0059 なんとかあの姉ちゃんだけ救う方法は無いのか。あのおっぱいを揉みたいなあ
幸い治療は間に合い、ラガーリンは一命を取り留めた。
「彼等は魔物などではない! 同じ地域に住む住人です!」
俺はまだ巨大なハンマーを構えたままのデッカーと、ラガーリン達の間に立ちはだかる。
幸い、気心の知れた門の衛兵達はすぐに俺に味方してくれた。
「このラガーリン達は交渉に来ているのです! 手荒な真似はおやめ下さい!」
しかしそれを聞いた金髪気障野郎は、露骨に眉を顰める。
「不愉快極まりないね! この町が狂戦士の集団に襲われて助けを求めてるって聞いたから、こうして他のクエストを後回しにしてまで駆けつけてやったのに! 手荒な真似はやめろだって? こいつらがその狂戦士じゃないか、ああ?」
金髪キザはそう言って、抗議した衛兵の胸倉に掴みかかる。
「説明不足だった事は私がお詫びします!」
そう言って俺は衛兵とキザ野郎の間に割って入ろうとする……意外にもキザ野郎は俺が触れる前に胸倉を掴んでいた衛兵から離れた。
「そうだな、説明してくれよ。お前らは魔物とグルになってたの? これは大変なスキャンダルだねぇ! それで? ノエラはどうしたんだ? ノエラ! 出て来て説明しなよ!」
うちのパーティの連中はと言えば、クレールとラシェルは俺に続いて門から飛び出して来たが、ノエラは……ああ……キザ野郎に言われておずおずと出て来た……
「な……何あれ! キャハハハハ!!」
相手パーティの色気ムンムンの女魔術師が笑う。うーん、あれがキャバ嬢だったら間違いなく好みの部類なんだが。
「こりゃあ驚いた! どうしちゃったんだいノエラ君? 君も勇者を目指してたんじゃなかったっけ? いつ芸人志望に鞍替えしたんだい?」
「べ、別に鞍替えなんかしてない……! 僕は今でも、勇者を目指してる……」
ノエラの声はいつになく小さかった。ああ……筋肉達磨も金ぴか神官も笑う……クソッ……こんな事があると解ってたら、付き人の格好なんかさせなかったのに。
「……とにかく! このラガーリン達とは不可侵条約を結ぶ事になったんだ、説明出来なかったのは本当に謝るよ、ごめんなさい!」
ノエラは何とか意気地を奮い起こし、そう言って深く頭を下げる。
「ラガーリン達は魔族に操られていたんだ、そしてそれが解ったからこの町と講和してくれた、だけどこの町に対する魔族の脅威は無くなっていない、むしろ強くなっている、この町には魔族と戦う力が必要なんだ、だからどうか力を貸して、」
「調子のいい事を言うんじゃないよ!!」
金髪キザ野郎は、付き人ジャージに極太カモメ眉毛メイクで必死に訴える、ノエラの言葉を途中で遮る。
「狂戦士は、魔族に操られていた? じゃあノエラ、お前が今、魔族に操られてないって証拠はどこにあるんだ? この町が丸ごと、僕らを陥れて始末しようとしている魔族の罠ではないって証拠は? 狂戦士に襲われたと言って助けを求めて来たくせに、狂戦士とは講和したって言われてもね!」
金髪キザは顔を歪めて笑い、ノエラに人差し指を突きつける。
ノエラは……涙目で吼える。
「魔族が……死体を操る死霊術士や、飛行能力を持った魔王軍の幹部級の魔族が現れて、この町を狙っているのは本当なんだ! 本当に、本当に強い相手だから、僕なんかじゃこの町の人々をあいつらから守りきれないから……だから御願いします! どうかこの町を守るのに力を貸して下さい!」
ノエラはそう言って、金髪キザの前で地面に膝と手をつく。
俺にはそれを止める事は出来なかった。
少なくとも、ノエラは俺と一緒にアスタロウに遭っている。俺には奴の強さはさっぱり解らなかったが、一角の強者であるノエラは、奴の強さを感じ取っていたのだろう。
そして奴のような敵と戦いこの町の人々を守る為には、とにかくレベルの高い冒険者の助力が必要だと感じている。
そうか。ノエラは本当に勇者なんだな。
「お断りだよ! 全く酷い無駄足を踏んだもんだ! 僕らが週に平均していくら稼ぐか知ってんの? 弁償してくれないかなマジで! いやいいよ、お前らと付き合うのは御免だし、国王や大公と話すよ! 魔物と結託して何かやってる奴等が居るってなあ!」
しかし。金髪キザ野郎はそう言って、身を翻した。
「ま、待てッ!」
クレールが慌てて飛び出そうとして来るのを、俺は腕を出して制する。
「そうですよ、この町は国王に言って取り潰してもらいましょう」
「魔物に味方して、勇者を追い払う町だからな!」
金ぴか神官が、筋肉達磨がそう吐き捨てて、すたすたと歩み去る金髪キザ野郎について行く。お色気姉ちゃんは金髪キザ野郎の腕にしなだれている。畜生、見せつけやがって。
俺はともかく、無駄に地面に平伏してしまったノエラを助け起こす。
「よく頑張りましたねノエラさん。だけどあんな奴ら、立ち去ってくれて清々しましたよ……さあ、立って」
「ウサジ……ごめんなさい……僕、本当に何の役にも立てなくて……」
「そんな事はありません。今回の事でも確信しましたよ、本物の勇者はあんな奴ではなく貴女ですよ」
こんな事があっても、俺の心持ちは意外と穏やかだった。あーあ。あいつら本当にジュノンを追放してしまったんだな。