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白銀の雪

作者:

雪……それは見るもの全ての心を真っ白に洗い流してくれる魔法の物質…



「はぁ…今日も仕事は見つからなかったな…」


俺はつい最近、リストラされてしまった。


最近は不景気だからしょうがないのかもしれない。


今年で43歳の誕生日を迎えたが、こんな歳ではなかなか仕事も見つからない。


リストラされてから明日でちょうど1ヶ月になる。


再就職は難しいとわかってはいたが、まさかこれほど大変だとは…


貯めておいた貯金も1ヶ月の生活費でほとんど無くなってしまった。


所持金は千円札一枚と小銭がちょっと。


家賃が払えなくなり、住む場所も無くなった。


家族はいない。


女性には全くえんがなく、手を繋いだ事すらない。


早く仕事を見つけなければ飢え死にしてしまいそうだ。


今日も手当たり次第にバイトを探して、面接を受けてきたのだが、どこも雇ってはくれなかったのだ。


「はぁ…」


俺がため息を吐くと、真っ白な息が出た。


今は冬だ。


当たり前のように寒い。


そのうえ、雪まで降っているのだから余計に体温が奪われる。

雪は積もってないが、時間の問題だろう。


住む場所がないので、路上で寝ることになるのだが雪が降っているので気が引けた。


「雨宿りならぬ雪宿り出来る場所を探して今日はそこで寝よう」


俺は独り言をつぶやいて見せた。


我ながらうまいことを言ったと自画自賛してみる。


退屈だ…


俺は雪の降る道を歩き回り、寝る場所を探した。


道路には車が走っており、歩道には人が歩いている。


ごく普通の光景だが、道行く人々を見てうらやましいと思った。


みんな仕事をやっていたり、親にご飯を食べさして貰っているように見えたからだ。


毎日三食、食卓にご飯が並ぶ光景が一般的なのだ。


俺も1ヶ月前まではそんな一般的な生活をおくっていた。


リストラによっていきなり窮地きゅうちに追い込まれた。


そのストレスのせいか、俺の髪は所々抜け落ちてしまった。


「お、良い場所だな」


俺は一人でつぶやいて寝るのに最適な場所を見つけた。


マンションの地下だ。


俺が立っている歩道から階段が降りていて、マンションの地下へ繋がっている。


階段を降りて地下の様子をうかがったが、どうやら駐車場のようだ。


車があちこちに駐車してある。


俺は車の後ろに空いたスペースを見つけ、そこに寝転んだ。


「よし、寝るぞ」





ぐぅ〜〜


腹が鳴った。


俺は腹を満たすために駐車場を出て、近くのラーメン屋でチャーシューめんを頼んだ。


「いただきます」


俺は割り箸を割りながらつぶやいた。


ラーメンは雪によって奪われた俺の体温をあたためてくれた。


やはり冬の日にラーメンは合う!


「ごちそうさま」


俺はそう言って会計を済ませた。


490円も持っていかれた…


これで俺の所持金は500円玉が一枚と10円玉が少し。


合計で520円だ。


俺の全財産はあと一食で無くなってしまう…


俺はラーメン屋をあとにして、さっきの駐車場へ戻ってきた。


寒かったが、意外に早く眠りにつくことが出来た。


………


……



「んあ…」


俺はそんな間抜けな声をあげながら目をました。


俺が起きると必ずやることがある。


財布チェックだ。


俺が寝ている間にられてしまったら大変だからだ。


とは言っても500円しか持っていないのだが…


俺は眠たいまなここすりながら駐車場から地上へ出た。


「……綺麗だ…」


俺が見たのは一面の銀世界だった。


「やはり積もったか…」


積もるとは思っていたが、まさかこんなに積もるとは…


厚さ10センチ程に積もった真っ白な雪。


見ているだけで心が洗われているみたいな感覚におちいる。


「さて、仕事を探すか!」


俺は自分自身に言って気合いをいれた。


仕事を探して1ヶ月…


このまま仕事を見つけられなかったどうしようと不安になる。


だが、白い雪を見ていると仕事が見つかりそうな気がした。


俺はコンビニへ向かい、仕事がっている本を手に取った。


年齢制限が無い仕事を見つけ、電話をするとすぐに面接へ呼ばれた。


俺は再び気合いをいれて面接を受けに行った。


雪がかなり積もっているので歩きづらかったが、頑張って面接会場を目指す。


すると大きな十字路にたどり着いた。


ここを真っ直ぐ行けばたどり着く。


信号が青になったのを確認し、俺は歩き始めた。


………


面接会場へたどり着いたときにはすっかり俺の身体に雪が積もっていた。


俺は入り口に入る前に身体についた雪を払い落とした。


そして、面接が始まった。


「お名前は?」


面接官に訊ねられた。


斉藤さいとう秀一しゅういちです」


………


……



結果は………


採用!


なんと明日から働かせてもらえるようになったのだ。


嬉しさをおさえきれずにスキップをしながら十字路を渡った。


だが…次の瞬間。


大型のトラックが俺のすぐ近くにせまっていた。


俺は喜びのあまり、信号無視をしてしまったのだ。


トラックの運転手は飛び出して来た俺にぶつからないように急ブレーキをかけたが、雪が積もっていたせいでスリップしてしまい止まれない。


俺の頭の中は真っ白になった。


ドン!


鈍い音と共に俺の意識は一瞬で吹っ飛んだ。



雪……それは見るもの全ての心を真っ白に洗い流してくれる魔法の物質…


時々、頭の中でさえも真っ白に変えてしまう事がある…


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