0069 要約すると、おまわりさんはエッチなお店をいじめるな! である
「僕は初めて見た時からドッキドキだったよ」
「私もだぞ。箱に入ったウサジを見て内心ガッツポーズしたからね」
「うふふ、クレールさんとてもそんな風に見えませんでしたよ」
「いや、クレールは真っ先に握手しに行ってた」
「良く覚えてるなー」「アハハハ」
「だいたい女三人でパーティ組んだのがそもそもの間違いですよ」
「なんか男嫌いキャラにされてるし」
「私もノエラも健康優良児だからな、興味無い訳ないじゃん」
「私だって立派なむっつりスケベですよ」
「アハハ」「アハハハ」
「黙って歩きなさい」
俺は一人で馬車に揺られていた。
王国の首都へと続く街道はさすがに人通りも多く、道中にもいくつも町や村、宿場がある。
列の先頭を行く将軍は恐らく有名人なのだろう、まあ有名じゃなかったとしても身長2メートルのマッチョな爺さんがピカピカの鎧を着てでかい馬に乗ってたら、嫌でも目につくわな。
その将軍が他の兵士を連れて警護しているのが、俺が乗っているこの馬車だ。
当初の予定ではこの馬車には勇者候補ノエラとそのパーティが乗るはずだったのだが、訳あって今は俺が一人で乗っている。
ノエラは天秤棒の両側に荷駄を下げて担いでいる。クレールは長柄のシャベルを、ラシェルは三つ又の鍬を担いでいて、馬車の行く先に凸凹があると、先回りして地均しをしている。
なんか俺、めちゃめちゃ偉そうだな……
実際通りすがりの人々は将軍や勇者ではなく、俺の方を指差してヒソヒソ話をしている。
馬車の旅は何事もなく退屈に進み、夕方には、その大きな城壁都市が見えて来た……ああ、高台には城も見えるな。
それで結局、俺はどういう処遇になるんだろう。マジで異端者として火炙りにされるんだったらどうしよう。
◇◇◇
城門の向こうは、今まで見たどの町よりも賑わう大都市になっていた。
「お兄さん、いい子が居ますよー!」
「旅の疲れはここに置いて行こう! 美女と混浴の店だよー!」
いい感じの呼び込みの声も聞こえて来るなあ。俺、ここで降りちゃ駄目ですか? 俺がそう考えた瞬間。
「控えろ下郎共がああ! 聖職者が通るのだ、その猥雑な呼び込みを止めよ!」
ヒエッ!? あのじじいが通りの人々を一喝しやがった! 辺りが静まり返る……俺は慌てて馬車の窓から顔を出す……ああ……呼び込みの兄ちゃん姉ちゃん達が硬直してる。
「ええい、下がれ、下がれ!」
兵隊達も剣を抜き、城門近くの歓楽街の人々を威嚇する。
やめて欲しいなあこういうの、なんか俺のせいみたいになっちゃうじゃん……それだと後で俺が遊びに来れなくなっちゃうじゃん……そんなのは困る。美女と混浴というのは特に惹かれるな、今度こそエッチなダークエルフのお姉さんに会えないだろうか?
まあいいや、とにかく今は顔を隠しておくか。俺はそう思い、馬車の扉の下に屈み込む。
「何事ですか、オイゲン将軍!!」
しかし、馬車の中に隠れるつもりだった俺は、気が付けば馬車の外に飛び出していた。そこへ兵士達が慌てて駆け寄って来る。
「ウサジ殿! 外へ出てはならぬ!」
しかし三妖怪はそれよりも早く集まって来て、兵士と俺の間に入る。さすが付き人ジャージ、動きが速い!
俺はそのまま騎上のじじいの足元に駆け寄る。じじいは何故か馬を降りた。
「やめて下さい将軍! 皆さん生活があるんですよ!」
俺はそう言って将軍を制し、周辺に呼び掛ける。
「皆さん、お騒がせして申し訳ありません! お仕事ご苦労様です、どうか我々に構わず続けて下さい!」
どよどよと、人々がどよめく声がする。
こういう場所の空気というのはすぐには元に戻らない。ああ。入店しようか迷っていた客が、興醒めして離れて行く……クソッ、お兄さんお姉さん達にだって生活があるんだぞ。
「何か……我輩のした事が貴様の気に障ったのだろうか」
後ろで将軍がそう言った。ああ? じじいのくせにそんな事も解らないのか、そんな訳ねーだろ!
「貴方は将軍と呼ばれるようになるまで、人々の間で名を上げた方なのでしょう。それで何故人々の暮らしの事が解らないのですか。魔王と魔族に侵食され、人の世界は縮小を続け、やがて消え失せようとしている。今、人の世界に必要なのは生きる喜びです、守りたい喜びがあるから人は戦うのです」
大目に見て欲しいなあ、俺達モテない男にも、生きる権利があるんだから。