第49話 ある騎士の戦い
私とイルディンは、ダルケンさんとともに村長の家に来ていた。
そこで、私達はこの村に派遣された騎士であるログバンと出会った。彼は、必死に戦ったが、この村を荒らす害獣に対抗できなかったようである。
「害獣は、自分が想定していたよりも、かしこく凶悪なものでした。最初は、罠を仕掛けて、捕獲しようとしたのですが、害獣は罠にまったくかかりませんでした」
「罠を理解していたということでしょうか?」
「ええ、そうなのだと思います。罠を張っていると、この村の人々の生活にも支障が出ます。そのため、自分は罠を解き、直接害獣と対峙することに決めました」
罠を張っても、害獣は捕まらなかったようだ。
それ程までに、知性を備えているということだろう。
それは、かなり厄介なことである。当然ではあるが、知性が高ければ高い程、対処は難しくなるからだ。
「自分は、隠れながら、害獣が来るのを待っていました。罠がないと、害獣は意外にも簡単に出てきました。今思えば、奴はこちらの実力を理解して、出てきたように思えます」
「それで、ログバンさんは害獣と戦ったのですか?」
「ええ、戦いました。ですが、それは誤った判断だったといえます。あの害獣と一対一で戦うのは得策ではありません。奴の速さに、人間が追いつくことはできません。奴に攻撃をすることも、奴の攻撃を防御することも、とても叶いませんでした」
害獣と直接対峙したログバンさんは、まったく歯が立たなかったようである。
知性を備えながら、身体能力も高い獣。それに、人間が一人で立ち向かっても、敵わないのは当然のことである。
「結果的に助かりましたが、これは運が良かったからです。奴が近づいてきて、その牙が自分の腹部を刺す際、たまたま自分の剣が奴の左眼を切りました。それで、なんとか退散してくれたという訳です」
「一太刀は浴びせられたわけですか……」
「はい。しかし、当然、致命傷にはなりません。奴は、次の日からまた作物を荒らすことを再開しました」
ログバンさんは、たまたま剣が当たったことで助かったらしい。
たまたまといっても、普通の人はそんなことはまずできないはずだ。そのため、彼の実力が高かったから、こうなったと考えた方がいいだろう。
つまり、害獣は実力者を沈められる程に強力だということである。それは、とても恐ろしいことである。
「もちろん、自分は騎士団に援軍を要請しました。しかし、何やら公爵家の三男の事件で忙しいらしく、自分の要請は却下されてしまいました」
「それは……」
「そんな……」
ログバンさんの言葉に、私とイルディンは顔を見合わせた。
どうやら、この問題が解決しないのは、ガルビム様の事件も関係していたらしい。それに人員が割かれていたため、ここに増援が来なかった。それは、なんとも辛いことである。




