0055 据え膳食わぬは男の恥。今時の若い奴は知らないだろ、こんな雅な言葉
とにかく俺は森の中で見た事を全て領主に報告した。領主っつっても美人の孫娘一人居ないダメ領主なんだが……怠慢にも程があるっつーの。
「そ……それでは、あの狂戦士達はもう襲って来ないと……?」
「確証はありませんが、可能性はかなり下がったと思います」
族長を失ったラガーリンには前回のような組織だった襲撃をする力は無いし、人質の解放によりその動機も無くなった。大丈夫だとは思うのだが。
「と、とにかく早速皆に知らせないと、ウサジ様がまた奇跡を起こされた事を!」
「これは奇跡ではありませんよ、それに油断をするのはまだ早いので」
ともかく俺は報告を終え、領主の館の8畳くらいのリビングを去る。
あのさぁ。こういうのはノエラの仕事じゃねえの? このパーティのリーダーはノエラだろ、何たってゆうしゃなんだから。
俺なんて一番後に入ったそうりょだぞ。大抵の物語では仲間とも丁寧語で話す辛気臭い真面目キャラだ、これと言った見せ場も無く、いつもパーティの後方で回復魔法を唱えている役である。
けんじゃが居れば下位互換になっちまうしな。まあこのパーティには本当はけんじゃが居たんだが。現在のパーティ内の序列はノエラ>クレール>ウサジ>>>ラシェルである。どちらにしろ、三番手の俺が領主に報告する役をやるのはおかしい。
ここは大人の男として、ノエラに一言言ってやらなくてはなるまい。お前はパーティのリーダーなのだから、もっと堂々としていないといけないと。
それからお前が着ているそのシャツは男物だろうと。肩幅が緩いから時々はだけて胸元が見えてしまうのだ。おまけにブラジャーもつけてないから角度によっては乳首が見えそうになる。大変けしからんので、今すぐ脱ぎなさい。
何? 脱ぐのが恥ずかしいだと? 先生は恥ずかしい服を着ている方が余程恥ずかしいと言ってるんだ! ああん!? 男物のシャツを着るような問題児のくせに身体だけは健康優良児か、先生がお前の胸にぴったりフィットするブラジャーを選んでやる、さあそのシャツを脱げ、この手でその生乳を測らせるんだ、見せなさい! その乳首を見せなさい、黒ずんでいないか、先生が検査してやる!
「ウサジ! どうだった!?」
「フヒッ!?」
驚きのあまり鼻を鳴らしてしまった俺は斜め後ろを振り返る。ノエラは領主の館の小さな正門の前で、俺が出て来るのを待っていた。
「そんな所で待っているくらいなら、貴女が領主に報告して下さいよ。貴女が私達のリーダーで、勇者なんですから」
「ご、ごめんなさい……だけど今回の事は全部ウサジの手柄なのに、僕が報告に行くのはおかしいよ! それに……僕はまだ勇者候補の一人でしかないから」
俺は表面上は真面目な顔をしたまま、頭の中ではさっきまでの妄想を続けていた。なんだこの身悶えしたくなるような罪悪感に満ちた快感は。
「しっかりして下さいよ、私はいつかの……本人の名前は忘れたけれどジュノンという少年をいじめていたパーティの、あんな奴が勇者になったら嫌ですから」
あれ、本当に思い出せん。あの金髪キザ野郎の名前なんだっけ? まあいいや、俺は野郎の顔なんか忘れて、嫌がるノエラのシャツをビリビリに引き裂く妄想に戻る。
「……あの人達、僕らよりずっとレベルが上だけどね……大きな城の王様とも知り合いだし、ファンもたくさん居る」
まあ、装備一つ見てもまるで金のかかり方が違ってたな。いまだにひのきのぼうとぬののふくの俺は論外として、同じ戦士職のクレールとデッカーだけ比べても相当な差があった。
「いくら強くても彼には世界は救えません。世界を救えるのはノエラさん、貴女のような人です」
「そ、そんな、僕はただの、風邪を引かないのが取り柄のがさつな人間だよ……女の子らしい事だって出来ないし……」
俺はちょうど妄想の中で、ビリビリに破けたシャツをまとい、涙目で胸を隠しているノエラに舌なめずりをして迫っている所だった。自分が女らしくないというのなら、胸を隠す必要は無いよなぁあー? ああん?
「さて、今日は夜直も必要無いようですし、宿に帰って休むとしましょう」
「そう……それじゃあ、宿の近くまで」
俺はあくまで紳士の仮面を被ったまま、ノエラと共に町を歩いて行く。空は夕焼けにはまだ少し早い、夕方の空だ。休むには早い気もするが今日はもう十分に働いた。この後はそうだな……寝るまでの間に、ノエラをおかずに、今度こそ性的にスッキリするのもいいか。デュフフ。
「ウサジ、こっち」
ノエラが、俺の手を掴んだ。あれ? 俺、ノエラと手を繋いだ事ってあったっけ……これが初めてか? な、なんかドキドキするな。
あれ、だけどこれ、道、違うんじゃないか? 俺が泊まってる商人宿はこっちじゃねえぞ。
「ここ」
そうしてノエラに連れて行かれた小さな路地の奥にあったのは、俺が泊まってるのとは別の、小さな宿屋だった。宿屋なのに食堂も無い、そして妙に人目につかない所にあるこれは……この女共が俺に出会う前、全ての宿屋はそういうものだと誤解していた、男女がプロレスをする為に入る方の宿ではないだろうか。
まじで?
マジか!? 何この状況!? ええっ、今日はJK食っていいのか!?
俺別に何も努力してないんですけど!? 棚から牡丹餅!? おいどん今から、このJKば手籠めにしたるとですか!? ほんのこつよかですか!?
……そんなもん、いい訳が無いわな、まあ……ほら、そこの塀の影からラシェルが覗いてるじゃないか……覗いて……いない?
「クレールは正門の守備の指揮を執っている。ラシェルには……辞書の"あ"から始まる文字を全部ノートに書き写すようにって言って来たから」
ノエラは俯いたまま、低い声でそう言った。俺は思わずノエラの顔を見る。ノエラは顔を上げず、俺の手を握ったまま小さな宿屋の入り口を潜る。
「待って下さい!」
俺は宿の入り口を潜る前に、ノエラの手を振り払った。ノエラは顔を上げ……再び俺の手を握り、俺に迫る!?
「秘密にするから! 絶対誰にも言わないから!」
「何の話ですかノエラさん!」
ノエラが、俺の左腕にしがみついて来る。ああ……推定Dカップの谷間が俺の二の腕にぎゅっと……
「僕はがさつで田舎臭くて……クレールみたいに手足も長くないし、ラシェルみたいに可愛くもない、だけど僕だって女の子の身体は持ってるんだ」
「落ち着いて下さい、ノエラさん」
「僕は都合がいい事に掛けては誰にも負けない自信がある、ウサジ、僕はウサジの玩具にだってなれる、ううん、御願い、僕をウサジの都合のいい玩具にして!」
ただでさえ馬力に勝るノエラが、俺の左腕を両腕でしっかりとホールドし、俺を連れ込み宿へと引きずって行く! 俺には抵抗する術も無い。