第70話 大好きだから
私は、イルディンから告白されていた。
弟が抱えていた思いに、私はとても胸が苦しくなってくる。
「辛かったわね……イルディン」
「姉さん……」
私は、そんな弟をゆっくりと抱きしめた。
きっと、イルディンは今までとても辛い思いをしてきただろう。
「あなたの告白、嬉しいわ」
「嬉しい?」
「ええ、最愛の弟に好きだと言ってもらえて、私は今とても嬉しいの。あなたの気持ちにすぐに応えることはできないけれど、それだけは伝えておくわ」
私は、イルディンからの告白を嬉しく思っていた。
大好きな弟が、自分を愛してくれていたのだから、それを喜ぶのは当然のことである。
ただ、それをすぐに受け入れることはできない。今まで、弟として見てきてからだ。
だから、私はこれから考えていかなければならないだろう。イルディンとの関係のことを。
「……イルディン、あなたが私のことを好きというなら、婚約を断る必要なんてないじゃない」
「え? でも、なんだか、公平ではないというか……」
「別に、素直に喜んでくれていいのよ? 私と婚約できるというのは、恋が実るという訳ではないけど、ゴールは確定しているのだから、後はこれから頑張ればいいわ」
「これから?」
「ええ、私を惚れさせてくれればいいのよ。自分で言うのも変だけど、可能性は高いと思うわ。私、イルディンのこと大好きだもの」
「姉さん……」
イルディンは、自分がそういう気持ちを抱いていることで、この婚約を断ろうとしていた。
そういう誠実さは、とても素敵なことだ。一緒になる男性が、そのような人物なら、それはとても喜ばしいことである。
このように、私は基本的に弟に対する評価は高い。だから、きっと私は近い内に、イルディンに落とされてしまうだろう。
というか、もう半分落ちているようなものかもしれない。別に、今の感情でも、私はイルディンと一線を越えられるはずだ。なんというか、私は本当に弟のことが大好きなのである。
「……わかった。それなら、これから頑張らせてもらおうかな」
「ええ、イルディン。それでこそ、私の弟よ」
イルディンは、私を惚れさせる決意をしてくれた。
そういう風に思い切れるのも、この弟の良い所である。
「ねえ、イルディン……勇気を出したあなたに、一つご褒美をあげてもいいかしら?」
「え? 何を……」
「目を瞑って……」
「うん……」
目を瞑ったイルディンに、私はそっと唇を重ねた。
最近はしていなかったが、それは弟への定番のご褒美だ。
「なっ……」
私が唇を離すと、慌てている弟が目に入ってきた。
その顔がとても可愛らしくて、私はもう一度キスしたくなったくらいだ。
こうして、私は最愛の弟と婚約することになった。これから、私の感情がどう変わっていくかはわからない。
だが、私が弟を大好きであるということだけは、絶対に変わらないことである。




