0058 起きてから寝るまで飯とエッチの事しか考えなくていい……それが平和だろ?
今ではヴェロニカと名乗るようになった町の外。
魔族に煽動され、または家族を人質に取られて町を襲い、俺達に討ち取られて死んだラガーリンの狂戦士達は、一つの墓標の下にまとめて埋められた。
墓標である大きな岩の周りには、花が植えられていた。
そして今日のラガーリン達は武器も持たず、十数人でやって来て、その墓の前に立ち尽くしていた。
「ウサジ……これは」
「……復讐に来たのではなさそうですね」
俺が適当に植えた野の花は想像以上に見事に岩の周りを彩っていた。周りは荒れ地なので、その様子は一際目立つ。
しかし二日前に植え替えた花がこんなに見事に定着するものか? ここには何等かの力が働いたのだと思う。
「うサジは何故こんな事ヲしタ?」
ラガーリンの個体の見分けなどつかないと思っていたが。これは昨日も話した爺さんだな。爺さんは剛毅にも仲間の護衛を断り、一人で俺の近くまで歩いて来てそう言った。
「戦いが終われば、敵ではないからです。彼等が平和に眠れるように」
俺がそう言うと、
「ふあああっ!」
後ろの後ろで、ノエラがおかしな声を上げて身悶えする。結局この子は何なんだ、坊主萌えとかそういう特殊性癖か?
俺はもう一度、老いたラガーリンに向き直る。
「ワレハ、オログ。部族を代表シ……お前たチに、友好を申シ入レる」
同行していた町の男達の一人が笑う。
「なんだこいつ偉そうに、友好だとよ」
別の男が、怒りの声を上げる。
「自分達から攻め込んで来て、負けたら友好とか虫が良過ぎるんじゃねえか!?」
俺は男達の方に振り返って言う。
「彼等の言葉が乱暴だとすれば、私達が彼等に乱暴な言葉しか掛けないからです。そして今、彼等は私達より価値のある言葉を話しています」
何でもいいじゃねえか。この町にはこれから魔族が攻撃を仕掛けて来るかもしれないんだ、他の敵は少ない方がいいだろ。
「オログさん、よくぞ思い切ってここに来て下さいました。私達は貴方を歓迎します。是非とも領主に会って下さい」
◇◇◇
ラガーリン達が比較的少人数で来てくれた事は幸いだった。この町の領主の館は狭いのだ。領主ならもうちょっと何とかしろよ……あと美人の孫娘かメイドを置いておけ。
ともかく領主もラガーリン達と和平を結ぶ事に賛成し、館ではささやかな宴が催される事になった。
まあ、宴と言っても給仕のお姉さん一人居ない辛気臭い物だったのだが。
オログが言うには、やはり彼等は煽動と脅迫によって魔族の尖兵として使われていたのだと言う。オログはそれを正直に話した。
そして一昨日の夜、彼等がアスタロウに率いられてやって来た時、あの時には実は魔族の死霊術師も同行していたのだと言う。
「仲間の死体ガ、起き上ガッテ戦ウ……ワレワレはそう聞いてイタ。死体は起きなかっタ。あれはなぜか? 魔族は人間が死体をバラバラにしたからだと言っタ」
「女神ヴェロニクは貴方達も人間も同じように救う事を望まれています。死体が起き上がらなかったのは戦士達の魂が女神ヴェロニクの元に召喚されたからです」
ヒエッ、あぶねー、マジで魔族はゾンビ化攻撃を掛けようとしてたのか。
付き人共は着席せず来賓に給仕をしていたのだが、またノエラが蹲って身悶えするのを、ラシェルが咎めて引き起こしている。
人間とラガーリン、今すぐ互いに心を許し、協力し合うなんて事は出来ないんだと思う。俺も正直こいつらの体臭は苦手だわ。つー事はまあ、こいつらも俺の体臭は苦手なんだろうな。
だけどお互い、自種族の女と毎日平和に楽しくエッチして過ごせる、そんな時代が来るように、ルールを決めて付き合う事は出来るんじゃないか。
◇◇◇
ささやかな宴は、お互いに停戦と居住地への不可侵を約束してお開きとなった。
ラガーリンの代表団の見送りにも俺が行く事になった。
「うサジ。感謝し、尊敬スル。ヴェロニクの恩恵、ワレらも信じる」
「ありがとう、オログさん。私達はきっと仲良くなれます」
今ではヴェロニカという名前を名乗るようになった町の門を、オログ達ラガーリンの交渉代表団が出て行く、その時だった。
「ギャアアア!!」
先行して道を行っていたラガーリンが悲鳴を上げた。
俺はただちにそちらに駆け付けた。すると……
「なんだあ? こんな町の近くに狂戦士が居るのかよ」
講和の宴に参加していたラガーリンの一人が倒れていた。俺は慌てて駆け寄ってそいつにしゅくふくをかける。
「おい、なんで魔物の治療をしてるんだ、あっ……てめえは前にも会った……!」
ラガーリンの使者をいきなり殴りつけて殺そうとしたのは、いつかの筋肉達磨、デッカーだった。
その後ろには以前見たパーティが居た。金ぴかの衣を着た神官っぽい奴、それに色気ムンムンのホステスみたいな姉ちゃん。そして勇者候補の気障りな金髪野郎……!