第50話 戦える者は
私とイルディンは、この村に来た騎士であるログバンさんに話を聞いていた。
ログバンさんは、健闘虚しく、害獣に負けてしまった。それ自体は、仕方ないことである。
だが、問題はその後だった。騎士団は、ガルビム様の事件で手が空いていないと、援軍要請を拒否したのだ。
「騎士団を監査する身として、謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした」
「ダルケンさん、頭を上げてください。今はそれを気にしている場合ではありません」
ダルケンさんの謝罪を、イルディンは否定した。
その件を謝罪されても、何も解決ならないから、賢い弟はそうしたのだろう。
騎士団の愚かなる行いは、追及されるべきことである。だが、追及しても、すぐにこの村に騎士が来る訳ではない。今重要なのは、目の前の問題をどうするかなのである。
「……事情は大体わかりました。結論としては、害獣はまだ倒せておらず、この村の問題は解決していないということですね?」
「情けない話ですが、そういうことです。お力になれず、申し訳ありません」
「いえ、あなたの戦いは無駄ではありません。おかげで、害獣がどのような生物なのかわかったことは収穫です」
謝罪するログバンさんに対して、イルディンはそのように言った。
確かに、この勇気ある騎士が色々と試してくれたおかげで、害獣がどのような生物なのかはわかった。それは、かなり大きな収穫である。
その収穫を生かせる騎士が来なかったことは問題だが、今はそれを気にしている場合ではない。今いる者達で、この収穫を生かすしかないのだ。
「村長、この村に戦える者はいますか?」
「腕っぷし自慢は、何人かはいます。ただ、あの獣に対抗できるかどうかは怪しい所です」
「そうですか……ただ、声をかけて頂けますか? 強制はしませんが、協力してもらえるなら、協力してもらいたいので」
「わかりました」
イルディンは、まず村長にこの村に戦える人がいるか聞いた。
害獣が、一対一で戦えるものではないことは、ログバンさんが証明してくれている。だから、今は、戦力が一人でも欲しいのだろう。
「ダルケンさん、聞くまでもないかもしれませんが、協力してもらえますか?」
「ええ、もちろんです」
次に、イルディンはダルケンさんに協力を要請した。
といっても、これは決まっていたようなことだ。騎士であるダルケンさんが、協力しないなどということはあり得ないことだろう。
「僕とあなたを中心として、作戦を立てましょう。それで、害獣をなんとしても討伐しましょう」
「ええ、わかりました。では、まず作戦を立てなければなりませんね」
「ええ」
害獣に対抗するには、作戦が必要だった。
知性ある獣に対抗するには、それなりの作戦が必要だろう。




