第63話 夢を見ていて(イルディン視点)
「イルディン、起きて」
「え?」
姉さんの少し心配そうな声に、僕はゆっくりと目を開けた。
確か、僕は夢を見ていたはずだ。過去のことを振り返る夢だった。というか、姉さんとの思い出を振り返っていただけのような気がする。
「大丈夫? なんだか、少し苦しそうというか……変な感じだったから、起こしてしまったわ」
「え? あ、うん。ありがとう」
どうやら、僕はうなされていたようだ。
だが、僕が見ていたのは悪夢ではない。姉さんとの幸せな夢だ。だから、別に苦しい訳ではない。
唯一、ガルビムが出てきた夢は嫌だったが、それ以外は特に問題なかったはずだ。いや、姉さんと眠る時は苦労していたため、そこでうなされていたのかもしれない。
「僕は大丈夫だよ。色々と夢を見えていたけど、そこまで悪い気分ではないし」
「そうなのね……よかったわ」
上から顔を覗き込んでくる姉さんに、僕は少し緊張していた。
朝起きて、好きな人に顔を覗かれる。こんなことをされて、緊張しない者はいないのではないだろうか。
「どんな夢を見ていたの?」
「え? ああ、まあ、姉さんとの思い出を振り返るような夢だったかな」
「私との思い出?」
体を起こしながら、僕は姉さんの質問に答えた。
別に隠すことでもないため、姉さんには見た夢をそのまま伝えた。
しかし、直後にそれは誤りだったと理解する。なぜなら、姉さんの顔が少し曇ってしまったからだ。
「私との夢で、うなされていたのね……」
「あ、いや、そういうことではないよ」
「大丈夫、わかっているわ。私も、今までイルディンにひどいことをしてきたものね……」
「いや、そんなことないって……」
僕はうなされていたのだ。姉さんの夢を見て、そうなっていたのだから、こういう反応をされるのは当然のことである。
詰めが甘かったのだ。この予想できる事態は、簡単に防げた。やはり、僕はまだまだ未熟者であるようだ。
「ほら、最近は色々とあっただろう? そういう夢を見ていたから、うなされていただけで、姉さんにひどいことをされたとか、そういうことではないよ」
「そうなの?」
「そもそも、僕は姉さんにひどいことをされた覚えがないよ。正直言って、姉さんは滅茶苦茶甘いから、僕にひどいことなんてしていないよ」
「え? 私って、甘いの?」
「甘いよ?」
僕の言葉に、とりあえず姉さんは納得してくれた。
ちなみに、姉さんは自覚していないがとても甘い。甘すぎて、僕が依存してしまいそうになるくらいである。
そんな姉さんとの一日が、今日も始まる。この幸福な毎日が、いつまでも続いてくれることを願うばかりだ。




