0071 ああ^~ 幼女様かわええんじゃ、新しい性癖に目覚めるんじゃあ^~
マドレーヌが呼ぶと言っている女官達も既にリビングの外の廊下に集まっていた。彼女達もマドレーヌのわがままに困っているらしい。
大きな爺さんも肩を落とす。
「ほんの少し前までは爺と慕って下さったのだが……昨今は見ての通り、マドレーヌ様にとっては我輩も口うるさい大人の一人に過ぎぬのだ」
「とりあえず、子供の前でため息をつくのはやめて下さい。私がもう一度一人で行ってみます」
俺は爺さんも女官達も置いて、一人で扉をくぐる。
しかし自分で言うのも何だが、王女様をこんな不審者と二人きりにしていいのかよ……全く、俺がロリコンじゃなかったから良いようなものの。
「な、なぜ戻って来たのじゃ!」
「あー。あー。王女様に告ぐ。貴女の要求は何ですかー? 我々には交渉の用意がありまーす」
俺は自分でそう言ってから、異世界の子供に刑事ドラマの物真似をしてみせたって全く何の事か解らないだろうという事に気づく。案の定マドレーヌは困惑の表情を浮かべている。
「甘い物が食べたいですかー? 面白い芸人でも呼びましょうか、兵隊とモンスターのバトルを御覧に入れましょうか?」
「なっ……子供だましはお断りじゃ!」
「では休みが欲しいですか? 学校も宿題も休んで遊びに行きませんか」
俺がそこまで言うと、マドレーヌは黙り込む。まあ、俺の素敵なアイデアに心が動いたという事ではなさそうだ。
「そんな事……ならんのじゃ」
「ごめんなさいマドレーヌ様、よく聞こえないのでもう少し近づいていいですか」
俺は両手を小さく上げたまま、特に警戒もせず近づく。すると王女様は顔色を変え、またクッションを取って投げつけて来る。
「来るな!」
しかしやはりマドレーヌは物を投げるのが下手過ぎる。クッションはフラフラと舞い上がり……あ、でもちょうど俺の顔の辺りに飛んで来る。
―― ボフ。
「ぐわー」
俺は大袈裟に叫びながら、顔で受け止めたクッションを乗せたまま、海老反りをして仰向けに倒れる。
静寂が流れる。
「あ……あのな……その……痛くするつもりはなかったのじゃ……」
マドレーヌは恐る恐る近づいて来る。俺は瀕死のセミのようにピクリとも動かず仰向けに転がっていた。
「ウ……ウサジとか言ったな……冗談は控えよ、妾はガスパル王の一人娘、マドレーヌであるぞ……ウサジ? ウサジ!」
俺はマドレーヌが十分近づくのを待ってから、顔に乗ったクッションを払い、蝉ファイナルよろしくいきなり立ち上がって彼女に迫る。
「クッションの投げ方がなっていません! もっと綺麗に投げる方法を教えます」
「きゃあああ!? 卑怯じゃ、死んだふりなんて卑怯じゃ!」
「手を振って投げるのではありません、体を回して投げるのです! 私にお任せ下さい! 三日以内に、王女様が爺の顔に命中させられるくらい上手にクッションを投げられるようにして差し上げます!」
逃げるマドレーヌ。容赦なく追い掛ける俺。やがて壁際に追い詰められるマドレーヌ。これ以上やったらただの変態だという手前で、俺は王女を追うのをやめ、姿勢を正す。
「もう一度お伺いいたします、マドレーヌ王女。貴女の要求は何ですか? 何でもおっしゃって下さっていいんですよ。学校を休みたいならどうぞそうおっしゃって下さい、或いはお父様とお話しをされたいのですか? 私はオイゲン爺さんが連れて来た貴女の味方です。あのお爺さんは貴女を心配してるのです」
「そんな事……解ってるのじゃ!」
マドレーヌは一転、俺の方に駆け寄って来た。
「国民の為、兵士達の為、妾は立派な王女でなくてはならないのじゃ、そんな事は解ってるのじゃ、もし、それが出来ないなら……もうよいわ! 明日は学校に行く! ウサジ、御身は父や爺に頼まれて妾を説得に来たのであろう! ならば……」
俺の目の前までやって来たマドレーヌは、俺を見上げて必死そうにそう言って……そしてまた目を逸らす。
「御身の言う通りにするのじゃ。妾は明日、学校に行く」
そうか。行くのか。それならガスパル国王もオイゲン爺も安心するだろう。俺の仕事も成功という事になり、ヴェロニク信仰も国王から認められるかもしれない。
……
それでいいのか? うーん。