0092 世の中には二種類の男が居る。それは理解のある者と、理解のない者だ
「誰も怪我をしてませんか!? 早くジュノンを!」
ジュノンの方に行かないと、だけどまた三人の魔族兵が立ち塞がった!
「死ねぇぇ弱き者が!」「諦めろ人間風情がー!」「はらわたをえぐり出してやるぜええ!」
俺は先頭の一人の鋸刀の一撃を交わし、顎の下からひのきの棒で突き上げる。続いて二人目の金棒を避けて顔の正面に拳の一撃を……!
―― ベベコッ!!
その一撃はちょうど、横から入って来たクレールの鋤による一撃と同じタイミングになってしまい、その魔族兵の頭をサンドイッチにするような形になってしまった。俺の拳にまでクレールの打撃の衝撃が伝わって来る……痛ぇえ。
「ああっ、ウサジさんごめんねっ!」
クレールは俺の方を向いたままで、三人目の魔族兵の鳩尾に、鋤の柄を沈める。そいつは黒目を剥いて静かに倒れる。
「早くしないと敵がどんどん増えます、ジュノンの治療と退路の確保を!」
俺はさらにそう叫びながら魔族兵の一人にヘッドロックを掛け、ひのきのぼうを握った拳で頭をガンガン叩く。
「僕が退路を作るからクレールはウサジさんを連れて下がって!」
「どうして!? 退路は私が作るからノエラはジュノンを治療してよ!」
「僕考えるの苦手だもん、しんがりは引き受けるからクレールが行って!」
「あたしこそ戦う事しか出来ないんだから! ノエラは魔法使えるでしょう!?」
この非常時に……ノエラとクレールは言い争いをしながら魔族兵をぶん殴って回っている。くそっ、後でお仕置きしてやる。
ラシェルはどこへ行った? メーラを追い掛けているのか?
「ラシェルさん戻りなさい! その女は後です、ジュノンを助けて早くここから逃げないと!」
「だけどウサジさんっ……! 解りました、戻ります!」
俺が叫ぶと、戦場のどこかからラシェルも叫び返してくれた。良かった、無事みたいだ。それに戻って来てくれるらしい。
「ジュノンー!」
俺は今度こそジュノンに近づこうとする。しかしそこに、鼻や口から血を流し、顔面や胸板を痣だらけにした魔族兵共がまだ立ち塞がる。
「ひ、貧弱な人間風情が……ッ」
「てい、抵抗を諦めろ弱者め……」
「やかましいわー!!」
俺は棒立ちになった奴らの脛をひのきのぼうでまとめて薙ぎ払う。
「ぎぃやぁぁぁああ!?」「ひぎぃぃいい!!」
そしてぶっ倒れた魔族兵を押し退け、ようやくジュノンの元に辿りつく。
うわっ……暗くてよく見えないが、酷い有様だ……服だか泥だか解らなくなった物をまとわりつかせ、ジュノンは倒れていた。と、とにかく!
「しゅくふく!」
さあヴェロニク、最大パワーをくれっ! 治るだろ? 治るんだよなあ? ジュノンは……むかつくくらいの美少年で、正直、これで女の子だったらすぐ食べちゃうのにってくらい可愛い顔をしていたのだ。
だけどそんなジュノンがアスタロウの奇襲を俺の代わりに受け、酸で焼かれてしまったのだ……一体どんなダメージを受けたのかは解らない、だけど治してやらなくちゃ……!
―― ぽう
俺の右手が……鈍く光る……
へ?
ちょっと待て、出力これだけ!? ここはフルパワーじゃねえのか!? 前にキザ勇者パーティの前でやってみせた時みたいな! あの出力をくれよ、何で!?
ええい、とにかく一旦これで!
「う……ううっ……」
俺がその弱々しいしゅくふくを掛けると……ジュノンが呻いた。
何故だヴェロニク……とにかく俺はジュノンを助け起こす。その首の下に腕を入れて、しっかり上半身を支えて……どんな酷い顔になっていても、目を逸らさない覚悟で……
「ウ……ウサジさん、僕……どうなって……」
ジュノンの顔は酸で焼け爛れて……なかった。
あれ? つーかなんか前よりもっと可愛くなってるような……?
ジュノンの上半身を覆っていた濡れて破れた服が、ズルリとその肌から滑り落ちる。ジュノンの肌は……やはり酸で焼かれておらず、むしろ前よりきめ細かくなっている……?
あと、なんか体形も変わってるみたいなんだけど。
肩幅が狭くなってない? 腕の筋肉なども減っていて、体の線が全体に滑らかになっているような……そして元々小学生のように貧弱だった大胸筋が、ふっくらとした滑らかな二つの丘に置き換えられているように見える。
一言で言うなら、おっぱいのような……
「え……ええええっ!?」
ジュノンは目を見開き、腕で、その、ぷるっぷるを、隠す。
「ヒッ……うわあああ!」
俺はジュノンからすっ飛んで離れ、尻餅をつく。
突然支えを失ったジュノンは後ろに転んで頭を打つ。
「きゃっ!?」
声もちょっと高くなってるゥ!?
「い、痛いですウサジさん……ええっ、えっ、ぼ、僕……!」
言うなァァ!! その先を言うなァァ!!
俺はただちに! 耳を塞ぐ!
「女の子に……なっちゃった!?」




