0077 世界史で出て来るのは異端審「問」だぞ、異端審問。受験生は気をつけてね
神官長の前で説明をと言うから、裁判所のような所へ連れて行かれて証言台のような物に立たされるかと思いきや。俺が連れて行かれたのは、町の中の大きな広場だった。
周りはたくさんの屋台やテントが立ち並び、様々な物を売っている繁華街だ……何? ストリップ小屋とかもあるじゃん! 今度こそえちえちなダークエルフのお姉さんは居ませんか!? ちょっと俺遊びに行って来ていい? 駄目?
「皆の者! ただ今より王国神官長アダルベルト様による、異端審査を行う!」
広場には俺の世界で言う、クイズ番組のようなセットが作られていた。回答者席は三つ……俺はそのうちの一つ、黄色の旗のついた回答者席に座らされる。他には赤の旗と青の旗の回答者席があり、そちらにも、いかにも偉い神官とか僧侶という風情の男が座った。
え……なにこれ……?
「善男善女の皆さん、こんにちは! 司会の神官長、アダルベルトです。本日はこの三人の中に、異端の聖職者が居るかどうか、皆さんと一緒に審査して行きたいと思います」
そして司会席と思しき壇上には、これまた金の掛かった大神官の服的な物を着た偉そうなおっさん、アダルベルトが立っている……これは嫌な予感しかしない。
「ウサジさん、頑張って!」
「駄目です、名前を呼んだら」
「あっ……ごめん」
頑張れって何を頑張れってんだ、本当にクイズ番組なのかこれ? そして俺に声を掛けたノエラは何故か、ラシェルに叱られている。
「……なお、審査は公平性を保つ為、三人の名前を伏せたまま行います」
アダルベルトは咳払いをしてそう告げる。ああ……そういう事か。でも俺、今名前バレちゃったね。
「はい!」
「はい、青の方」
あれ? クイズがまだ出ていないのに、青の旗の奴が手を挙げた。
「黄色の者はかつらをつけております。一般的に聖職者というものは俗世と決別した事を示す為に剃髪する事はあっても、逆にかつらで着飾るような事は無いと思います。黄色の者は異端ではないでしょうか」
やべぇぇぇぇえ!? いきなり痛い所を突かれた!?
最近はだいぶ見慣れて来たのだが……この回答席から見渡せる広い市場の男達は、みんな多かれ少なかれハゲている。
だ、だけど俺、ハゲてない奴も見たぞ? 勇者候補の金髪キザ野郎もハゲてなかったし、この広場にだってたまには……ああ……でもあれはかつらだな、少し浮いてる……あれもカツラ……カツラ……
「随分出来のいいかつらだな。いくらするんだ? そんなの」
赤い旗の回答者もそう言って俺を睨み付ける。ちなみに赤い奴は鉢巻き状の髪を残して他は剃り上げたトンスラのような姿で、青い奴はツルツルの坊主頭だ。アダルベルトは大きな帽子を被っていてよく解らない。
「かつらを……女神ヴェロニクはかつらを否定しません。ヴェロニクはかつらを被らなくてはならない男達に想いを寄せ、いつの日か全ての男達が真の頭髪を取り戻す日が来る事を願っております」
ちくしょう。俺は本当にかつらじゃないのに……しかしその事はこの世界ではトップシークレットなのだ、誰にも知られてはいけない……ガスパル王も額が頭頂部まで広がってたな。
「はい!」
「はい青の方」
「おためごかしだ! 耳障りのいい事を言って実際には何の役にも立っていない! そもそも男にとって髪の毛などという物は仕事の邪魔でしかないし、剃髪すれば皆が平等である!」
うへぇ、昭和の運動部かよ……
「ヴェロニクの教えは違います! 皆さん、髪を信じて下さい、貴方の髪は死んでなどいません、ただ眠っているだけなのです! 皆さんが心を一つにして願い、祈れば、正しき髪は必ず蘇ります!」
そこは譲れない俺は拳を握って力説する。ヴェロニクの祝福はこの世界におけるハゲの呪いを絶つ特効薬だ。ならば、ヴェロニクが復活すればこの世界から髪の悩みは無くなるのではないか? 俺はそう考えている。
おう坊主、何なら今この場でお前の毛根生き返らせたろか!? お前もフッサフサにしてやろうか! ああん? しかしシャイで意地悪な俺はそれを言い出せなかった。
聴衆は結構ざわめいている。つーか、人、どんどん集まって来るな……青空異端審査会場は、幾重にも連なる人々に包囲されて行く。
「聴衆の皆さまもだいぶ集まって参りましたので、そろそろ始めたいと思います。では、最初の相談者の方、お越し下さい」
え……まだ始まってなかったのか、異端審査。一体何をやらされるんだろう。




