0065 この本も……この本も。この本も! エッチな本が一冊も無いだと!?
じじいは俺達四人に、馬車に乗るよう命じたのだが。
「乗れません! 私とノエラはウサジさんの付き人です、主が馬に乗るならその轡を取り、主が車に乗るならその道を均すのが付き人なんです、主と同じ車に乗るなんてもってのほかです、私達は徒歩で従います!」
「そ、そうです! 僕達は馬車の周りを歩きます!」
ラシェルが思いの外抵抗し、ノエラもそれに従った。兵隊達も困惑したが、将軍は結局、好きにしろと言った。
「お前達はこの町に残り、敵襲に備えよ。狂戦士達には決してこちらからは手を出すな……違反した者は処刑する。よいな?」
「は……はい将軍! 狂戦士達にはこちらからは手を出しません!」
そして意外な事に、オイゲン将軍はヴェロニカに手勢のほとんどを残すらしい。金髪キザ野郎のパーティも残すのか。まあ、もしかしたらアスタロウがまた来るかもしれないし、心強いっちゃあ心強い。実力はあるんだろ? あいつら。
俺達の護送は将軍自身と、ほんの10人程度の兵だけだ。じゃあラシェルがまたあの睡眠薬を仕込む事が出来れば、簡単に逃げ出せるかもしれないな。それでいいのかどうかは解らんが。
◇◇◇
馬車は田舎道をゴトゴトと進む……こういう乗り物に乗ると、元の世界の自動車がどんなに凄い乗り物だったか良く解るな……ゴムタイヤなんかついてる訳もないし魔法のサスペンションなんて物もないから、とにかく振動が激しい。
「外を歩いてる方が楽そうだな……」
クレールも思わず、窓の外のノエラを見てそうつぶやく。
座席が上下左右前後に不規則に振動するもんだから、クレールの推定Fカップの美乳も3D揺れを起こしている。右と左が互い違いに揺れたりして何ともかんとも良い眺めだな……そこだけは、そこだけは悪くない。
途中一度、農家の荷車が道を譲って止まっているのが見えた。満載した藁の上に子供が寝転んでやがる。畜生、絶対そっちの方が乗り心地いいだろ。
それでも大きな街道に出てからは振動も少なくなり、乗り心地もマシになった。クレールの3D揺れも止まってしまったが。
「ウサジさん……ここで例の物、仕掛けてもようございますか」
途中、小休止のタイミングでラシェルが馬車の窓辺に忍び寄って来て、悪そうな顔でそう囁く。
「ラシェルさん、私ちょっと気が変わりましたので……このままオイゲン将軍について行ってみたいと思います」
「ははっ。仰せのままに」
◇◇◇
一行は途中の砦で一泊する事になった。結構遠くから来てたんだな、あの軍隊。
そして俺は少しだけ、将軍が俺を客扱いしてくれる事を期待していたのだが。
「ウサジ。悪いがこの砦に個室は二つしかなく、一つは城主の部屋でもう一つは独居房だ。貴様には独居房に入って貰うしかない……」
あーあ。やっぱりそういう扱いかよ、クソジジイが。
地下にある独居房は暗く殺風景な所で……と思ったら絨毯も敷いてあるしベッドも置いてある、ランプもいくつもあるし酒まで置いてあるじゃねーか。
この国の牢獄は北欧並みに充実してんの? だけど独居房の手前にあった雑居房は石煉瓦剥き出しの、普通にイメージ出来る中世の牢獄だった。
俺は独居房で一人になった。とうとうこのザマか……畜生、俺まだ痴漢も下着泥棒もしてないのに。
ふと見ると扉の鍵が閉まってない。何だ、外に出てもいいのか? そう思って俺は一度独居房を出てみたが、
「……」
ヒエッ!? 外の雑居房の床に一人で座っているじじいと目が合った! なんなんだあいつ、俺を見張ってんのか!? どういう嫌がらせだよ本当に……俺は黙って独居房に戻る。
あーあ。何か間違ったかなァ俺。あんなじじいに大人しくついて来るんじゃなかった。
むしゃくしゃするぜ。
こんなんじゃ今夜ヴェロニクに会った時、俺、どうにかなっちゃうかも? 行っちゃうかも? どーんと行っちゃうかも?
そうなると俺の今の肉体ってどうなるんだろうな……まあいいやそんな事。
部屋には本棚があり、結構色んな本が置いてある……神様の本もありそうだが、勉強とか面倒くせえなあ。本当は調べて来るって言ってたんだけど、今夜はもう寝ようか。こんな部屋で一人で起きてるくらいなら、ヴェロニクに会いに行った方がマシだわ。
俺はそう思って、さっさとベッドに入る。クレールは別の牢獄に囚われてるのだろうか……
「将軍閣下! ウサジが独居房に居るというのは本当ですか!」
その途端。地上への階段の方から、クレールの声がした。
「……他に個室は無いのだ。独居房だがきちんとした家具を運ばせてある、そんなに不自由は無いはずだ」
「どんなに飾り立てようと独居房は独居房、そこは不逞の輩を閉じ込める為の場所です! ウサジをそんな所へ入れないでいただきたい! さあ、その奥の鍵を開けて下さい!」
「クレール、我輩は鍵など掛けておらぬ」
「だったら……!」
足音がどんどん近づいて来る。一つはクレールが駆けて来る音、もう一つはじじいが立ち上がってやって来る音か。
―― バタン!
そして勢いよく扉を開け、クレールは現れた。
「ウサジ! こんな所へ閉じ込められて……なんて酷い!」
いや、まあ……ここは見ての通り清潔なベッドに毛皮の絨毯も敷いてあって、ランプも贅沢にかかってて……隠れ家的居酒屋みたいな風情の快適な空間に仕上がっている訳だが……だけどクレールはずかずかと入って来て、俺の腕を掴む。
「私がもっと早くに気づいていれば……! すまない! すまないウサジ!」
「クレール……貴様何がそこまで」
「閣下! ウサジはこれまで、逃げようと思えばいつでも逃げられるのに、黙ってついて来てくれたのだ! そんなウサジを何故疑う!」
「疑ってはおらぬ、ただ他に部屋が無いからここに」
「部屋なら城主部屋があるではないか!」
「だから、そこは貴様に使わせてウサジはこちらに案内したのだ」
「私が女だからか!? 私は女である前に戦士だ、そういう覚悟で近衛騎士団を離れ、ノエラ達と共に旅に出たのだ!」
クレールはそう、じじいに大見得を切り、俺の方をキッと睨む。な……なに? なんなの?
「クレール、我輩は男嫌いの貴様に配慮して」
「ウサジは男女の性別などはとうに超越した、私の大事な仲間だ! 将軍閣下! 御配慮をいただけたというのならお礼を申し上げます、私の態度が悪いのならお詫びを申し上げます、ですがこのような分別は無用です! さあウサジ、こんな所からは出よう!」
クレールは俺の手を強引に引っ張り、階段の方へ引きずって行く。痛い、痛い、何なの、どうしたのクレール?




