第32話 一日の始まり
私は、イルディンと布団の中で密着していた。
色々と話したが、結局私達姉弟は変わりそうにない。いつもでも、お互いに甘えて、一緒にいることになりそうである。
「さて、それでも、そろそろ起きないといけないわね」
「そうだね。なんだか、とても長い時間話していた気がするよ」
そこで、私とイルディンはゆっくりと体を起こした。
色々と話していたため、結構な時間を布団の中で過ごしていた。予定がないとはいえ、いつもでもここにいる訳にはいかない。起き上がって、一日を始めるとしよう。
「さて、今日も何事もなければいいけど……」
「何事もない? 何か、問題になるようなことがあったかしら?」
「え? いや、その……ガルビム様の事件というか、なんというか……」
「あ、そういえば、そんな問題があったわね……」
能天気な私は、イルディンとの関係性のことで頭がいっぱいになっていた。
そのため、とても重要なことを忘れていたのである。
そういえば、私は現在、ガルビム様の事件の容疑者として疑われているのだった。
もしかしたら、今日も騎士達が訪問してくるかもしれない。その結果、嫌なことになる可能性は大いにある。
「あはは……」
「あ、イルディン……まあ、仕方ないことだとは思うけど……」
流石のイルディンも、そんな重要なことを忘れていた私には笑っていた。
確かに、自分でも何故忘れていたのか不思議なくらいだ。
そもそも、私とイルディンがこのように同衾していたのも、全てあの事件が発端である。そんな事件を、どうして忘れることができるのだろうか。
なんだか、少し恥ずかしくなってきた。私というものは、本当に能天気すぎるのではないだろうか。
「いや、ごめん。でも、姉さんは本当にあの事件のことが、すっかり頭から抜け落ちていたんだね?」
「そうみたいね……自分でも、呆れるくらいすごいわ」
「ああ、別に僕は姉さんを笑った訳ではないよ。嬉しくなったから、笑ったんだ」
「嬉しくなった?」
てっきり、私はイルディンが私を馬鹿だと思って笑ったのだと思っていた。しかし、そういう訳ではないようである。
嬉しくなって笑った。それは一体、どういうことなのだろうか。
「だって、昨日あれだけ辛そうにしていたのに、これだけ元気になったんだ。それは、嬉しいことだよ。あの騎士達が何を言ったって、姉さんには効きやしない。それが、嬉しくて仕方がないのさ」
「そ、そうなのね……」
「それに、それだけ、僕といて安心できたというだよね。それも、嬉しいかな」
イルディンは、本当に嬉しそうにしていた。
それだけ、私が元気になったことを喜んでくれているのだろう。
そんな笑顔を向けられると、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。本当に、この優しい弟は私に力をくれる存在だ。
「さて、姉さん。今日も一日頑張ろうか」
「……ええ、頑張りましょうか」
私達は、ゆっくりとベッドから下りていく。
こうして、私達の一日が始まったのである。




