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0080 おじさんは神の使いだよぉ? 君に神の愛を分けてあげるよ、グフフ

 その日の残りの時間を、俺は王女のクッション投げのフォーム改造にてる事になった。教える方も教わる方も大真面目である。

 そして日も落ちる頃。オイゲンがようやく戻って来た。


「すまぬウサジ殿、用事が立て込んでこんな時間に」


「行けっ!」「おりゃああ!」


 オイゲンの声を聞いた俺が合図すると、マドレーヌは王女にあるまじき蛮声を上げて、リビングの入り口めがけクッションを投げつける。特訓の成果もあり、クッションは真っ直ぐ戸口目掛けて飛んで行った。


―― ボフッ……


 しかしそこに現れたのはオイゲンではなく、ガスパル国王だった。


「あっ……父上……」


 顔面でクッションを受け止めた国王も、それを投げたマドレーヌも、少しの間硬直していた。これ、俺が死刑になるやつ?


「陛下。マドレーヌ様の特訓の成果でございます」


 俺はやけくそでそう言って片膝をついた。


「む、むう……驚いたぞマドレーヌ、運動の苦手なお前が、余の……父の顔にクッションをぶつけられるようになるとは」

「お父様ごめんなさい、爺が来たと思ったのじゃ」


 オイゲンは実際、王の後ろから現れた。


「今のを、マドレーヌ様が? 大したものだ……ウサジ殿が教えてくれたのか」


 そして国王陛下は、シチューの入った鍋を自ら持っていた。そうでなければ、さすがにあんなクッションはかわしていたとは思う。


「遅くなってすまぬ……マドレーヌ。このシチューは正真正銘、父が作った。信じて欲しい。それから……今日は父が読み聞かせをしようと思う」

「……父上!?」


 たちまち涙ぐむマドレーヌ。照れくさそうに少し目を逸らすガスパル王。どうやら俺は死刑にはならずに済みそうだ……だけどまあ、念には念を押して。


「私達は退散すると致しましょう。この場は親子水入らずで」


 俺は的になって王女の練習に貢献してくれたノエラ達にも声を掛け、リビングを離れる。


「ウ、ウサジ……明日も来るのじゃ、まだ特訓は終わってないのじゃ」


 マドレーヌはそう言うが、俺がここに来ていいかどうかを決めるのは、城の偉い人達だろう。

 とりあえず、マドレーヌは嬉しそうに父親の手をリビングの奥のダイニングの方に引いて行く。あんな広い所で一人で飯食ってたら寂しいよなあ。家が広過ぎるのも考え物だぜ。


 一緒に退出するオイゲンが、俺の隣にやって来て言った。


「すまぬウサジ殿、アダルベルトには貴様の審査を中止するよう伝えたはずだったのだが、行き違いになってしまっていた」

「ああ、いえ……お気になさらず」


 おかげで大恥をかいたわ。うーん。どうせ人前で恥をさらすなら、ストリーキングでもすりゃ良かったかな。


「それでどうなのでしょう? 我々はそろそろ魔王討伐の旅に戻っても良いのでしょうか」

「待ってくれ、今貴様に居なくなられては多いに困る」


 そう言って爺さんは大きな背中を丸め、本当に困ったという顔をする。


「王女のクッション投げの練習の御手伝いくらいなら構いませんが、本来の私の立場は勇者ノエラのパーティに従事する僧侶なんですよ」


 俺のその言葉を合図にしたかのように、これまで割と静かにしていた三人娘はオイゲンを取り囲んで騒ぐ。


「そ、そうだよ! そうですよ将軍、ウサジさんは僕達のパーティの仲間です!」

「私達のウサジを、ウサジさんを返して下さい!」

「異端審査も済んだのですよね!? 御願いしますオイゲンさん!」

「む、むう……しかし王女も先ほどあのように仰せられていたので……頼む、少なくとももう一晩はここに居ては貰えないか、そして明日もう一度王女にお会いして欲しい」



   ◇◇◇



 オイゲン爺さんは自腹で市内の高そうな宿をとってくれた。

 おおっ、繁華街もすぐ近くじゃねえか! 今夜こそえちえちなダークエルフのお姉さんに会えるのか、うひょー! まあ、俺はまだこの世界でエルフを見た事は無いんだが……居ないって事はないだろ? なあ?


「立派な部屋ですね! ウサジさん」

「食事も部屋まで運んでくれるんだって!」

「専用のお風呂もついてますよ!」


 問題はこいつらである。こんな妖怪共を引き連れて夜の街を歩くのは嫌だし、大人の男の遊びに小娘なんぞは邪魔でしかない。


「ああ、私は街に出て暮らし向きに困っている人が居ないか見て来ます。貴女達はゆっくり食事を召し上がって、風呂に入って休みなさい」


 俺はそう言って部屋を出ようとしたが。


「ええっ!? まだ働くんですかウサジさん!」

「私達こそ一日中休んでたのに、そんな事出来ないわ!」

「人々の救済なら、僕達も一緒に行きます!」


 あ……ああーっ! 俺何か、何か下手こいたァァ!?

 三妖怪は鼻息も荒く、俺について来てしまった。



 俺は結局三妖怪を引き連れて繁華街を歩き、宿で出て来た豪華な山盛りの御馳走を路地裏の子供達に配ったり、お年寄りの腰や膝にしゅくふくを掛けたり、夜の町で膝を抱えてうずくまっている人々に声を掛けて回る事になった。



「良かったー、やっと今日も仕事をした、って感じになれましたよ!」

「ウサジさん一番風呂をどうぞ! 僕背中流します!」

「あっ、ずるいよノエラ! 待って、ジャンケン、せめてジャンケン」

「しきそくぜーくうくーそくぜーしき」

「きゃ」「きゃあ」「きゃああ!?」


 宿に戻った俺は、ベッドルームの一つに入って鍵を掛ける。

 今日はもうクタクタだわ、妖怪共の入浴を覗く元気もねえ。

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
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