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0093 誰に何と言われようと、こんな物の価値は解らねえ、そうだろマイバディ?

「うおおおお! 戦略的撤退だァァ!」

「命拾いしたな弱き者共がァァ!」

「その命、しばらく預けておいてやる!」


 魔族兵共は泣きわめきながら、次々と川に飛び込んで行く。


「アスタロウ! どこへ行ったアスタロウー! 出て来い卑怯者、てめえ俺の仲間に何をした! 何をしたーッ!!」


 俺は血眼ちまなこで追いすがり、アスタロウが落ちて水柱を立てた周辺で、逃げ惑う魔族兵を捕まえる。


「アスタロウはどこだ!? お前かアスタロウは!?」

「ひいいっ、違う、俺はアスタロウではないッ! 離せっ、離してくれえっ!」


―― うおーん! あおーん!

―― フシュー! フシュー!


 檻の中のモンスター共も、さすがに異変に気付いて騒いでいる。


「何処へ行ったアスタロウ! ジュノンを! ジュノンを元に戻せー!!」


「ウサジさん、もう居ないですよ……メーラさん……いえ。メーラも、あいつらと一緒に、逃げたみたいです……」


 ラシェルが岸辺から、俺にそう呼び掛ける。



 魔族兵は潰走かいそうした。


 飯を食って酒を飲み、休んでいた所を俺達に奇襲されたような形になった魔族兵の多くは、状況把握も出来ないまま逃げて行った。

 モンスターは魔族にとって仲間でもペットでもないらしい、みんなおりに入れられたまま、置き去りにされてしまった。


 オイゲン将軍の言う通り、三妖怪の成長も半端なかったようである。ワイバーンと戦った時の三人と比べても次元が違う。俺自身、三人の戦いぶりを見ていてそう思う。こいつら間違いなくあの頃より数段強くなった。女捨てるってすげえな。


 それは、ともかく。


 金髪キザ勇者が敗れたからそうなったのか、敗れる前から何かあったのか、それは解らない。だけど……メーラは人類を裏切り、魔族の側についたらしい。

 ソーサーなら何か知ってるかもしれないが、こいつに話を聞けるのは三年後になる。


 そしてジュノンは、アスタロウの卑劣ひれつ奸計かんけいにより性転換してしまった。


 あれは本当は俺を狙った攻撃だった。ジュノンは策にはまった俺をかばおうとして何かのポーションを浴びてしまい、こうなった。ジュノンが飛び出してなければ、俺が代わりに神聖おちんちん帝国を失っていたというのか。



 ジュノンは、とりあえずテントの中にあったシーツを被っていた。


 俺達は魔族兵が残した焚き火の周りに集まっていた。ここまで道案内をしてくれていた三人のラガーリンも来ている。彼等はのんきに、魔族が置いて行った肉と野菜の串を直火であぶっている。


「あの、ジュノンさん。大丈夫ですよ。すぐ、元に戻してあげますから」


 俺は根拠もなくそう言った。俺は既にジュノンにおはらいもしゅくふくも掛けてみていたが、どちらもジュノンを男に戻す効果は無かった。


「僕の事はいいんです……それより……ソーサーさんとメーラさんが……」

「仕方ないよジュノン、ソーサーさんは自分で判断して魔法を使ったんだし。メーラは……」


 落ち込むジュノンをクレールが励まそうとするが、結局クレールもメーラの事になると言葉を濁してしまう。


 あの女は俺を騙して気を引き、その間にアスタロウに奇襲させようとした。アスタロウがアホなおかげで助かったが。

 しかしジュノンはそのせいで大切なちんちんを失ってしまった。何てこった。俺が油断していなければ……いや待て、俺ジュノンが出て来なくてもあんな攻撃余裕でかわしてたよな? 俺のせいかっていうと微妙だよな?


 とにかくアスタロウは次に会ったら即殺す、前置きの台詞を言ってる間だろうが技名を叫ぶ間だろうが待たない、視界に入り次第ぶち殺す。


「ヤケタ、ウサジたべロ」


 ラガーリンが俺に串焼きを渡してくれた……こいつは何も考えてねえな、ゴキゲンな顔してるわ。人間共が魔族をぶちのめして追い払い、食べ物を分捕った事を愉快と思っているらしい。


「ウサジさん……ごめんなさい!」


 ヒッ!? ジュノンが潤んだ瞳で俺を見上げる! やめろその目。


「僕はウサジさんの役に立ちたかったのに……結局僕も仲間も、ウサジさんとウサジさんの仲間に迷惑を掛けてばかりです。本当にごめんなさい!」

「やめて下さいジュノンさん、貴方のそんな顔は見たくありません! 貴方がどれだけ人々の為に頑張っているか、みんな知らないと思ってるんですか」

「ウサジさん……!」


 俺はジュノンから目をそむけ、ラガーリンが渡してくれた串焼きに意識を集中する、ああ美味うめぇ、美味うめな畜生!


「ふふっ。ウサジさんって普段はとても丁寧な口調で話すけど、誰かの為に怒ってる時って、全然違う口調になるよねっ。さっきも僕ドキドキしちゃった!」

「私も私も! 俺の仲間に何をしたー、って所なんか、ジュノンくんには悪いけど、きゅんきゅんしちゃって」

「無言で肉を頬張ほおばる横顔も素敵ですねェ。男の中の男って感じですよ、ウサジさん、食べ終わったその枝、私にいただけませんか?」


 俺は枝を焚き火の中に放り込み、ラガーリンに向かって言ってみる。


「ヴェロニカに、てがみ、とどけて。でかい奴、てがみ、わたす。解りますか?」

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
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