0099 ハーレムの主は俺一人でいい、ヒャッホーイ! 女共は俺一人のもんだァァ!
深夜。俺達はひそかに川縁まで来ていた。
女騎士のアリーナ様は、オイゲン将軍が戻るまではと、不眠不休で野営地の指揮を執っていた。俺は彼女にはきちんと事情を話した。
「皆さんが増援に来て下さいましたし、明日には城から本隊も到着するとの事です……この場はもう私共が居なくても大丈夫でしょう」
「勿論、我々はウサジ殿に頼らず魔族兵と渡り合ってみせる所存だ。しかし、本隊が到着したら今度は我々が逆に、ウサジ殿の護衛の為に兵を割こうと考えていたのだが」
「大丈夫ですよ。我々は勇者ノエラのパーティですから。ただ」
ここがちょっとしんどい所だが……やっぱりジュノンは連れて行けない。
勿論連れて行ったら役に立つのは解るし、一生懸命やってくれてるのは知ってるけど……ここから先には人里もないのだ。補給も覚束ない荒野に、小道具係の仕事があるかどうか。
俺達は上流に逃げた魔族兵の舟の追撃ではなく、川を渡った森に逃げた魔族兵達を追跡してみる事にしたのである。前者はオイゲン達がやってくれるからな。
「ジュノンは魔族兵の卑劣な呪いによって弱体化しています。どうか彼が自棄を起こさないよう見張って、そして皆さんの戦いの支援をさせてやって下さい。戦闘こそ出来ませんが、有り得ないくらい役に立つ後方支援のエキスパートですから」
悪いなジュノン。アスタロウをとっ捕まえたら、必ずお前を男に戻す方法を聞きだしてやるから。何なら多小、非人道的な手段を使ってでも。
ここから先は、最低限自分の身は自分で守れる奴しか連れていけない。
◇◇◇
俺達四人はボートに乗る。漕ぎ手は二人の兵士が引き受けてくれた。ラガーリンも二人、途中までの案内をすると言って乗ってくれている。
「皆、健闘を祈る……クレール……いい人を見つけたな」
「うふふ。アリーナ様も早くいい男を見つけてね!」
「言ったな……!」
女騎士のアリーナ様は苦笑いをしつつ、川縁で見送ってくれた。あんな美人なのに仕事熱心過ぎて彼氏居ない歴=年齢なんだと。やっぱり行くのやめようかな。アリーナ様、俺と付き合いませんか? まずはお互い紳士と淑女らしく、婚前交渉から始めましょう。
アリーナ様のずっと後ろでは、ソーサーがこちらに向かって土下座をしている。あいつ、一番意味わからん奴だったな。
川を渡った俺達はボートを降りる……兵士達はここまでだ。
「お気をつけて!」
ラガーリン達は先行して葦原の縁を、音を立てぬようすり抜けて行く。鎧や剣などの鳴り物を身につけていない俺達も、ごく小さな音を立てつつ後を追う。
時々ラガーリン達は立ち止まり、ごくごく小さな虫の音のような笛を鳴らす……それが鳴ったら、止まって身を隠せの合図だ。
俺が岩陰でじっとしていると、野生のイノシシがのんきに近くを通った……奴はこちらに気づいたが、岩陰でじっとしているのを見て脅威と感じなかったのか、そのまま歩いて去って行く。
「ねえ、ウサジさん」
俺が去り行くイノシシを見ていると、ノエラが小声で声を掛けて来る。
「ジュノンは……少し可哀相だったね」
「仕方ありません、彼は魔族兵と一対一で戦えるレベルに達していません……追放も止むを得ないでしょう」
俺は敢えてその危険ワードを使う……しゃーない、俺が置き去りにしたのは確かだよ。その手口はあの金髪キザ野郎と何ら変わらんし、祟られてざまぁされるなら俺でいいだろ。
「ウソだよ……ウサジさんはそんな理由でジュノンを追放したんじゃないもん。ウサジさんは、ジュノンがまた自分の身代わりになって敵の攻撃を受けたら嫌だから置いて来たんだ」
バ……バカな事言わないでよ! そんな事考えてないんだから! アタシ別にあいつの事好きじゃないし、あんな奴どうなってもいいと思ってるんだから、勘違いしないでよね!
「女の子になったジュノン、可愛かったね……ショートカットで自分の事を僕って呼ぶキャラは、僕と被ってた。なのに僕よりずっと女子力が高くて、声も可愛いくて、ミニスカートも似合ってて……あの子は僕の上位互換だった。本当に良かったの? あの子と別れてしまって」
「何を言ってるのか解りませんよノエラさん、笑わせますよ?」
「ご、ごめんなさい! 違うんです、僕は面倒臭い子じゃないです、むしろとても都合のいい子です! ウサジさん、僕の方が、僕の方がジュノンよりずっとウサジさんの事」
「やめなさい! 静かに、離しなさい、こらっ!」
俺が掴み掛かって来るノエラを押し退けようとしていると、ラガーリンの一人が慌てて戻って来る……何だろう?
「ダボゼ! ビビレ!」
ああ、うるさかったですね? サーセン。俺もノエラも頭を下げる。
そこへさらに。
「ブホッ、ブホホッ!」
さっきのイノシシが、河原の方から慌てて駆け戻って来た。そして俺達がバタバタしてるのを見て、さらに慌てて向きを変えて逃げて行く。
ラガーリンはそれを見てすぐに茂みの中に身を隠す。モンスターに見つかった場合は、戦うのは人間で、あいつらは隠れる事になっている。
まあ俺達が騒いだせいで見つかったんじゃ仕方ない、相手をしないと……俺とノエラは頷き合い、辺りを警戒しながら立ち上がる。少し離れて隠れていたクレールとラシェルも合流する。
―― ガサガサッ……!
草むらが揺れる……さあ、何のお出ましだ?
「皆さん……!」
ああっ……!
「ごめんなさい! 勝手について来てごめんなさい、解ってます、足手まといなのは解ってます、だけど僕……僕、もう置き去りは嫌なんです……!」
草むらを掻き分けて現れたのは、ぼろ泣きしているジュノンだった……どうやって追いついて来たのか……顔も体も泥だらけだ、白いミニスカートも……
「御願いします……僕も勇者の為に、魔王を倒す為にお役に立ちたいんです、どうか一緒に連れて行って下さい、皆さんの為なら何でもします、どんな事も我慢します、全身全霊を賭けて皆さん尽くしますから、どうか連れて行って下さい、御願いします!」
「待ちなさい!」
もうどうしようも無い。俺は慌てて駆け寄り、ジュノンが土下座する事だけは阻止する。
「謝るのは私の方です、貴方との約束を破ったのは私です、本当に申し訳ありません。解りました。貴方にそこまでの覚悟があるというのなら……」
俺はそれを言いそうになって、慌ててノエラの方に振り返る。いかんいかん。これはあくまで勇者ノエラのパーティなのだ。
ノエラは、微笑んでいた。
「ジュノン。一緒に来てくれるなら、従者じゃなく仲間になって欲しいんだ」
それを言うならお前らも付き人はやめろよ。俺はそう思ったが面倒なので黙っていた。クレールとラシェルも笑顔で頷いているし。
「仲間の為に尽くすのは構わないけど、敵の攻撃を代わりに受けるような事は二度としないで欲しい。だからウサジさんは君を置いて行こうとしたんだよ、そんな事をする人は連れて行けないって」
べ……別にそんな理由じゃないんだから! 勝手に解釈しないでよ!
ノエラはジュノンに近づき、その手を取る。
「わ……解りました……今度から気をつけます……だから!」
「良かった。これからも宜しくね、ジュノン」
こうして、ジュノンは結局戻って来た。




