第51話 心配されても
私とイルディンは、ダルケンさんとともに、とある家に来ていた。
ここは、害獣に襲われ兼ねない位置にあるため、避難した人の家である。害獣の出現場所に近いため、ここを拠点に作戦を開始することになったのだ。
「……姉さん、やっぱり、危ないよ。姉さんは、今回の作戦に参加しない方がいいよ」
「イルディン? まだそんなことを言っているの?」
その家の中で、イルディンは私のことを心配してきた。
心配性な弟は、この戦いに私が参加することに反対していた。
イルディンが、そういう子であることはもちろん理解している。その心配は、嬉しいものだとも思う。
だが、この段階でまだ言ってくるのは、流石にしつこい。もう作戦も決行されるのだから、覚悟を決めて欲しい所である。
「だって、害獣と戦うんだよ? 姉さんが危険な目に合うのは……」
「イルディン、あなたはわかっているでしょう? 私だって、武芸は学んできたわ。戦えない訳ではないのよ?」
「それはわかっているよ。でも……」
「この村にいる領民達に集まってもらっているのに、領主の娘である私が逃げていられる訳ないじゃない。戦う力も持っているのだし、先頭に立って戦うのが、義務みたいなものよ」
「そんな……」
イルディンが何を言っても、私は下がりたくなかった。
現在、この家にはこの村の腕自慢達が集まっている。腕自慢といっても、彼等は平和に暮らしていた平民だ。そんな彼等を戦わせるのに、私が下がってはいられない。
戦う力を持っていないなら、また別かもしれないが、私はその力を持っている。それなのに、後ろに下がっているなど、彼等に示しがつかない。ここを治める者の一人として、私は前に立たなければならないのだ。
「アルネメア様、別に俺達は下がってもらっていても構いませんよ」
「ええ、こういうことは俺達みたいな荒くれ者がやる方がいいですよ」
「あなたのその心意気だけで、俺達は満足ですよ。あなた達の領民で良かったと思えますからね」
そんな私の耳に入ってきたのは、集まった村の者達の言葉だった。
優しい村人達は、私を参加させなくていいと思ってくれているらしい。
しかし、そういうことを言われると、益々前に立ちたくなる。この人達を守りたい。そのような思いが強くなってしまうのだ。
「姉さん、皆もこう言っているのだから……」
「イルディン、皆の気持ちは嬉しいけど、私の気持ちは変わらないわ。前に出て戦う。それが、私達の使命なのよ」
イルディンの言葉に、私は堂々と返した。
しかし、その答えに弟は納得していない。どうしても、私に下がっていてもらいたいようである。




