0052 こういう露出のうんと少ない着衣AVって無いの? 需要あると思うんだけど
ヴェロニクが落ち着くまでには5分少々かかった。
「こんなにすぐに……たくさんの人々に信じて貰えるなんて……思ってもみなかったの。だって私、まだ人々の為に何もしてないのよ」
ダーマ神殿の祭壇の上には、転職を司る偉そうなおっさんなどは居なかった。ヴェロニクは祭壇の下の方に腰掛けて、顔を上げた。
「ウサジ……私、怖いの……貴方には敵が居るのよ。そして貴方のしている事に気づいてしまった。敵はこれから、様々な罠や刺客を向けて来るわ! ウサジに万一の事があったら、私もこの世界もどうなるの!?」
俺は思わず、唾を飲み込む……涙に濡れたヴェロニクの瞳の、何と嫋やかで美しい事か。これが本来の姿、慈悲の女神ヴェロニクの美しさか。しかし。
「それに……敵は、敵だけじゃない……」
「ヴェロニク様? どういう事ですか?」
ヴェロニクは再び下を向き、掌に顔を埋める。ヴェロニクが何か知っているのなら、聞き出さないと。俺はヴェロニクに少し近づく……
その瞬間。ヴェロニクは俺の左手首を、両手で強く握った。
「あの……?」
「ウサジ! 正直に言いなさい! あの女共、いえ、あの子達の中で誰が一番好きなの!?」
「えっ……」
えっ……
「うそ、何でもない、今の無し、忘れて、御願い……」
「は……はあ……」
ヴェロニクは俺から手を離してさらに俯く。気持ちが不安定なのだろうか?
「誰でも一緒なのよ……! あの子達はみんな私より若くて胸も大きくて愛嬌もあるのよ……女神なんて偉そうで古臭い肩書きもない……」
ヴェロニクが俯いたまま長い黒髪を掻き毟り出す……ヤバいかも。俺もう起きた方がいいかも。どうやらヴェロニクの神格はまだ少し不安定で、ちょっとした刺激で元のヤンデレに戻りかねない、微妙な所に立っているようなのだ!
「だけど貴方が……貴方が私を捨てて他の女の元に走ったら私、どうすればいいの? 私は貴方を24時間監視する事は出来るけど、貴方がもし私への信仰を捨てたら、こうして夢枕に立つ事も出来なくなるのよ?」
そう言って再び顔を上げたヴェロニクは、先程のような慈悲の女神らしい顔をしていなかった。俺は思わず後ずさる。
「落ち着いて下さいヴェロニク様、私が貴女への信仰を捨てる訳が無いでしょう」
「本当? 信じていいの? いいえ……貴方はとても気まぐれなの。私、知ってるのよ……」
でしょうねえ、いつも俺の心の中まで覗いてるんだから……ヴェロニクはまた掌に顔を埋め、膝をついて蹲る……と思いきやいきなり抱き着いて来た!? しまった、捕まった!
「ねえウサジは誰が、どの子が好きなの!? あの芸人は無いとして、いじめたくなる方!? 胸が大きい方!?」
「微妙に私の心の中を読んだ上で迫るのはやめて下さい! ていうか私の心が読めるんなら勝手に読んで下さい、そうしたら私の信仰心だって解るでしょう!」
実際俺はヴェロニクを信じている。彼女の力を借りた魔法、しゅくふくとおはらいを使いまくる中で、真の姿の彼女があの世界に対して思い抱いている深い愛情と願いに触れた俺は、彼女が慈悲深い女神だという事を心から信じているのだ。
ヴェロニクが、俺の胸に顔を埋めたまま動きを止める。
「本当に? 信じていいの?」
「私はヴェロニク様を信じています、どうか貴女もその事を信じて下さい」
ヴェロニクが再び俺を見上げる。しかし駄目だ、この目は以前と同じ、39度の熱病を帯びた視線だ。
「本当に私だけなの? じゃあせめてキスして」
単刀直入に来た。だけど絶対に駄目だ、ここが東京駅だとしたらそのキスは次は有楽町に停まる山手線ではない、博多駅までどこにも停まらない夢の超特急だ。
「だめですヴェロニク様、気をしっかり持って下さい!」
そして俺の股間の新幹線は16両編成、ただでさえ200年の孤独に苛まれていたヴェロニクには刺激が強過ぎる。その快適な乗り心地は一度で彼女の神格を吹き飛ばし、完全な闇に落としてしまうだろう。
俺はここから出られなくなり、あの世界はヴェロニクという最後の希望を失う。
「やっぱりあの子達の方がいいのね? そうなのね?」
「違います!」
今日のヴェロニクはコスプレもしていないし露出も皆無だ。だけどこれはこれでいいなあ……こんな真面目そうな美少女が俺の身体を欲しがって……って俺まで闇落ちしてどうすんだ!
「そうよウサジ、私やっぱりウサジだけ居れば他には何も要らない!」
「やめて下さい! 離しなさいヴェロニク様!」
俺はヴェロニクを引き剥がそうともがく。彼女は女神だが腕力は普通の18歳の女の子並みのようだ。だけどなかなか、剥がれないッ……
「離さない、離さないわウサジ、私やっぱり貴方が欲しいわウサジ!」
「だめですヴェロニク様! やめなさい!」
「ケンカハヤメテ」
「きゃっ!?」「うわああっ!?」
小さなあどけない声が、俺達の足元から聞こえた。俺もヴェロニクも驚いてパッと離れる。って何だあ!? この空間に、俺とヴェロニク以外の者が居る!?
「ナカヨシ、ナカヨシ」
緑色の肌、耳が長く鼻が大きい、あの狂戦士! ……の小さな子供が、ほんの一歳か二歳くらいの、やっと片言の言葉を話し始めたようなやつが、何十人も、広い神殿のあちこちに沸き出して、歩き回ったり、じゃれあったりしている。
俺は足元に屈み込む。喋ったのはそのうちの一人だった。円らな瞳で、不思議そうに俺を見ている……あ。笑った。
俺が思わず微笑み返すと、その子供は満足したかのように後ろを向いてヨタヨタと駆け出し、他の仲間の所に向かう。
「ヴェロニク様!」
振り返ると、ヴェロニクは床に両膝をつき、顔をひどく赤くして自分の身体を抱きしめていた。
「ごめんなさいウサジ! 私、私また……! 駄目なのよ私、あの世界で人々の期待に応える自信が無いのよう! 私は堕落した女神なのよ!」
そう泣き叫んで、嗚咽しながらようやく顔を上げたヴェロニクは、本来の……ヴェロニク本来の神格を取り戻した目をしていた。酷く泣いては、いたけれど。
「今日はこれを聞きたかったんです。ヴェロニク様。あの世界の人々が等しく魔物と呼んでいる者達の中には、この子供達のように……本来は貴女が愛する世界の住人だった者も含まれているのですね?」
ヴェロニクは、小さく頷いた。
この子供達は俺がヴェロニクの力で回向した、あの狂戦士達の魂なのだ。彼等は魔族が世界に放った魔物ではなく、元々の世界の住人で、彼等の中には昔はヴェロニクを信仰していた者も居たのだ。
ふと見ると、どこからか、優しい光の道が一つ、差して来た。一人の子供が顔を上げ、その光に向かって歩き出す。仲間達がその子供に手を振り、子供もまた手を振り返す……きっと、新しい母親の所へ行くのだろう。
俺は再び、ヴェロニクに真っ直ぐ向き直り、近づいてその足元に跪く。
「ヴェロニク様。少なくとも貴女を連れ戻してあの世界を完全に救うまで、私は女犯の罪を犯さない事を誓います。どうか私の事も信じて下さい。そしてそれ以上に、貴女自身の事を信じて下さい」