0061 ベッドの中でなら何度でも聞かせてあげるようぇーっへっへっへっへっへ
俺はゆっくりと、説教台の前に立つ。礼拝堂の席は半分以上埋まっている……何という心苦しさだ。どうすんだよヴェロニク。
まあ、出来ない事をやろうたって出来る訳無いんだから、適当にそれっぽい話をすりゃあいいんだ。
スカートとスピーチは、短い程いい! みたいな奴をだな。
「皆さん。ごはんは食べましたか」
あっ……俺、最高にくだらない事から話し始めてる。
案の定、聴衆はポカンとしている。
「美味しい物を食べると元気が出ますね。私の友人達は先日、この町のアイスクリームを食べていました。とても幸せそうでした」
その後、そのうちの一人は友人から付き人に格下げされたのだが。いや、ますます下らないなこの話。どうすんだ、もう話し始めちゃったぞ俺。
「皆さんはただでさえ大変な時代を生きているのですから、毎日自分の事をたくさん褒めてあげて下さい。褒美をあげて下さい」
なんだか女の子の雑誌に書いてありそうな話である。まあいいや。聴衆はシーンとして聞いている。勘弁してくれ、もっと雑談とかしながらダラダラ聞けよ。
「けれどもたまに、自分を褒めるのが下手な人、褒美をあげるのが下手な人が居ます。折角アイスクリームを食べたのに、食べ終えた後で、何故自分はアイスクリームを食べてしまったのだろうと、後悔する人が世の中には居るのです」
ダイエット中の、カロリーを気にしているOLさんとかね。さすがにこの世界の連中はカロリーの事なんか知らんだろうなあ。
「皆さんは、自分は何のために生まれたのだと思いますか?」
おっ、何か俺坊主っぽい事を言い出したぞ。いいね。
ちなみに俺はそれは、エッチなビデオとかゲームとか見てムフフってなってスッキリしたり、から揚げを肴にビールを飲んだりする為だと思っている。
「親孝行をする為ですか? 世の為人の為働く為ですか? 神に仕える為ですか? どれも不正解とは言いませんが、その前に。あなたがこの世界に生まれて来たのは、あなたが幸せになる為なのです」
俺は聴衆を見回す。あれ……何も反応無いわ……まあ、いいか。
「ヴェロニク様はあなたの幸福を願い、祝福を授けるのです……皆さん。ヴェロニク様を信じて下さるのなら、まず自分を、皆さんご自身を信じて下さい、あなたは美味しい物を食べたり、素敵な物を見たり、人や自然との関わりを楽しんだりする為に生まれたのです。あなたの喜びは、女神ヴェロニク様の喜びとなります。それでは御唱和下さい。ヴェロニク様しゅきしゅきだいしゅき」
最初から最後までヤケクソの俺は、真顔でそう言った。まああれだ。飯食う時はカロリーとか気にすんな。男はエロ動画見た後の自己嫌悪に負けるな。女は気軽にエッチに応じろ。もちろん、俺に求められた時だけでいいからね。
「ヴェロニク様、シュキ、シュキ、ダイシュキ」
かなり戸惑いを含んだ声で、聴衆は呪文を唱えるように、そう応えた。
「ありがとうございました」
俺は適当に御辞儀をして説教台を降りる……目の前に居た髪結いのハゲが、目を丸くして口を開く。
「あの、ウサジ様……これだけですか?」
「ええ。今日は、これだけ」
俺が礼拝堂から解放され、聴衆が帰って行く中。領主の館に報告に行っていたクレールが戻って来た。
「ウサジ! 説法はもう終わってしまったのか?」
「説法なんてものじゃないですけど、もう終わりましたよ」
「そんな……私はそれを聞きたくて、領主殿への報告を適当に済ませて大急ぎで戻って来たのだ」
「はは、駄目じゃないですかクレールさん」
クレールはまた俺の手を、いや腕を取る。最近多いなこれ。うぇへへへ。
「ウサジ、私にだけもう一度聞かせて貰う訳にはいかないのか?」
俺は少しだけ間を置いてから、笑顔で答える。
「勘弁して下さい、私、本当はお説教なんてするのもされるのも大嫌いなんです」