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0083 美少年? 知らねーよTSしてから来い話はそれからだいや本当に来るなよ?

 そこへちょうど、城の方から一隊の軍馬が、ときの声を上げて町ゆく人々を威圧して下がらせながら、こちらに駆けて来る……あまり尋常じんじょうな様子ではない。隊を率いているのは、どうやらオイゲン将軍のようだ。


「ウサジ殿! 我輩も貴様を迎えに行く所だった! ヴェロニカが襲撃されたのだ、守備隊からも、そちらのジュノン殿からも報告があった!」


 将軍がそう言っている間に、ラシェルはジュノンに治療魔法を掛ける。こいつ、ヴェロニカからここまで治療もしないで駆け通して来たのか?


「敵は魔族兵と魔物を中心にした本格的な侵攻軍で……それでもオイゲン将軍の守備隊の皆さんは大変よく戦われていて、私がこちらに向かう時にも町は大丈夫そうには見えました。しかし途中の街道には今までの何倍もの魔物が居て……」

「伝令兵も何人か討たれたようだ……とにかく我輩は今すぐヴェロニカに戻らなくてはならぬ。ウサジ殿、貴様はどうする」


 将軍は馬上から俺に尋ねる。ヴェロニクが昨夜ゆうべ言ってたな、ヴェロニカの方を見ていた、気になる事があるからと……気になる事ってこれかよ! 何故言ってくれなかったんだ……いや、ヴェロニクは異端審査に駆り出されていた俺の邪魔をしたくなかったんだ。

 あの町にはヴェロニクを信じている人がたくさん居るから、ヴェロニクも力を及ぼす事が出来る。だから町自体はまだ大丈夫だと思う。

 だけど、だからってヴェロニクに任せっきりになんて出来る訳もない。俺達が行って町を守らないと。


「すぐに戻らなくては……将軍、私達に馬を貸していただく訳には行きませんか」

「勿論だ。既に用意させてある、是非同行して欲しい」

「あ、あの、ウサジ、でも……マドレーヌ様は」


 ノエラがそう遠慮がちにつぶやく。

 その事は(オイゲン)にとっても心苦しい事らしい。


「王女は……今日は自分が好きな人達をもてなすのだと。城の中庭の芝生でピクニックをして、陛下とウサジ殿、我輩と女官長、ノエラ達を……自分の料理でもてなすのだと張り切っておられた」


 マドレーヌの顔を思い出すと、俺も辛い。

 だけどヴェロニカにだって俺達が戻って来るのを待っている人達が居る。俺は黙ってオイゲンの顔を見る……どうやら爺さんも同じ気持ちらしい。


 ごめん、マドレーヌ。大人には約束を守れない時もあるんだ。


「急ぎましょう将軍……命を落とした伝令兵の為にも、一刻も早く」


 ところで俺、馬に乗れるの? 俺は乗馬なんかやった事もねえ……と思ったけど、乗ってみたら何か乗れた。

 三妖怪も今回は空気を読んで馬に乗ってくれた。



   ◇◇◇



 ジュノンはやはり追放されていたらしい。ある朝野営を片付ける時に水()みを命じられたジュノンが、谷底まで降りて樽に水を()んで戻ってみると、パーティの姿は消えていて地面には棒で書き置きがされていた。


『役立たずの荷物係はクビだ』


 ジュノンが管理していた予備の持ち物袋も消えていた。それはつまり、ジュノンが近くに宿も無いような荒野の只中ただなかで装備も無しに取り残された事を意味する。


 取り残されたジュノンが考えたのは、樽がなければ仲間達は喉が渇くだろうという事だった。そしてジュノンは樽を担いだままパーティを探し回った。しかし仲間達は見つからず、樽も翌日にはモンスターに襲われて破壊されてしまった。


 やがて何日もかけて苦労して人里に辿たどりついたジュノンは、仲間達が数日前、オイゲン将軍と共にヴェロニカと名前を変えた前線の町へ向かう為、そこを通ったという話を聞いた。


「それで君はヴェロニカに向かったの!? あんまり言いたくないけど、君はどうしてそこまでしてあいつらに付き合うのよ」


 すっかりキャラの変わったクレールにそう言われて、ジュノンはまだ少し困惑していたが。


「あの人達は……僕が居ないと駄目なんです。みんな悪い人じゃないんだけど、ちょっと個性的でくせが強いから」

「だけどその人達がジュノンさんを荒野に放り出したんですよね? そんなの冗談では済まされませんよ」


 ラシェルもそう口をはさむ。しかしジュノンは首を振り、顔を上げる。


「強い戦闘スキルも持っていない僕が、魔王退治に協力出来る事があるとすれば、あのパーティの中に居て仲間と仲間、仲間と周りの人達の間に入ってバランスを取る事なんです……僕も魔王討伐の為に戦いたいんです!」


 うーん……そういう事なら、うちにスカウトしてもいいんだけど……

 残念ながらもう男は募集してないんだよなーうちのパーティ。ジュノンは優秀そうだし、外れと思わせて実は無敵のスキルとか持ってそうなんだけど……いやーやっぱり男はいらないッス。


「だ、だけど! やっぱりおかしいよ、そこまで無碍むげに扱われて、まだあの人達の為に働きたいなんて!」

「おやめなさいノエラさん。ジュノンさんはもう決めてるんです、この世界をおおう呪いと戦う為にそうしたいのだと、その気持ちは貴女が勇者を目指す気持ちと何ら変わりませんよ」

「ウサジ……さん……ごめんねジュノンくん、僕が悪かった」

「い、いいえそんな、ノエラさん、ウサジさん、ありがとうございます」


 途中の城で馬を替えつつ、俺達はヴェロニカへと急ぐ。

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
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是非是非見に来て下さい!
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