0096 私はッ……私は男などに屈したりはしない! (捕まった女騎士風)
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ウサジ
レベル74
そうりょ
HP716/716
MP164/164
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ラシェル
レベル51
つきびと
HP277/277
MP421/421
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ノエラ
レベル55
つきびと
HP380/380
MP139/139
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クレール
レベル61
つきびと
HP602/602
MP61/61
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ジュノン
レベル22
こどうぐ
HP124/124
MP14/14
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翌朝。俺は野戦用ベッドの上で目覚める。
ふと見ると傍らには水を張った洗面器がある……こんなのあったっけ? まあいいや、これで顔を洗って……これ水じゃねえ、ぬるま湯だ。
髭剃りもあるし石鹸もある、鏡も……魔族兵共め意外とおしゃれさんなのね。つーか俺、今ナチュラルにスリッパ履いたんだけど、これ昨夜あったっけ。よし、髭剃りもオーケーだ。
えーと、手拭いはどこだっけ? そう思った瞬間に、手拭いは俺の手に握られていた。
「ヒッ!?」
俺は思わず変な声を上げて振り返る。
そこには俺が貸したサイズの合わない服を着てひざまずくジュノンの姿があった。大きな瞳を開いて下からじっと見ながら、ジュノンは……
「おはようございます! ウサジさん!」
元気にそう言って、満面の笑みを見せる。
元々華奢だったジュノンの身体は女体化してますます華奢になっている、その為だぶだぶの服の胸元は大きく開いていて、この角度では推定Cカップの胸の谷間はおろか、おへその方まで見えてしまう!
「ひいっ!?」
俺は二度驚いて飛び退く。
「あっ、ごめんなさい、声が大きかったですか?」
ジュノンはそう言いながら水筒を差し出して来る。俺は確かに今は喉が乾いていたし、気持ちを落ち着ける為に何か飲みたいと思っていた。
俺は言葉を出せないまま水筒を受け取る。蓋は既に取ってある……そしてこの水は程良く冷えているし、僅かに柑橘系の香りがする、畜生、なんて気が利いていやがるんだ。
「あ……ありがとうございます……それが貴方の、小道具係の力ですか……」
「はい、冒険の役には立ちませんが、冒険者の皆さんにご奉仕する事が僕の使命です」
ジュノンが着ているぬののふくは前にクレールにボタンを取られた物だった。あとで三妖怪……三人が自分が縫うと言って喧嘩を始めたので呪文で笑わせ、自分で適当に縫っておいたのだが……そこもジュノンが完璧に縫い直したようである。
しかし。
「……ジュノンさん、やっぱりその服はいけません、大き過ぎて色々好ましくありませんし仕事にも差し支えます。ノエラさんの服を借りる訳にはいきませんか? 彼女なら貴方と体型も近いし男物みたいな服を持ってると思います」
「そう……ですか。わかりました、ウサジさんのおっしゃる通りに致します。だからあの……どうかこれからも、僕を一緒に連れて行ってくれませんか?」
そう来たか。うーん……パーティ内に男は俺一人でいいんだけどなあ。でもこいつはもう男じゃないし、いいか……まあ、女でもないけどな。
「いつかきっと、貴方を男に戻してあげますよ。ここで待っていて下さい」
俺は根拠もなく、適当にそれだけ答える。
俺はノエラに事情を話し、ジュノンが着れそうな物を見繕うように言う。
「解ったよ! 僕の私服があるからそれを貸してあげるね」
「すみませんね、こんな事を頼んで……いや待って下さい、貴女のそのジャージを彼に貸して、貴女が別の服を着てもいいんですよ?」
「えーっ、僕はクレールやラシェルと一緒がいいです! それに僕、普段着じゃ思いきり戦えないよ」
ノエラは自分の私物のリュックを持って、ジュノンの居るテントに元気に走って行く。
その間に俺はオイゲン爺に会いに行く。
「よく眠れただろうか、ウサジ殿」
「ええ、おかげさまで。夜中には動きはなかったのですね?」
「うむ……我々も監視しているが、ラガーリン達が非常に良く働いてくれる……逃げた魔族兵が集まっている場所も掴んでいるし、川の上流側もしっかり見張っている」
よく見れば周りにも結構な数のラガーリンが来ている。族長の爺さんも居るな。名前なんだっけ……確か、オログだ。
「うサジの勝利きいて、かけツケた。魔族兵モ、モンスターモ、ウサジにハかなわナイ……息子達ガ敗レタのモ仕方ナイ」
今回、ラガーリン達は我々に手を貸してくれる事にしたようだが……あの戦いの事は忘れてはいけないよな。あんな事が二度と起きないように、しっかりと手を組んで戦い、その記録を後世に伝えて行きたい。
「ところでウサジ殿……あれはどうしたらいいと思う」
オイゲンはモンスターの檻を指差す。いや実際どうするんだよこれ。
ここに居るモンスター共は元々この世界に居る住人ではないし、ワイバーンのような野生動物でもない。魔王が何らかの方法で作り出し、この世界に放ったものだ。何故人間を襲うのか、何故魔族兵共の言う事をきくのか、それもよく解っていないらしい。しかし、次第に増えゆく多種多様なモンスター達は、二百年かけて文明世界を侵食して来たという。
「一体一体引き出して、新兵の訓練にでも使うか……檻ごと川に沈めて息絶えるのを待つか……」
オイゲン爺は憂鬱そうな顔でそう言った。うーん。俺もそういうのはあまり気が進まない。
モンスターはラガーリン達とは違い、どう転んでも味方にはならない。放してしまえば旅人や町を襲うだろう。選択肢なんて無いような気もするんだけど。
俺は近くの折に歩み寄る。中ではワンサーティンが二体、膝を抱えて座り込んでいる。檻の手前には箱が置いてあり、何か入っている。俺は近くの兵士に聞く。
「この箱に入っているのは何でしょう?」
「雷の結晶というやつですね、落雷があった所によく落ちているそうです。錬金術の材料に使うとか」
俺は箱の中からその宝石のような尖った石を二つ取り出し、檻の中に放り入れてみる。ワンサーティンはのそのそと動き出し、石を拾い上げると、胸の辺りの蓋のような部分を開けて、中に放り込む。燃料なのか? これが。
「始末はいつでも出来ますが、何かに使えるかもしれませんから、このまま少し餌をやって置いておいてはどうでしょう」
「うむ……貴様がそう言うのなら」
そこへ。
「やっぱり! ウサジさんはそう言うような気がしたよねー」
クレールの声に振り向くと、そこには三妖怪……三人娘と、水色のチュニックシャツに白いミニスカートの美少女が……っておいそれジュノンかよ!?
―― ドスン
大きな音がしたので俺が再び振り向くと、オイゲン爺が目を見開いて尻餅をついている。そりゃビビるわ、まあ。俺はもう一度四人の方を向く。
「ノエラさん、それは……」
「僕の私服だよ! 僕だって休みの時はこういうのも着るんだから」
「着ているとこ見た事ないですよ、私達が一緒に選んだ服なのに」
「ああ、いや……次の休みには着ようと思ってたの、あはは」
騒ぐ女共の後ろで、ジュノンは頬を赤らめて俯いていたが、意を決して顔を上げ、俺の目を見る。
「ウサジさん、僕はもう恥ずかしいなんて言いません! ちゃんとこの姿で小道具係の仕事を立派に努めて見せます、どうかこれからも宜しく御願いします!」