0070 まあでもさすがに8歳は無いわ。せめて13歳までは待たないと。紳士たれ!
俺達はそのまま城へと連れて行かれた。俺としては宿に連れて行ってくれる事を期待してたんだけどな……そしたらさっきの歓楽街にも行けるし。やっぱり俺達、囚人扱いなのかな。
「貴様は、あの三人と別の部屋でいいのだな?」
じじいも相変わらず俺を貴様と呼ぶ。歓楽街の群衆の前ではウサジ殿と呼んでくれたんだけどな。
「私は一人で構いませんが、あの三人は自由にしてやってはいただけませんか」
「……どういう事だ?」
「彼女達はヴェロニクの使徒ではありません、ただ森の奥で一人で困っていた私を助けてくれただけの親切な冒険者、何の責任も無いのです」
俺は鎌をかける意味も含めて、将軍にそう言ってみた。結局の所俺をどうするつもりなんですかね?
「解った。奴等は自由にさせる。だが奴等の方で貴様と一緒に居る事を選んだ場合には我輩は関知出来ぬ」
俺は将軍に連れられて城の中を行く。兵隊達はついて来ない、俺とじじいの二人だけだ。
まあ、城の中には西洋の王族や貴族の城や館には普通に居てもおかしくない、メイドさんは居た。うわー、本物のメイドさんだ。本物は秋葉原みたいに愛想良くないんだな。
「ここだ」
「……大きな塔ですね」
それは城を構成する建物の一つである、大きな塔だった。もしかして牢獄として使われているのだろうか? しかしそういう雰囲気でもない。
俺はその塔にじじいに連れられて入って行く。
◇◇◇
塔の二階は広いリビングになっていた。たくさんの調度品、ランプ、暖炉……快適装備の数々はあるものの、窓は本当にごく小さな物が一つしかない。正直、俺にはこの部屋が高級な牢獄に見えた。
俺はここに収監されるのか? しかしどうもそうではない気がする。
「……爺」
だだっ広い部屋の真ん中の、大きなカウチソファの隅で、背もたれに寄り添うようにして佇んでいた小さな女の子が振り向く……8歳くらいかな?
「マドレーヌ様、今日も学校に行かなかったのですか? 父上が、ガスパル王が心配しております」
マドレーヌ様? というのはこの女の子の名前かな。どうやらそのようだ。この子の父はガスパル王というのか。王様なのかな。ふーん。
え……マジ……? この子の父親が王様って事はこの子は王女様なのか!? この子が王女様だって事は、この子の父親は王様だって事か!? うわっ! うわー。王女様かあ。そんなもん初めて見たわ。
だけど王女様ってもっとピーチ姫みたいな恰好してるかと思ったのに、この王女様、まるで囚人みたいな恰好してないか? しましまのシャツにしましまのズボンを着て……いや、これはパジャマかな。
そして綺麗に切り揃えた桃色のセミロングの髪に、大きなターコイズの瞳。こりゃあと7、8年もすりゃ大層な美少女になるだろうなァ。その時はおじさんと遊びましょう、グヘヘ。大丈夫、思うだけなら逮捕されて処刑される事はあるまい。
「妾に父はおらぬ」
マドレーヌ様、は抱えていた牛のぬいぐるみに顔を埋めるように、ぷいと向こうを向いてしまう。
オイゲン爺は、聞こえるように溜息をつく。
「ウサジ殿。王女マドレーヌ様は最近、学校に行きたくないと仰せられるのだ。訳を尋ねても、こうして向こうを向くばかりで話していただけぬ」
知らねえよ……行きたくないんだから、行かなきゃいいじゃん。
あと、俺は何故ここに居るんだよ。俺みたいなどこの馬の骨とも解らぬニセ坊主を王女様に会わせていいの? 俺が王様だったらめっちゃ怒ると思うんだけど。
「その男は何じゃ。またあたらしい家庭教師か」
「こちらはウサジと申す僧侶でございます。マドレーヌ様の悩みを聞く為に、彼方の町より呼び寄せました」
「いやじゃ! 坊主の説教はこりごりじゃ!」
王女様は立ち上がり、ソファに積み上げられていた小さなクッションを掴んで投げる……が、投げ方があまりに下手過ぎて斜め上の方に飛んで落ちる。
「マドレーヌ様。どうかウサジの話を聞いて下さい」
「いやじゃいやじゃ! 今すぐ出て行かないと女官を呼ぶのじゃ!」
王女様、いやまあ、聞かん坊のマドレーヌは別のクッションを投げるが、やっぱり下手過ぎて1m先の床に叩きつけてしまう。
「ううむ……困った。貴様はどうすればいいと思う?」
オイゲン将軍は筋肉質な眉をハの字に歪めて俺を見た。この武骨な爺さんは本当に困っていて、本気で俺に何とかして欲しいと思っているらしい。
「マドレーヌ様のおっしゃる通り、私達が部屋の外に出るべきでしょう」
俺は身長2mの爺さんの肩を押し、部屋の外へと出る。