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本物のシャルロッテ

 すぐに私は行動を起こした。幸い私には一人信頼を寄せる騎士がいた。名をカイル・アランディスと言い、幼い頃から世話になっていた人だった。早速カイルに私と似ている平民を見つけて欲しいと頼み込み、見つけると直ぐに私とカイルはその子の元へと向かった。住んでる場所は平民街のはずれで、森の入口の近くであった。こんな貧相な所に本物のシャルロッテはいるの? 馬車を降りると鬱蒼とした森があり、虫が沢山飛んでくる。不快感しかない。


「どうしてこんな所に用があるんです? 姫」


 カイルは私には絶対の信頼をしてくれているため、何も疑わずに15の少女のため、行ってくれた。有難いが、私は彼に何も伝えていなかった。……怖かったからだ。本物のシャルロッテを見つけてからその子を混じえて話そうと思っている。


「もう少しよ、もう少しで話してあげるから」


 わかりました、とカイルは言った。目前にある小さな小屋の扉を叩く。


「どなたかいらっしゃいますか? 」


 カイルが言う。


「あなたは誰ですか? 」

「私は騎士です。主人が貴方様に用があるようですので、こちらに伺いました」

「……どこの人です? 」

「王族のものです。」


 奥で酷く驚いたのだろう、ガタガタガッシャンと食器だろうか、物が落ちたり割れた音がした。


「わっ、かりました。少し待ってください」


 少しするとガチャりと扉が開いた。




 中には木製テーブルとソファがあり、奥には台所がある簡素な部屋があった。テーブルの上には湯気がたっているお茶が三つあり、気を使わせてしまったな、と思った。そして目の前の本物のシャルロッテを見る。確かによく似ていると思った。カイルは二人を見比べて目を大きく見開いている。本物のシャルロッテもそうだった。


「非常に驚いていると思いますわ。けど、話を聞いて下さらない? ルルー・マグノリアさん」


 席につき、私は話し始めた。


「唐突にお邪魔して申し訳ありません。私はシャルロッテ。この国の姫です、今は」

「……それで姫様という高貴なお方がどうしてこんな所に? 」


 訝しげながらも話を進めようとしてくれるルルー。


「じつは私は本物のシャルロッテ姫では無いようです」

「えっ! 」


 カイルが驚きの声を上げる。


「どういうことです? 」


 二人にどうして私が偽物と分かったかの経緯を話す。


「マクシミリアン宰相とデオン将軍が……そう、話していたんですね……? 」

「はい」

「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ本物はどこにいるの? まさか……」

「そのまさかです。貴方です。ルルー・マグノリアいや、シャルロッテ姫」


 絶句するシャルロッテ。


「なんで、来たの? 」


 わなわなと震え出すシャルロッテ。


「ふざけないでよ! 王族とか、なんだか知らないけど、今更……。……私はルルーなの! ルルー・マグノリアなのよ! シャルロッテ姫はあなたでいいじゃない! 」

「それは駄目だからここに来たのです。……近々シャルロッテ姫と隣国のユリシーズ王子殿下との婚約が発表されます。結婚となると血族を結び、血を残すことが重要視されます。……偽物の私ではいけないのです」


 拳にぎゅっと力を入れながら私は続ける。


「私も戸惑いました。それは本当なのか、と。でもそれだったら国王陛下と皇后陛下の理不尽な扱いにも納得が行くのです」


 父親であるはずの国王陛下は私には一切の愛情も貰っていない。母親であるはずの皇后陛下は私とあったことも無い。


「こうして来たのは、私が生き残る為です」


 ふと顔を上げるシャルロッテ。


「どういうことよ」

「このままいけば本物が現れ、偽物は消されてしまいます。つまり私は殺されるでしょう」

「…………」

「今ここに私が来たのは私が死なないようにするためです。私が今ここにいなくともいずれあなたは王宮に呼ばれます。もう一度言いますが、早めに来たのは私が殺されないようにするため、です」

「……あんたの命を救えっていうの?随分身勝手じゃない? 少なくとも今は王族ともあろうお方がさぁ」

「分かってます、分かってますとも。でも、このまま利用だけされて殺されるんですよ? 無念にも程がありません? 」


 少し自嘲じみた言葉になる。


「これはきっと何か理由があったんでしょう。でもこれに関しては私たちは悪くありません。だって、どちらも被害者です。ここで私を責めても変わりませんよ、シャルロッテ姫」

「っ! 私は」

「あなたはシャルロッテです。……これは、真実です」

「……なんであんたはそんなに冷静でいられるのよ……」


 シャルロッテの言葉にふっと笑う。


「冷静? ですかね、私」


 自分を笑う。冷静で居られてるの? 私は。


「私だって戸惑ってますよ。でもこうやって悲観的になってもきっと私は殺されるから……」


 じわじわと涙が溜まっていく。視界がぼやける。ぽたぽた、と堪えてきた涙が零れ落ちる。そっとカイルがハンカチを差し出す。


「か、いる」


 ハンカチを受け取り、涙を拭く。


「私は、味方、ですよ」

「カイル……」

「今までと同じですよ、本物じゃないとか、そーゆーの抜きであなたを信頼していますし」

「……ありがとう」

「……あーあ。やってらんないね」


 ルルー。そう、私をルルーと呼んで。


「さっきのあんたの言葉で分かったよ。どっちも悪くないっていうやつ。そうだね、これはあんたを責めても変わらないわ。…さっきはごめん」

「……いいえ、私こそ取り乱して申し訳ありません」

「認めたくないけど、私がシャルロッテであんたがルルー、なのね? 」

「はい」

「……わかった」


 がしがしと頭を搔きながら言う。


「で、どうすればいいの? ルルー」


 今度は私が驚く番だった。


「なぁに驚いてんのさ。……何か策があるんでしょ?」

「いえ、その、分かってくれた、んですか? 」

「うん。……認めなくちゃ、あんたがここに来た意味ないじゃん」


 この言葉に私は感極まり、余計に涙が溢れた。


「ちょ、あんた! 」

「姫! ……じゃなくて、ルルー! 」


 ああ、私は恵まれたのかもしれない。騎士と姫には、恵まれたのかも。

 そうして私たちは運命共同体になった。と同時に私はシャルロッテ姫では無くなった。ルルー・マグノリアになった。


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