0079 一方的に好きな女の子のスカートをめくっても許される、あの頃に戻りてえな
その後俺は今度こそ大神殿的な建物の法廷のような所へ連れて行かれ、辛気臭い取調べを受ける事になった。調べは昼食を挟んで午後まで続けられた。
聞かれた内容としては意外と無難というか、俺本人への、何に関係があるのか解らん質問ばかりだったのだが。
「エビやカニを食べて、体がかゆくなった事はあるかね?」
「いいえ……」
「牛乳を飲むと、お腹がゴロゴロ言うかね?」
「まあ、多少は……」
しかし途中、どうしてもそれだけは出来ないという事を言われた時には、俺もかなり焦る事になった。
「かつらをとってみせたまえ」
「そ……それはッ……」
俺が言い訳をする前に、その裁判官のような奴は自分のかつらを取ってみせた。
「私もかつらだ、恥ずかしがる事はない」
「あ、貴方は御仕事でかつらを被っているのだと思いますが、私にとって頭髪の事はあくまでプライベートなのです、どうか御勘弁下さい」
「ふむ……ヴェロニクの教えでは、聖職者もプライベートを大事にするのだな?」
「そそ、そう取っていただいて結構です、はい」
何ならもう、俺は一分の隙もなく自分の髪を生やしているという事を、打ち明けてしまおうか? そんな思惑も一瞬過ぎった。それはヴェロニクをメジャーにする最大の近道ではないのか?
だけど俺は嫌だ。来る日も来る日もハゲを治療するだけの人生なんて嫌だ。今現在そういう仕事をしている方はごめんなさい。
とにかく俺は、近道無しでヴェロニクをこの世界に蘇らせたいと思う。
◇◇◇
「ウサジさん、おつかれーッす」
「もう取調べは終わったんですか?」
俺が取り調べを受けていた間、ノエラ達は都の広場のカフェテラスで美味しいランチとスイーツをいただいていたようである。
「のんきでいいですね貴女達……私は王女の所に行くのでこれで失礼します」
「待ってよ! 私達も行くから!」
三人はテラスで食べていたキャラメルポップコーンをテイクアウトにして追い掛けて来る。俺の昼飯、パン二切れとお茶だけだったぞ。
◇◇◇
王女の塔に近づくと、向こうから女官の一人が大急ぎでやって来る。
「ウサジ様! ちょうど今マトレーヌ様が戻られました、お急ぎ下さい!」
おっとやべえ、一方的とはいえ約束してたんだった。俺は急いで塔の入り口に走る……ああ、マドレーヌはもう入り口の前に居て、こっちに走って来る。
「ウサジー!! あっ」
―― ドテッ
ああっ、転んだ! まずい、俺は加速して……しかし魔法のジャージの加速力もあって走るのがめちゃくちゃ速い三妖怪は、すぐに俺を追い越して先にマドレーヌの元に駆けつけた。
「王女様だいじょうぶ?」「今治療魔法をかけますよ」
「いいのじゃ!」
しかし涙目のマドレーヌは自力で立ち上がる。そこへようやく俺も駆けつける。
「どこへ行ってたのじゃウサジ!」
「すみません、アダルベルトさんに呼び出されてました」
「妾は約束通り学校に行って来たのじゃ! 約束を守ったのじゃ!」
「見事です、約束を果たされましたマドレーヌ様は立派です」
俺はマドレーヌの前に膝をつく。マドレーヌは何故だかとても興奮している。
「妾は今日、学校に行ったのじゃ! そうしたら下駄箱の所に、同じクラスの男子が居たのじゃ!」
「はい、クラスのお友……いや、クラスの子が」
「だから妾は言ったのじゃ! おはようって言ったのじゃ!」
「おはようって言ったのですか、それは元気が良くてとても偉いですよ」
「だけど……無視されたのじゃ」
マドレーヌは俯く。なんてこったい。マドレーヌは朝からそんな目に遭ってしまったのか。
「まあ、そういう事もありますよ」
しかしマドレーヌはすぐに顔を上げた。
「それでも妾は教室に行って、今度はみんなにおはようって言ったのじゃ、廊下にいた子にも、隣の席の子にも、一人一人言ったのじゃ、そうしたらみんなも、おはようって……おはようって言ってくれたのじゃ……」
マドレーヌはそう言って、さらに涙ぐむ。
どういう事なんだろう? 俺は一瞬周りの女官達に目を這わせる……ああ、這わせると言ってもエッチな意味じゃないぞ、今はね、今は。次は手を這わせたいね。
とにかく女官達は皆一様に驚いた顔をしている。そうか。マドレーヌは今までそういう事が出来なかったのか。マドレーヌがクラスメートに自分から挨拶したというのは、大変な事なんだな。
「良かったですねぇ、マドレーヌ様。勇気を出して本当に立派です」
「まだじゃ! それだけではないのじゃ、今日は休み時間も外で遊んだのじゃ! 皆に混ざって、妾もボールを投げたのじゃ!」
ええっ……そこまで無理しなくてもいいのに。いや勿論、やりたかったんならいいけどさ、まあ、今はそこまで言わなくていいか。
「皆さんとたくさん遊べたんですね、頑張り過ぎるくらい頑張りましたね、良かったです」
「よ、よくないのじゃ!」
「え? なぜですか?」
「ウサジの言う通り、妾は物を投げるのが下手過ぎるのじゃ……みんな口には出さないけれど、困っていたのじゃ……ウサジ! 約束通り、妾にクッションの投げ方を教えるのじゃ!」
ボール投げが楽しかったのか悔しかったのか、俺にはよく解らない。多分、マドレーヌ本人もよく解らないのだと思う。とにかくそこでマドレーヌはぽろりと涙をこぼした。
「わかりました。いいですね、女官の皆さん? マドレーヌ様がたまにはわんばくに遊ぶ為の練習をしても」
女官達はただ、顔を見合わせていたが。
「まだ、あるのじゃ、ウサジ!」
マドレーヌはいきなり、俺の両頬をつかんで自分の方を向かせる。何事?
「学校から帰る時、また下駄箱で朝の男子と会ったのじゃ!」
「あ……ああ、朝、返事をしてくれなかった子ですか」
「妾は……また無視されるのが怖くて、黙って通り過ぎようとしたのじゃ……そしたら!」
「そうしたら?」
「じゃあなー、って! その子が、じゃあなーって言ったんじゃ!」
あー。何か目に浮かぶわその光景。
マドレーヌはなんたって王女様だし、それ抜きでもめちゃくちゃ可愛い子だからな。男共もちょっと声を掛け辛いんだろうなあ。
そして言葉使いが変なのも災いして無口になってて、さらに孤立してしまっていたのか。
「妾はすぐに振り向いて、じゃあまた明日、って言ったんじゃ、他の子が言ってるみたいに言ったんじゃ!」
マドレーヌも自分の言葉が変だという自覚はあるのか。それで皆と同じ言葉を使おうと頑張ってみた。そしたら?
「そしたら……笑われたんじゃ……明日は休みだろー、って」
「そうでしたか、はは、それはちょっとだけ、うっかりしちゃいましたね」
「妾は……恥ずかしくて、顔が真っ赤になったのじゃ」
「そこまで恥ずかしがる事じゃないですよ、男の子も笑ってくれて良かったじゃありませんか」
「良くないのじゃ……ウサジ……!」
そこまで言って、マドレーヌはいきなり俺の首に抱きついて来た。
「どうして明日は休みなのじゃー! 妾は、妾は明日も学校に行きたいのじゃぁあー」
マドレーヌはとうとう、わんわん言って泣き出した。




