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浮気されたので婚約破棄して、義弟と気ままに暮らしています。元婚約者が女性関係で困っているようですが、私には関係ありません。  作者: 木山楽斗


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第55話 無数の刃

 私とイルディンは、ダルケンさんや村の皆とともに害獣に対処していた。

 イルディンの一撃により、害獣は傷を負っている。その体から流れる血液を止めなければ、命はないだろう。


「グゴッ……」


 そんな害獣がとった行動は、逃げるという行動だった。

 距離を取っていた私達は、その行動を見て、走り始める。背中を見せて逃げる害獣を、追いかけて仕留めるためだ。


「グガッ!」

「あれは……!」


 次の瞬間、害獣は私達が待機していた家に突っ込んだ。

 傷を負っていても、その牙の威力は健在である。家の壁を突き壊して、家の中に入っていったのだ。

 だが、それは悪手である。なぜなら、あの家の中にはこの村からかき集めた武器が置いてあるからだ。

 武器の中には、壁に立てかけたりしているものもある。壁を突き破って入っていた害獣は、当然その武器の山に襲われるのだ。


「グガッ!」


 しかも、武器は足元にも置いてあった。

 その武器に足を取られて、害獣はその体勢を崩していく。


「……今が好機でしょう!」

「ええ!」


 イルディンとダルケンさんは、その隙に一気に害獣との距離を詰めていた。

 確かに、二人の言う通り、今が好機である。害獣が立ち上がらない内に、一気に勝負を決めるのだ。


「俺達も行くぞ!」

「おおっ!」


 村人達も、二人や私とともに害獣との距離を詰めた。

 今なら、あの獣の俊敏性は奪われている。故に、その牙で突き刺される危険性も低いだろう。


「はあああ!」

「やあああ!」

「グゴッ……」


 次の瞬間、無数の武器が害獣の体を突き刺した。

 いくら害獣が強大で丈夫であっても、無数の武器を刺されて、生きている程ではない。

 先程までの俊敏性が嘘のように、害獣は動かなくなった。その命が、尽きたのである。


「ふう……これで、終わったのよね?」

「ああ、そのようだね」


 私の質問に、イルディンはゆっくりと頷いてくれた。

 その瞬間、体から力が抜ける。流石に、とても疲れてしまったのだ。


「姉さん、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう、イルディン」


 そんな私の体を、イルディンはゆっくりと支えてくれた。

 ただ、その手が少し震えていることに、私は気づいた。どうやら、イルディンもかなり疲れているようだ。


「イルディンは、大丈夫?」

「流石に、疲れたけど、問題ないよ。正直、剣を突き刺した時は、ひやひやしたけどね……」


 イルディンは、獣に剣を突き刺した時の恐怖に震えているようだ。

 それは、当然だろう。あの凶悪な獣に近づいて剣を刺すのに、どれだけ勇気がいるだろうか。それは、想像がつかない程である。


「よく頑張ったわね、イルディン……」

「ありがとう、姉さん……」


 私にできたのは、イルディンを褒めることだけだった。

 本当に、この弟はよくやってくれた。頼りになる強い弟で、私まで誇らしくなってくる。

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