0095 競泳水着の乳の所にはさみで穴を開ける奴だけは、聖者ウサジと言えど許せない
とうとうこの日が来てしまった。いつか来るだろうとは思っていたが。
俺は目の前の扉を勢い良く開ける、そこにあるのはそう、屋内プールだ!
「ヴェロニク様ー!」
どこかの古いリゾートホテルか合宿所の物らしい、25メートルにはちょっと足らない屋内プールの脇の、白いパラソルテーブルの前の椅に、ヴェロニクは腰掛けていて、こちらを見て控え目に手を振る……ちょっと待て。何でパーカー着てるのここ結構暖かいのに、俺は勿論男性用スクール水着一丁だ。
「ヴェロニク様、貸し切りプールですよ、今日はたくさん泳ぎましょう! ヴェロニク様もあんまり運動してなかったんじゃないですか、まずは一緒に準備体操を」
「ま、待ってウサジ、今日は真面目な話があるんじゃないの、色々と」
その話先にする? うーん……じゃあ、そうしようか。
「ヴェロニク様、町が襲撃されてたの黙ってましたね」
俺がそう切り出すと、ヴェロニクは肩をすくめ、パーカーの裾を引っ張って太股を隠す。
「ウサジが気にすると思って……ウサジは私の為にお城に連れて行かれたんでしょう? だけどヴェロニカの町にはたくさんの兵士が居たし、ウサジ達もすぐに戻って来るって思ったから……私だけで何とかしようと思って」
俺はテーブルの反対側の椅子に座る。
「じゃあ、頑張って力を使ってみたんですね」
「うん……私の名前を呼んでくれた人には、少しだけ、力が届くみたい」
「良かった。じゃあだいぶ自信がついたんじゃないですか? 皆も喜んでいたでしょう」
俺がそう言うとヴェロニクは立ち上がり、テーブルを回り込んで来て俺の左腕を取り、意味もなく揉み回す。
「どうしました? 照れてるんですか?」
「だ、だってこんなタイミングでそんな褒め方されたら私、どうしていいか解らなくなっちゃうじゃない」
俺は俯くヴェロニクの顔を覗き込む。あらら、真っ赤っか。ヴェロニクはプールサイドに膝をつく。
「今日もね、攻め寄せたモンスターと戦う兵隊さん達、町の人達を一生懸命応援したの!」
ヴェロニクは顔を上げる。ああ……まだ少し頬を赤らめてるけど、とにかく嬉しそうな顔だな……頭でも撫でて欲しいと言わんばかりの笑顔だ。
「あっ、でもウサジの事も、ウサジの事も出来る限り見てたのよ、今日のウサジ凄くたくさん戦ってたから、本当にハラハラしたの、あの子達も凄く強くなってるし、ウサジも本当に強くなったから、大丈夫だとは思ったけど……」
「強くなったって、私を短期間でこんなに強くしたのはヴェロニク様じゃないんですか? おかげで魔族兵も全然怖くないんですけど」
「そんな事ないわ、私はウサジを見てるだけよ」
「ちょっと待って、普通に話して下さい」
俺は一旦、何故かプールサイドに正座したまま話してるヴェロニクの両手を取り、椅子に引き戻す。そんな風にされてると話しにくい。
「私だけじゃなく、ノエラ達三人もとても強くなりましたけど、あれは女を捨てたからですかね? ははは」
俺が元の椅子に座り直しながらそう言うと、ヴェロニクは静かに首を振る。
「それは違うわ……ウサジ。あの子達、女を捨ててなんていないわ」
俺はヴェロニクに向き直る。これは……何だろう。ヴェロニクは今までで一番、澄み渡るような表情で俺を見ていた。俺は思わず、背筋を伸ばす。
「あの子達は今まではただ、自分の役割を演じようとして頑張って来たの。だけど今は大好きな人の為に戦っているの。大好きな人が思い描く夢を、平和な世界を作る夢を叶える為、全身全霊を込めて戦っているのよ。だからお願い、女を捨ててるなんて言わないであげて」
今度は俺が膝をつく番だ。俺は椅子から跳ね飛んでヴェロニクの前に正座する。
「申し訳ありませんヴェロニク様、私が間違っていました」
「や、やめてウサジ、そういうつもりで言ったんじゃないの、そんな、膝なんてつかないで」
たちまちヴェロニクが飛んで来て、今度は俺の左腕にすがりつく。あっ、そんなにくっついたら腕に胸が当たっちゃいますよ? ていうか当たってるよ?
俺はとにかく立ち上がる。ヴェロニクも釣られて立ち上がる。ヴェロニク、本当に俺の頭の中覗くのやめたのか? なんだか寂しいなあ。
「やはりヴェロニク様は素敵な女神様ですよ」
「本当……?」
「本当ですとも、当たり前じゃないですか。私の心の声を聞いて下さい」
「もう見ないもん。ちゃんと口に出して言ってくれないと聞こえないんだから」
やばい、そこでその上目使いはヤバい。あっ……だめだめ俺今パンイチだから、下手したらサポーター突き破ってポロンと顔出しちゃうから!
そうだ、萎える話しよう、萎える話。
「ヴェロニク様、もう一つ相談したい事があるんです。私の仲間というか……ある男が、魔族の姦計で性転換させられてしまいました。何とか元にもどしてやる事は出来ませんか」
「うん……私も見てたの。だけどあれはきっと魔王の力で作られた品物よ、私や他の神々の力でも無理だと思うの。あの魔族を捕まえて、元に戻す方法を聞き出すしかないわ」
そうなるのか……じゃあアスタロウは生け捕りにしないといけないんだな、何て厄介な。つーか生きてんのかなアイツ、ノエラの一撃相当効いてたと思うけど。
いくら可愛くてもジュノンはつい昨日まで野郎だった奴だ。世の中にはそれでも構わんという男も居るらしいが、俺はそういうのは全く駄目なのだ。あいつ今、俺のパンツ穿いてるんだぜ? 無理無理。すぐ横に寝てると解っててもなーんとも思わん。まあ、チャンスがあったら元に戻してやるよ。
「じゃ、そろそろ行きましょうか」
「えっ……どこへ行くの?」
俺は競泳水着もビキニもプールも大好きだ。体育の授業は嫌いだったけどね。今夜はどんなに騒いでも怒られない貸し切りプールで、ヴェロニクと思い切り遊ぶのだ!
「どこって、折角のプールなんですから一緒に泳ぎましょう、ヴェロニク様もたまには運動をしないと、さあまずはそのパーカーを脱いで」
俺がそう言って手を伸ばすと、ヴェロニクはまた顔を真っ赤にして後ずさりして逃げる。
「ま、待って! 私泳げないからいいの、ウサジだけで泳いで、私は見てるだけでいいから!」
「何ならそこにビーチボールと浮き輪もありますよ、とにかく遊びましょう」
「わっ、私もウサジと遊びたいし誘ってくれるのはとっても嬉しいの! だけど私プールには入れないから!」
「そんな凄い水着を着てるんですか? マイクロビキニとか……」
「ちっ、違うもん、普通の泳ぐ用の水着だもん!」
「ヴェロニク様は以前にも水着姿を残されてたじゃないですか、ほら、女神の魔方陣、パレオ付きのビキニを着て楽しそうに水浴びをされていて」
「きゃあああああああ!!」
ヴェロニクは耳を塞ぎながらプールサイドに突っ伏す。
ちょっと追い込み過ぎたかな……俺はヴェロニクを助け起こそうと近づく。その瞬間、ヴェロニクは俺の膝にすがりつき、力を篭める。ええっ!? まさかまたヤンデレに戻ってしまうのか!?
「ウサジ……」
ヒッ!? この恨めしそうな声は、以前のヴェロニク? ヴェロニクが……涙目で顔を上げた!
「私、根に持ってるんだから……ぎりぎりBカップって、ぎりぎりBカップの水着姿って! ウサジのバカ! バカァ!」
「ご、ごめんなさい……あれは本当に失言でした、どうか許して下さい」
ヤンデレではないが感極まってしまった女神ヴェロニクは、座り込んだ俺の肩やら腕やらをポカポカ叩く。
「私の可愛い女神様。御願いします、泣くのはやめて私と一緒に遊んでくれませんか? プールには入らなくてもいいですから、同じ時間を楽しく過ごしましょう」