第61話 動揺する提案(イルディン視点)
夢の中で、また場面が切り替わっていた。
今度は、以前眠れなかった日の場面だ。この時も、色々と大変だったことは、今でも鮮明に覚えている。
「ふぁ……」
「ふぅ……」
懐かしい本について語り合った後、僕達は眠たくなったのだ。
元々、眠るために語り合っていたので、それは正しいことだった。
だが、この後が問題である。姉さんのとんでもない提案が飛び出してくるのだ。
「イルディン、そろそろ寝る?」
「そうだね……そうしようか」
思えば、この時点で姉さんはそれを決めていたように思える。
というよりも、無意識にそうしようと思ったのだろう。
それは、喜ぶべきことなのだろうか。それとも、悲しむべきことなのだろうか。
「それじゃあ、本は机に置いておきましょうか。書庫に返しに行くのは、明日でいいわよね?」
「まあ、そうだね……」
僕が違和感に気づいたのは、この時だった。
何故か、姉さんがすぐに寝る気満々だったからだ。
「さて、明かりを消すわね?」
「え? あ、うん……」
姉さんが明かりを消したため、僕の困惑は最大になった。
どうして、今明かりを消すのだろうか。そのような疑問を抱いたからだ。
ただ、この時も姉さんが何を思っているかは、少しだけわかっていた。わかっていたから、困惑することになったのだ。
「イルディン? どうかしたの?」
「あ、いや、僕は自分の部屋に戻らないといけないと思って……」
「え? ああ、そういうことね」
僕が指摘すると、姉さんはやっと理解してくれた。
この年の姉弟が、一緒の布団で寝るというのはまずいことである。
特に、僕はとてもまずい。姉以上の感情を抱いているのだから、一緒に寝るとどうなるかわからないのだ。
「……一緒に寝ない?」
「え?」
「イルディンが傍にいてくれると、安心できると思うの」
そこで、姉さんがそんな提案をしてきた。
一緒に寝る。それは、単純ながら、僕をかなり悩ませる提案だった。
正直、僕は自制するべき立場にある。だから、この提案は断るべきだろう。
ただ、僕が傍にいることで、姉さんが安眠できるというなら、そうしてあげたいとも思っていた。眠れない辛さは、僕も良く知っている。だから、傍にいたいという気持ちもあった。
「……」
「イルディン?」
僕が決意したのは、姉さんが傍にいても、決して何もしないという決意である。
今回は、姉さんが安眠できるように傍にいるだけ。それを自分に言い聞かせておかなければ、僕はおかしくなってしまうだろう。だから、それを刻みつけなければならなかったのだ。
「……し、仕方ない。それなら、一緒に寝ようか」
「ありがとう、イルディン」
僕が提案を受け入れると、姉さんは笑顔で応えてくれた。
その純粋な笑顔を崩させないように、僕はしっかりと自制しなければならないのだ。




