第57話 早朝に目覚めて(イルディン視点)
僕は、ゆっくりと目を覚ます。
もう朝が来たのかと思ったが、そういう訳ではないらしい。まだ、外から光はほとんど入ってきていない。淡い光で、本来なら気にならないようなものだ。
どうやら、少し早めに起きてしまったらしい。その原因は、言うまでもなかった。隣で穏やかに寝息を立てている姉さんの存在である。
「まったく……」
コルカッサの村であった事件を解決して、家に帰って来てから、何故か僕は姉さんと同衾することになっていた。
なんでも、姉さんは、僕の隣だと穏やかに眠れるらしいのだ。最近、姉さんは心を痛めるような出来事が多い。だから、安心して眠れるなら、僕も協力は惜しまないつもりだ。
「ふう……」
ただ、姉さんが隣にいることで、僕は少し安眠できなくなっていた。
もちろん、僕にとっても、姉さんが隣にいてくれることは安心できることだ。その温かさを感じて、穏やかな気持ちになることはある。
だが、それだけではないのが、問題なのだ。僕は、姉さんに対して、もっと邪な感情を持っている。その感情が、僕の安眠を妨げてくるのだ。
「……」
僕は、姉さんに姉以上の感情を抱いている。
要するに、僕は姉さんのことを一人の女性として愛しているのだ。
僕は、姉さんとは血が繋がっていない。だから、この感情を得ることはそこまでおかしいことではないだろう。
しかし、この感情を得たことで、僕は姉さんとの接し方を改めざるを得なくなってしまった。以前までの無自覚な僕なら、姉さんからの好意をその全身で受け止められただろう。だが、それができなくなってしまったのである。
「難儀なことだよね……」
僕という人間は、自分でも中々に自制心が強いと思っていた。
なぜなら、目の前にいる無防備な姉さんに対して、何かしようとは思わないからだ。
いや、それは自制心が強いとは言わないのかもしれない。よく考えてみれば、何もしないのは今の関係を壊したくないからだ。ただ、姉さんの悲しむ顔を見たくないという気持ちもある。結局、僕の複雑な心は、自分でもよくわからないものなのだ。
「もう一眠り……できるかな」
僕は、姉さんから少し体を離してから、目を瞑った。
色々と思う所はあるけれど、僕はこの日々を幸福に思っている。姉さんも言っていたが、できることなら、この日々がずっと続いてくれればいいと思う。
だが、それが無理なことであることは理解している。いつか、僕も姉さんもどこかの貴族と結ばれるだろう。恐らく、それは避けられないことだ。
だから、今はこの幸福な日々を噛みしめていたい。ただ、流れていく日常をゆっくりと味わっていたいのだ。




