0094 他の野郎が穿いたパンツなんか穿けるわけねえだろ、いいよ返さなくて
ラガーリン達は簡単に伝令をやり遂げてくれた。俺の手紙を見たオイゲンは軍勢を率い、途中のモンスターを蹴散らして野営地まで来てくれた。
「それだけの数の魔族兵を、たった5人で壊滅させたというのか……」
「いいえ、ほとんどの奴には逃げられてしまいました。このモンスター達は鹵獲出来ましたが」
俺はソーサーとメーラの事も話す。まあ、ソーサーはこの場に居て、ちょうどオイゲンに土下座しているわけだが。
「魔族に加担しただと……何と愚かな事を」
「将軍、魔族はモンスターの他に様々な物資も運び込んでいたようです!」
将軍の部下達が調べた所、魔族はここに橋頭保を築き、モンスター共を先鋒に立てて、大規模な侵攻に移る計画を立てていたらしい。
「ではこの川の上流に、現在の奴等の拠点がある可能性が高いのだな。モンスターを生み出し、我々の世界を侵食し続ける魔王の棲家も、きっとその先に……ウサジ殿。貴様は大変な事を成し遂げてしまった」
「将軍、私共は勇者ノエラのパーティですよ。私はノエラの仲間の一人、僧侶のウサジです」
「決まったッ! ウサジさんかっこいい!」
俺は、折角いい事を言ってるのにのんきに踊りまくっている三妖怪を横目で制する。
「ふっふ。そうだったな、ウサジ殿」
魔族兵は明日にもここに増援が来る、もっと突破力のあるモンスターを呼んだと言っていた。
「出来るか解らぬが、その増援とやらを阻止してみよう。ウサジ殿、ああいや、勇者ノエラ、協力しては貰えないか」
「もちろんです将軍! あんな奴ら何度来ようと、僕の天秤棒で吹っ飛ばしてやりますよ!」
俺は連戦が続き疲れている兵士達にしゅくふくを掛けて回る。
「おおっ、ありがとうございます、すっかり傷が治りました!」
「元気が出ました、眠気も吹っ飛びましたよ!」
「これなら夜通しだって見張りが出来ます! なあみんな!」
良く考えたらとんでもねえブラック魔法じゃねえのか、これ……MP消費も無いから永遠撃てるし。ああ、延々じゃないぞ永遠ね……人間は疲れたら休むべきだし、一日7時間くらいは寝るべきなのに。この魔法は休むべき人間をも無理やり働かせてしまう。
「ありがとうウサジ殿。貴様は明日に備えて休むといい」
オイゲン爺は、俺にはそう言ってくれた。
◇◇◇
さて、周りにはどういう訳か大小様々なテントがあり中には寝袋や野戦用の折り畳みベッドもある。誰が用意してくれたんだろうなー。
ん? 小さなテントの前で妖怪共が騒いでる。
「ウサジさんのテントここだよ、私物も兵隊さん達が持って来てくれたって」
「それでね、ジュノン君の服、なくなっちゃったから、ウサジさんから借りられないかなと思って」
ノエラとクレールの後ろでは、シーツにくるまったジュノンが俯いている。
「だけどジュノンさんは私よりだいぶ背が低いようですが」
俺はテントの入り口を開ける。中にはラシェルが居て俺の私物のリュックを開けてパンツを取り出そうとしていた。
「ちち、違います、ジュノンさん下着もないですから、ウサジさんの下着を貸してもらおうと思って! 誤解です本当に!」
バカヤロウ、俺のダイナマイトキャノンをカバーする為に作られた特別製のパンツが、あんなもやし野郎の体にフィットするわけねーだろ。
「貴女達は予備の下着を持っていないんですか」
「ありますけど、さっきまで男だったのに、私達の下着を借りて穿くなんて恥ずかしくて出来ないって言うんです、ジュノンさん」
「すみません……明日には洗ってお返ししますから……」
ますます俯くジュノン。そうか。そんな姿になっても心は男なんだな……少しだけホッとしたわ。何とか元に戻してやりてえなあ。
「別に着替えくらい貸しますけど、勝手に持って行くのはやめて下さいよ、後でびっくりするでしょう」
俺はそう言って自分で取り出したパンツとぬののふくをラシェルに渡す。
「ウサジさん意外とお尻小さいんですね」
「さっさと行きなさい」
ラシェルを追い出し、テントの入り口を閉めた俺はようやく一息つく。女共は女共用のテントで眠るようだな。俺も休めるうちに休んでおかなくちゃ。
つーか、早くヴェロニクに会いに行かないと。今日も色々と話したい事がある。
俺は点いていたランプの火を消し、身支度をしてベッドに横たわる……そこへ。
「失礼します」
誰かがテントの入り口をめくって現れた。その声とシルエットはジュノンだけど……何の用だよ。
ジュノンは何も言わずテントの内側に入り、入り口を閉めた。
「どうしたんですか」
「あ、あのごめんなさい、僕もここで眠らせていただけませんか? ノエラさん達は一緒にどうぞとおっしゃって下さるんですけど、やっぱり女性のテントで着替えたり寝たりするのはちょっと……」
ふーん、そう。俺はジュノンに背中を向ける。
「どうぞ、お好きなように」
「あ、ありがとうございます」
―― サラ、サラリ……
衣擦れの音がする。ジュノンが纏っていたシーツをたたみ、代わりに俺の着替えを着ているらしい。
「おやすみなさい、ウサジさん」
「おやすみ」
俺はごく普通に返事をして、目をつぶる。ジュノンも別のベッドに入ったようである。
暫くの間、静寂が流れる。
「僕……これからどうなっちゃうんでしょう」
やがてジュノンはそう呟いた。
俺は面倒だったので、寝たふりをしていた。