第30話 実際の気持ち
私は、布団の中でイルディンと密着していた。
これで、聡明な弟なら、私に近づいても何も問題がないことを理解してくれはずだ。
「姉さん……もうわかったから、別に離れてもいいんじゃないかな?」
「え?」
「いや、もう理解したから、引っ付いている理由はないし……」
そこで、イルディンが私に離れるように言ってきた。
どうやら、この弟は、私と近くにいることを恥ずかしがっているようだ。
やはり、少し大人になった弟にとって、姉と近づくという行為は気遣いを抜きにしても、避けたいことらしい。
それは、少し悲しいことだった。昔はむしろ私から離れなかったのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。
だが、それが大人になるということなのだろう。姉離れして、一人前になっていく弟に対して、私は本来なら喜ぶべきなのだ。
「うん?」
「姉さん? どうかしたの?」
自分を納得させて離れようとした私だったが、そこであることに気づいた。
よく考えてみれば、この弟は私に膝枕を要求したりしていた。そんな弟が、本当に私と離れたいと思っているのだろうか。
もしかしたら、本心では離れたくないと思っているかもしれない。そう思った私は、離れることを一度中断することにする。
「イルディン、少し聞いてもいいかしら?」
「え? 何かな?」
「イルディンは、私と引っ付いていたいと思っている?」
「え?」
私は、イルディンに気持ちを聞いてみることにした。
実際の所、甘えん坊だった弟は、どう思っているのか。それは、かなり気になる所だ。
「例えば、私と引っ付いているのは嫌だとか、そう思っているの?」
「別に、嫌とは思っていないけど……」
「それなら、恥ずかしいと思っている? こんな年になって、姉に甘えるのはどうだとか、そういう気持ちになっているの?」
「まあ、それは少しあるかな……」
イルディンは、私と引っ付いていること自体を嫌に思っている訳ではないようである。
だが、恥ずかしいという気持ちはあるようだ。成長した自分の年齢を考えて、そのように考えているようである。
「それで、イルディンは結局、私と引っ付いてどう思っているの? 嬉しいと思っているの? それとも、嫌で仕方ないと思っているの?」
「……嬉しいとは思っているかな。でも、恥ずかしいというか……やめないといけないと思っているというか、なんというか、そういう微妙な感情だね」
「そうなのね……」
イルディンの心境は、中々複雑であるようだ。
嬉しいが、やめなければならない。その狭間で、この弟は戦っているのである。
そんなイルディンに対して、私はどうするのが正解なのだろう。突き放すべきなのか、それとも私の方は敢えて近づくべきなのだろうか。こちらも、中々難しいことである。




