第39話 とある村の事件
私とイルディンは、休憩を切り上げて、業務を再開していた。
「うん?」
そんな中、静かだった弟が急に声をあげた。
その視線は、一枚の書類に向いている。
「イルディン?」
「あ、姉さん。ごめんね、急に声を出してしまって……」
「別にそれは問題ないわ。それより、何があったの?」
イルディンは、声をあげたことを謝ってきたが、重要なのはそこではない。
この冷静な弟が、業務中に声をあげた。それは、かなり驚くべきことがあったからではないだろうか。
その内容の方が、私は気掛かりである。書類を見ていることから、それは領地で何か問題が起こったということだ。深刻な問題が起こっているのではないか。そのように、心配してしまうのである。
「実は、とある村で作物が荒らされている事件が発生しているんだ」
「作物を荒らす事件? 誰かが荒らしているということかしら?」
「あ、いや、人為的なことではないよ。獣による被害さ」
「獣による被害……」
どうやら、イルディンが見ていたのは害獣被害に関するものだったようだ。
作物を荒らす獣というのは、そこまで珍しいものではない。しかし、賢い弟が気にしているということは、何か特別なものなのだろう。
「それに、どういう問題があるのかしら?」
「実は、この報告は以前もあったんだ。それから、しばらく経っているけど、一向に収まる気配がないというのが、気になってね」
「一向に収まる気配がない……確か、そういうことの被害が深刻な場合は、騎士にお願いするわよね?」
「うん。だから、その騎士が何もしていないか、その騎士でもどうにもならなかったかのどちらかではないかな?」
害獣被害は、以前から出ていたにも関わらず、解決していないらしい。
こういう事件の解決に当たるのは、騎士の仕事である。イルディンも、当然のことながら、騎士に要請は出していたようだ。
しかし、事件が解決していないということは、その騎士が何もできなかったということだろう。
騎士といっても、端から端まで色々な人がいる。真面目に仕事をする者もいれば、しない者もいるだろう。今回の件を担当した騎士がどういう人物かわからないが、どちらにしても、解決することはできなかったということである。
「それで、イルディンはどうしたいの?」
「……直接、見に行ってみたいと思うんだ。この報告書だけでは、現地の状況を知るには限界がある。騎士がどうなっているのかも気になるし、色々と見てみたいかな」
「ええ、それなら、そこに行ってみましょうか」
「うん」
イルディンは、現地に赴くことに決めていた。
実際に状況を確かめたいらしい。それなら、すぐに行くべきだろう。実際に困っている人達がいるのだ。対処は早ければ早いほどいい。




