、眠くないのですか? 姫様? 」

「……うん。……ねぇ、ルルー」

「はい? 」

「ルルーは、さ。今までシャルロッテだったじゃん」

「ええ」

「急に立場が下がってさ、私みたいな、しゃしゃり出てきたやつに使えなくちゃいけないってなってさ、物とかも全部奪われて……どう、思ってるの? 」

「何をです? 」


 ハーブティーを注ぎながら受け答える。


「だから! こんな私を、どう、思ってる? 」

「別にどうと言われましても、……恨んでいるとでもお思いですか? 」


 言葉に詰まる姫様に対して、穏やかな声で私は答える。


「私は、貴方様にある意味救われているのですよ。シャルロッテだった頃は誰にも愛されず、無意味な日々を過ごしていました。でも今は、……確かに私はただの平民へと成り下がり、下手すると命を失う可能性すら発生している訳ですが、あの頃よりも充足しているな、と感じていますよ」


 私は笑った。まだ姫様に出会って一日も経っていないのに、不思議と姫様は私に幸福を与えてくれる、そんな確信があった。


「さぁ、ハーブティーをお召し上がり」

「ルルーは凄いよ」


 シャルロッテ様は私の言葉を遮って言った。


「え? 」

「私じゃあ、そんな風には思えない。……ルルーは、凄いよ」


 至って真面目に言う姫様。


「今まで私も辛いことたくさんあった。けど、そんなに達観したルルーを前にすると私の苦難てそんなに大したこと無かったのかもって思えてくる。でも、やっぱりその境地に行くまでには想像のできないくらいの苦労があったと思うと、……ルルーは、凄いなって、思った」


 思いがけない姫様の言葉に心が突き動かされる。


「……姫様、……私泣いていいですか? 」

「ええ! 今!? 」


 心の闇が溶けてなくなるようだった。姫様はまるで太陽だ。……では私は姫様の月となろう。しっかりと補助できる、立派なメイドとなろう。

 ひとしきり泣き終えたあと、私は言った。


「姫様は私なんかよりも素晴らしい人格者ですね」

「え、そう? 」


 頬を少しだけ赤らめ、照れる姫様。


「ええ」


 これだけは自信を持って言える。

 これが私が姫という殻を破り捨てた夜の事だった。

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