0063 君達が愛した僕っ娘美少女は死んだ! 辛くても新しいおかずを探すんだな
俺がこの世界にやって来てから、何日経ったのだろう。これまでは毎日のように何かの事件が起きていた。
だけど翌日は一日、何事もない時間が過ぎた。俺達は町の周りをパトロールしたり、お腹を空かせた人にパンを配ったりして過ごした。
夜には体育館の夢を見た。俺はバレー部の監督でヴェロニクは選手という設定だったが、俺達はバドミントンのネットを出してそっちで遊んだ。
翌日もパトロールとパンの配達。途中二度ほどクマーモスが現れたが、問題なく退治出来た。クレールがまた俺にぶつかって来て、そっちの方が痛かった。
次の夜はファミレスである。俺は店長でヴェロニクはウェイトレスだが、どうせ客は来ないので休憩室でマリオカートをして過ごした。
翌日もパトロールとパンの配達……だんだんこの町にも飽きて来た。夕方には礼拝堂に集まって来た連中に説教を請われたので、
「皆さん前回の説教から今日までに、ちゃんと自分を甘やかして来ましたか? 最初から自分を甘やかしてる人はこんな所に来ません、ここに居る皆さんはちょっとずつ自分に厳しい人達なのです。ヴェロニク様が心配しますので、あまり自分を責めないで下さい」
そんな話をしてごまかした。そうして平和な日々が何日か続いた、その後で。
「この町に向かって、たくさんの軍勢が進んで来ます! 魔物ではありません、人間の軍勢です!」
問題はやって来た。
◇◇◇
ヴェロニカの町に迫って来たのは、人間の軍勢だった。鉄の鎧を着て長い槍を持った重装歩兵、皮鎧を身に着け複合弓を持った長弓兵、そして揃いの鉄仮面を纏い筋骨隆々の軍馬に跨った重装騎兵……何とも物々しい姿だ。
彼等はこの町の小領主の要請に応えてやって来た援軍だろうか? どうもそういうものではないような気がする。では一体なんだ? まさかあの軍勢で、あのラガーリン達の集落を攻め滅ぼそうと言うのか?
何せあの……軍勢の先頭に立ち得意顔でやって来るあいつは、やはり名前を思い出せないがあの勇者候補の金髪キザ野郎である。つーかあいつ、俺に名前名乗った事あったっけ?
「ふーん、逃げずにここに残っていた事だけは褒めてやるよ。将軍! あいつです、魔物の治療をしていた、人類の裏切り者は!」
何か……大丈夫か? あの勇者候補の金髪キザ野郎、急にスケールが小さくなったような……あの男、装備やレベルという点ではノエラより格上なんだよな?
「そっ、そうだ! 俺はこの辺りで出会い頭に狂戦士の幹部格の奴を一体倒したんだ、それなのにあの野郎がすぐに治療呪文をかけて!」
戦士のデッカーも、まるでサンピンのごろつきみたいに、俺の方を指差しながら将軍とやらに懸命に訴えている……何つーかガッカリだなあ。あいつらはそれなりの強者なのだと思ってたのに。
或いはこの世界の兵隊は勇者パーティよりずーっと強いのか? そんなに強い軍隊が居るなら、軍隊が魔王を倒せよ。
さて、その将軍と呼ばれた男は……爺さんだった。しかし身長は2mぐらいあるし腕周りなんかクレールの腰より太そうだ。権力抜きでも普通にデッカーより強そうだな、この爺さん。
「勇者候補ノエラよ。前に出よ」
爺さんは騎乗のまま進み出て来る。威圧感パネェ。だけど困ったな、勇者候補のノエラは今、留守なんですよ、ちょっと所用で遠くに行っておりまして……
「……オイゲン将軍! 僕の話を聞いて下さい!」
ああっ!? ノエラが俺の前に飛び出した! 出てくんなバカ空気読めッ!
「ププッ」「なんだあれ」
ほらみろ……カモメ眉毛にクソダサジャージの、付き人姿になったノエラを見て兵隊さんがクスクス笑ってる……畜生、お前らだって全員ハゲのくせに。
「なんて事だ……なんて事だ……」「ノエラちゃんに何があったんだ……」
だけど動揺してる兵隊さんも居るな。ノエラって結構有名人だったのか。そうだよなあ。元は元気で明るい僕っ娘の王道美少女勇者だったんだもの。
「お久しぶりです、将軍閣下」
「……クレールか」
オイゲン将軍は続いて進み出たクレールの方に顔を向ける。彼の目にはノエラは見えなかったらしい。何だよ、自分で呼び出したくせに。
「私共の主張も聞いて下さい。ラガーリン族は魔王が作り出した魔物ではありません、我々と同じこの世界の住人です、彼等は魔族に女子供を人質に取られ、人類を襲う尖兵となる事を命じられてました、その姦計を見破り、打ち砕いたのがこの……ヴェロニクの使徒、ウサジです。ラガーリン達はウサジに感謝しています。今はまだ不可侵条約を結んだに過ぎませんが、彼等も魔族が支配する世界には自分達の居場所は無いという事は解っていて、将来的には我等と結び、魔族に対抗する事を望んでいるのです」
オイゲンという名前らしい爺さんは、クレールの事を睨みつけたまま、暫く黙っていた。何か考えてるような顔をしてるけど、本当はクレールの胸の谷間を凝視してるんじゃねーの?
「……狂戦士達が未だ魔族に支配されていて、我等の隙を伺っている可能性もある。簡単には矛を収められるものではないと、お主も解っているだろう。だが我輩が憂慮しているのは狂戦士の事ではない……その男……ヴェロニクの使徒、ウサジとやらの事だ」