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0081 私自身は中身にしか興味がありませんが、下着を愛する者の気持ちは解ります

 今夜は……あれ? またオフィス? でも前のオフィス物とは何か雰囲気が違うな……


「ウサジ、あのね」


 ヴェロニクがパーテーションの向こうから顔だけ出している。何だろう?

 それから俺の格好は……解らん、冴えない普通のオッサンの格好だ。だけどポケットに何か一杯詰まっている……なんだこれ? 下着? これも。これもこれも。どのポケットにも、ジャンパーの懐にも! パンティとブラジャーが大量に入ってる! 何なのこれ!?


「私も……私もこういう事がしたいわけじゃないんだけど……こういう風にしないとウサジと会えないし……だけど今日はちょっと、あのね、」


 ヴェロニクは顔を赤らめてモゴモゴ言っている。俺はとにかく彼女の方に行こうとするが、ヴェロニクはパーテーションからパーテーションへ、デスクの影へ、そして小部屋へと逃げ回る。


「きゃあああ駄目駄目来ないでウサジ! 今日はだめ!」

「何が駄目なんですかヴェロニク様、今日は大事なお話が」


 小部屋に追い詰めたヴェロニクを、俺は見た。


「あっ、ミニスカ婦警だ! ガキの頃夜中にこっそり見たわー、懐かしいなあ」

「だーめー! このスカート短過ぎるのよう!」


 とてもスカートの短い婦警さんとなったヴェロニクは、顔を赤らめて必死にスカートのすそを押さえていた。

 するとこの小部屋はあれか、取調室か。俺はそこにあったパイプ椅子に座る。ヴェロニクは部屋の隅でなかうずくまっていたが、あわてて反対側の椅子に座る。まあ、座ってしまえばミニスカも見えない。


「そっかあ、ここは警察署ですね……婦警さん、私がやりました」


 俺は多分俺が盗んだ物らしい下着を机の上に並べようとするが、ヴェロニクは顔を真っ赤にして抵抗する。


「そういうのやめてええ! 恥ずかしいから! それに今、それどころじゃないのよう! ウサジ! 貴方外で何をして来たの!?」

「だから、下着泥棒を……」

「それはウサジのハードディスクに入っていた映像の話でしょ!」

「どんな映像の話ですか?」

「それは……あの、その……」


 うつむいて口篭くちごもるヴェロニク……女神を困らせるのはこのへんにして。


「今日は神官長さんという人に絞られていました。ヴェロニク様……私は本物の僧侶じゃないんです、だからあまり上手く説明出来なくて」


 机には電気スタンドと黒電話だけが備え付けてある。

 このビデオ、どんな話だったかあ。俺のHDDにあったという事はTV放送のやつじゃなくオマージュAVの方って事だよな。確か……ドSのミニスカ婦警が下着泥棒に手錠を掛けて、エッチなお仕置きをする話だったかな。


「大勢の人の前で、恥をかいてしまったかもしれません。ごめんなさい。私が必ず貴女をあの世界によみがえらせる、そんな事を言っておきながら」


 今日はもう、ヴェロニクに手錠を掛けられてエッチなお仕置きをされても仕方無いかもなあ。そうすると俺、どうなっちゃうんだろう。


―― ヂリリリリリリリリン!!


「ひっ!?」

「きゃああ!?」


 俺がそんな事を考えた途端。目の前の黒電話が大きな音を立てて鳴り出した。


―― プルルルルル!

―― プルルルルル!


 署内のデスクにある他の電話も鳴る。どういう事? ビデオの演出にこんなのあったっけ? ヴェロニクも驚いてるようだけど……


「……出てみますね」

「ま、待ってウサジ!」


 ヴェロニクが止めるより先に、俺は受話器を取って耳に当てた。


「はいこちらヴェロニク署」

『もしもし!? 私ヴェロニク様の神殿に行きたいんですけど、それってどこにあるんですか!?』


 受話器の向こうから、普通に人の声がする……どういう事? とにかく俺は普通に答える。


「はい、今の所神殿はヴェロニカという町にしかありませんが、無理にそこへ行く必要はありません、貴方が祈りを捧げる場所にヴェロニク様はいつもられます」

『そ、そうなんですか……ありがとうございます! ここで祈ってみます!』


 相手は納得したようなので、俺は受話器を置く。


「ウサジ……あの、あのね」


―― ヂリリリリリリリリン!!


「ごめんなさい電話に出ないと、はい! ヴェロニク署です!」

『ヴェロニク様に会いたいです! どこに行けば会えますか!?』

「ヴェロニク様は皆さんを救う為、この世界に戻る道を探しています、だからどうか貴方も一緒にヴェロニク様を呼んで下さい、女神ヴェロニクはきっと現れます」


―― プルルルルル!

―― プルルルルル!


 今度はデスクの方の電話が鳴り続けている。俺はヴェロニクにも電話に出るようにと指で合図をする。ヴェロニクは立ち上がり、デスクの方へふらふらと向かう。


「はい、祈る場所はどこでもいいです、あっ、はい! 御願い致します!」


 しかし俺が電話を終えてふと見ると、ヴェロニクは短いスカートのすそを押さえたまま、ぺたんと座り込んでしまっていた。電話はまだ鳴っている。


―― プルルルルル!

―― プルルルルル!


「無理よウサジ……私、出来ない……」

「出来ないじゃありません、せっかくついて来てくれた数少ない信者さんですよ」

「少なくなんかないのよう!」


 ヴェロニクは涙目で振り向く。


「今日私、午前中はヴェロニカの方を見てたの。ちょっと心配な事があったから……そしたら急にウサジの居る方から、すごい、すごいたくさんの人たちが、私の、私の名前を呼び出したのよ!」


 えっ……ええーっ!? あの異端審査のせい!?


「一体何をしたのよウサジ……あんまりたくさんの人が呼ぶから、私怖くて今日は一度もウサジの事を見れなかったわ!」


 ええー。みんな笑ったりブーイングしたりしてたのになあ……ツンデレかよあいつら……いやだけど、悪い事なんか一つもないじゃないか。


「何を言ってるんですかしっかりして下さい、ヴェロニク様はこの日の為に頑張って来たんでしょう、あの世界を覆う呪いを打ち破り、人々を助けるんでしょ?」


 だけどヴェロニクはぽろぽろと、小さな涙をこぼすばかりである。

 電話は尚も鳴り続ける。


―― プルルルルル!

―― プルルルルル!


「電話、出たんですか? 私が来る前に」

「みんな……みんな私の事、立派な女神だと思ってるのよ……!」


 ヴェロニクはてのひらに顔をうずめ、肩を震わせる……あー。そういう事ね。


「そうですよ、ヴェロニク様はとても立派な女神様です」

「ウサジは知ってるじゃない! 私はウサジを手篭てごめにしようとしたふしだらな女神だって、今だってウサジに好かれたい一心でこんな恥ずかしい格好をしてるのよ、私、一体どんな顔をしてあの人達と話せばいいの!?」


 まあ、仕方ねえなあ。二百年も孤独で居たんじゃ、すぐにあれもこれも立派にやれって言われても無理だわな。


「そんな格好って、とても可愛いじゃないですかヴェロニク様は。私なんかこんな格好ですよ?」


 俺はポケットから緑色のブラジャーを取り出して頭にかぶり、その格好でデスクの方の電話を取りに行く。ヴェロニクはさらに顔を赤らめて立ち上がり、俺を止めようと追って来るが、間に合わない。


「はいこちらヴェロニク署。ヴェロニク様のお姿? ええ、それはもう大変お美しいですとも……きっともうすぐ、皆さんの元へもやって来ますから」

「やめてええ! 頭にそんなの被ったまま、涼しい顔で私のハードルを上げるのはやめてええ!」


 電話を終えた俺の背中をヴェロニクが後ろからポカポカ叩く。あー、もうちょっと右、右、そうそう。そのあたり。今日はさすがにちょっと疲れたわ。


「ちょっとそのブラインドを開けましょうか」


 俺はヴェロニクに肩を叩かれながら、窓辺へ行ってブラインドの紐を引き、一気に開ける。するとそこには。


「え……あ、ああーっ!!」

「えええっ!?」


 俺もヴェロニクも思わず叫ぶ。


 窓の外の空を、雲が流れている。上だけじゃない、下にも。

 勿論、今までにこんな事はなかった。


 この空には太陽のような物はなかったが、天球の色は深い青と明るい青のグラデーションで出来ている。そして地平線というか水平線というか……水平方向の彼方は真っ白になっている。


「ヴェロニク様! あそこに何か見えませんか!? 空に浮かぶ島のような!?」


 そして俺はまっすぐにそれを指差していた。あれは雲だろうか? いや、島影ではないか? 山の稜線りょうせんのような何かが、彼方に浮かんで見える。


「あれは陸地じゃないですか!?」

「えっ、えええっ、ち、違うわ、あれは雲よ、雲よきっと」


―― プルルルルル!

―― プルルルルル!


「おっと、こうしちゃいられない! 私は電話を取ります、取って取って取りまくりますよ、ヴェロニク様はそこで見ていて下さい」

「待ってウサジ御願い、私まだ自信がないの、立派な女神になる自信がないのよ」

「私のヴェロニク様は、可愛くて素敵な最高の女神様ですよ」


 俺はヴェロニクにすがりつかれたまま、捜査課長と書かれた札のあるデスクの受話器を取る。


「はいこちらヴェロニク署! ヴェロニク様のお祭りですか? それはまだ気が早いですけど、魔王の呪いは必ずヴェロニク様と勇者ノエラが打ち破ります! どうかご期待下さい!」

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
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