0085 心震わせる響きだな……その美肉にしゃぶりつき、思う存分に堪能したい……
オイゲン将軍と数人の部下は少し先行して森に入る……おっと、早速出迎えが現れたようだ。オレンジ色と緑色のあれはワンサーティン、大変頑丈で働き者のゴーレムで、人類の敵だそうである。
「将軍ならあのくらい大丈夫ですよ」
「こっちも警戒するよ!」
「何か飛んで来るわ!」
こっちも来たか。蛾のような模様の巨大な羽根を羽ばたかせながら接近するのは……クマーモスじゃない、爬虫類そのものの顔と胴体を持ち、空を飛び水にも潜る強敵、ワニーモスだ! 初めて見たけどたぶんそんな名前だと思うわ。
「ノエラ殿、お下がり下さい!」
まともな武器を持たず、鎧も着てないように見える三妖怪を、紳士的なオイゲンの部下達は庇おうとする。大丈夫、そいつらはヤワじゃねーよ。
「うおりゃああああ!!」
気合一閃、ノエラは自分を背中で守ろうとする兵士を飛び越え、飛来したワニーモスの上空を取ると、実は鋼で出来ている天秤棒を、その平たい顔面に叩き込む。
「ワニーッ!」
ワニの化け物は地上に叩き落され、痙攣して事切れる。気の毒だが笑わせないで欲しいわ、何だよワニーッて。
おっと、笑ってる場合じゃねえ。傍らの草むらから槍を手にしたベニテングタケソルジャーが飛び出して来た!
「ウサジさん!」
俺は慌てて駆け寄って来るクレールを先に処理する。またフレンドリーファイアをかまされる方がたまらん。しかしクレールは俺が無理に避けなくても、目の前で止まってくれた。お前、あのラッキースケベは全部わざとやってたのか。
「隠れて、ウサ」
やって来たクレールの目の前で俺はひのきのぼうを唸らせ、たちまち二体のベニテングタケの傘を粉砕した。
「毒があるから口に入らないよう気をつけて」
「は……はい!」
クレールは俺を守ろうとするのをやめ、別の敵を倒しに行った。
森の中は想像以上に騒がしかった。随分盛大なパーティを用意してくれたもんだな。
「シャークー!」
鮫肌の怪物サメデビルは二足歩行が出来るが、えら呼吸なので地上を歩くのは苦手らしく、皆顔色が悪い。可哀相なモンスターを配置するなよ。
「おりゃああ!」
クレールの平らな鋤は鋼の剣よりずっと威力があるのでは? 触れる物を片っ端から吹き飛ばし、二つに折り曲げ、地面へと叩き潰してしまう。
「ブルルル! ブッシャアア!」
こっちは正統派の芋虫系モンスターか、名前は知らんが糸だの粘液だの吐き散らしながら群れで襲って来る、うおっ、気色悪りぃ!
「はい! はい! はいさ!」
ラシェルも三枚歯の鍬を振りかざし、全長1メートルほどの巨大芋虫を片っ端から耕す! あの可憐で嫋やかな美少女は幻だったんだな……飛び散る粘液も怖くないのか。魔法もほとんど使わない。
「ウサジさん! ファイブスターが!」
ファイブスター? ノエラの声に振り返った俺が見たのは、潅木の茂みを踏み潰して現れた超巨大なバッファローのような奴だった。いろんな形の禍々しい牙や角が生えていて、毛並みの色も毒々しく、何というか、俺はモンスターだぞ、自然の生き物じゃねえぞというアピールが半端ない。
「ブッファアアー!!」
そのファイブスターが俺目掛けて突進して来た! やばい、こんな奴に跳ねられたら別の異世界に転移してしまう!?
だけど今の俺にとって、このくらいのトラックを飛び越えるのは造作もない事らしい。
―― タンッ
俺が軽やかにその頭上を飛越すると、ファイブスターは勢いそのままに巨木に激突する。
―― ズシーン!!
何て奴だ、あんな勢いで木にぶつかっても平気なのか。つーかこの木も凄いな、結構太い木だけど……
―― バキバキ……ベキバキボキ!!
「倒れるぞー!!」
「うわああ!?」
―― バリバリバリバリ! ズドーン!!
大丈夫じゃなかった!? 木が折れて倒れて、ファイブスターはちょうどその下敷きに!? ちょっと待て、これでも倒れないこの化け物は、どうやったら倒せるんだよ!
「ワニーッ!」
俺は空気も読まず飛来したワニーモスをひのきのぼうで殴り倒す。今考え事してんだよ、空気読めよ。ああ、ノエラも近くに来た。
「どうするんだこの化け物、どうやって倒す!?」
「ウサジさん、こいつもう事切れてるよ!」
「めちゃくちゃ雑魚じゃん俺飛び越えただけだぞ」
「でもファイブスターの肉は柔らかくてジューシーでとても美味しいんだって! どうやって持って帰ろう?」
「……だから五つ星なんですか」
こういうモンスターを生み出しているのは誰なんだよ。ヴェロニクじゃないよな? 他の神様か? それとも、魔王か。魔王……なんて恐ろしい奴だ。