第53話 出てきた獣
私とイルディンは、害獣に対抗するために、待ち構えていた。
この場には、私とイルディンしかいない。罠も仕掛けていないため、害獣はきっと出てくるだろう。
害獣が出てきたら、近くの家で待機している皆が出てくる。そうなれば、後は多対一で決着をつけるだけだ。
「姉さん、あれを……」
「ええ、出て来たみたいね……」
私達が待っていると、茂みの中から巨大な獣が現れた。
四足の足に、巨大な牙。さらには、左目の傷。間違いなく、あれが件の害獣だろう。
「あの牙で、ログバンさんは貫かれたということか……実際に見てみると、よく助かったと思ってしまうよ」
「ええ、あんなもので貫かれたら、普通は一撃ね」
害獣を見て、私達は驚いていた。
その特徴的な牙は、とても巨大なものだ。それに貫かれたら、まず命はないものと思った方がいい。
ログバンさんは、刹那に一撃を浴びせられたようだが、普通の人間にそれは無理だろう。鍛え上げられた騎士以外は、そんなことができるはずがない。
「さて、姉さん。出て行くよ」
「ええ……」
私とイルディンは、意思を固めて、飛び出した。
私達で、まず害獣の気を引くのだ。
「グフッ……」
私達が出て行くと、害獣は大きく鼻を鳴らした。
だが、別段焦っているようには見えない。私達など、取るに足らない存在だと思っているのだろう。
実際、実力を考えれば、そう思うのも仕方ない。私達だけでは、この獣に対抗できはしないだろう。
しかし、今はそれが好都合である。油断していればしているだけ、今は都合がいいのだ。
「グフッ?」
「え?」
「あれは……」
そこで、害獣は私の方に顔を向けてきた。
その動作は、少しおかしいものである。
私は害獣から見て、左側にいた。その私を見るために、獣は大きく頭を動かしたのだ。
「考えてみれば、当然か……あの目は見えていないのだろうね」
「そのようね……」
害獣は、ログバンさんによって左目を切り裂かれていた。
その左目の負傷は、未だ完治していないようだ。そのことは、私達にとってはとても幸運である。あの害獣は、左側が死角であるという絶対的な弱点を持っているのだ。
「ログバンさんが、傷をつけたことには、大いに意味があったみたいだね」
「ええ、本当に、手練れの騎士だったみたいだわ」
「私としても、嬉しいですね。同じ騎士として、彼のことを誇りに思いますよ」
私達の会話に、入って来る人がいた。
それは、ダルケンさんだ。近くの家で待機していた皆が、作戦通り出てきたようである。
「グフゥ……」
害獣も、人が一気に増えたことに驚いているようだ。
流石に、この人数差はまずいと思っているのかもしれない。
こうして、私達と害獣との戦いが始まったのである。




