0064 俺も決してちんちんのデカさ比べが好きな訳じゃないんだ、解って欲しい
えっ……俺? 俺に用が?
俺は正直お年寄りが苦手で、こちらとしては何の用も無いんだが、この不穏な雰囲気は何とかしたいので、一応前に出てみる。
「私がそのウサジです。私に御用の方とは珍しい」
向こうからも金ぴか衣の神官が進み出て来て、巨大なオイゲン爺さんに耳打ちする。そういやあいつも名前が解らん。
「ヴェロニクなどという女神は王国17柱の中に入っておりません……お気をつけ下さい、こいつは魔女の手先かもしれません」
そういや俺、他の神様について調べて来るの忘れてたわ。ヴェロニクも言わないけど。
「ウサジさん、この辺りには王国公認の17柱の神様が居て、確かにヴェロニク様はその中に入ってないんです、だけど世界には非公認の神様も居て各地で信仰を集めています」
こちらもラシェルが、俺の後ろに忍び寄って来て囁く。こいつ可憐な美少女だった時よりこの生態になってからの方が生き生きとしているような。
「……我輩は国王陛下より、この件に関する全権を任されて来た」
―― ドンッ!
ひえっ!? 爺さんはいきなり、傍らの金ぴか神官を後ろ手に突き飛ばした! 金神官は弾き飛ばされて目を見開き、尻餅をつく……お前そいつ、お前の味方じゃないのかよ!? 恐ぇえ……
「ヴェロニクの使徒ウサジ。貴様が如何なる者なのか……我が目、我が耳で、しかと確かめさせてもらう」
なんなんだこの展開は……俺は「お嬢さんを私に下さい」って言いに来た娘の彼氏か?
確かめるって何をするんだ。一緒に風呂に入るとか言い出すのはやめてくれよ? 気持ち悪い。言っておくが、俺は銭湯で前を隠すようなキンタマの小さな男じゃねえぞ、あんなもんは丸出しだ! 全開だ!
「聞け、ウサジ……」
な……何だ……? 何が来る……?
爺は、指を一本立てる。
「とある国の王女が朝、学校に行くのを嫌がって泣いていた。何故行きたくないのかと尋ねても答えない。国王は貴様に、何とか娘を学校に行かせるようにと命じた……その時、貴様はどうする?」
は?
何これ? この国、この世界では異端審査はこんな風にやるのか……?
いや……そうでもないみたいだな。クレールもノエラも唖然としてるし、金髪キザ野郎も金官もドン引きしている。兵隊達も呆気に取られている……
だけどそんな事聞かれても知らねえよ、俺は親でも先生でもないし、正直言って学校なんて無ければいいと思っていた側の人間だ。そうだな……娘っていくつだろう? JKならそのまま王様の金でディズニーランドにでも連れてって、隙を見て食べちゃう? その後は死刑になるかもしれないが。
「……その娘さんは何歳ですか」
「8歳だ」
「娘さんに兄弟は居ますか」
「いや。だが国の父たる王は多忙にて例え一人娘と謂えど」
俺は溜息でオイゲン将軍の言葉を遮る。
「たった一人の幼い娘が泣いているのに、人任せで学校に連れて行けなどと言う、そんな薄情で器量の無い男に、国の父たる王が務まるのですか。私なら王を娘の元に引き摺って行きます。学校より、二人でピクニックにでも行けば良いのです」
「ああ? 国王陛下を何だと思ってるんだい!」
そこに今度は、金髪キザ野郎が俺の言葉を遮って来る。
「お前には国王陛下もそのへんのオッサンも一緒なようだな! お祈りばかりしていて社会に出た事も無いんじゃないのか! 忙しいんだよ国王陛下は、そんな陛下に代わって、王女を学校に連れて行くのが臣下の務めだろうが!」
兵隊の中からも声が挙がる。
「そうだそうだ!」「学校に行かないでどうするんだ!」「酷い僧侶も居たもんだ!」
うっせーハゲ。それでどうすんだよこんなの、俺をどうするか決めたか。そういう気持ちで、俺はオイゲンを見上げる。
「……僧侶ウサジ。貴様には一緒に来て貰わなくてはならぬようだ」
オイゲンは、俺をギロリと睨み、そう告げた。
「ハハハハ! そうだろう、ざまぁみろウサジ! そしてノエラ、お前の勇者ごっこもこれで終わりだな、お前のパーティの回復役の僧侶は怪しい新興宗教の使徒で、その奇跡は紛い物だった! プワハハハ!」
金髪キザ野郎が高笑いをする……俺達の周りを、兵隊達が取り囲んで来る。どうやら俺もノエラ達も、こいつらに捕えられてどこかに連れて行かれるらしい。
まあこれでラガーリン達からは目を逸らす事が出来たかな。