0005 すまねえ両手がふさがってるんだ、残る一人は真ん中の丸太に捕まれ
俺はとりあえず教会の外に連れ出された。
「ちゃんと自己紹介しようよ! 僕はノエラ。みんなからは勇者なんて言われてるけど……本当に僕が勇者なのかどうかは良く解らないんだ」
ノエラは照れたように目を逸らしながらそう言った。金色が続く。
「私は魔法使いのラシェルと申します。ノエラさんに誘われて半年前から御一緒しています」
ノエラは身長160cmくらい、ラシェルは150cmくらいかな……それでもう一人は170cmくらいか。
「名乗るのやめておく。私はこの男を信用した訳ではないからな」
薄紫はそう言った。いや、後一人はクレールなんだろ?
「そういう言い方は良くないよクレール! この人は超爆弾岩の奇襲から僕たちを守ってくれたんだし……」
「お前が口に出したら一緒じゃないか!」
さて……何を言えば俺は解放して貰えるんだろうな……
「あの……何かお役に立てればとは思うのですが、私、記憶が無いんです、何であんな箱に押し込められていたのか……だいたい何であんな森の中に、宝箱が?」
クレールが答える。
「あんな森じゃない。聖なる白き森の中心部の、光輝の神殿跡だ。選ばれた聖者以外は近づく事も出来ないと言われている場所なんだぞ」
「でも、えっちそうなキノコのモンスターと超爆弾岩も居ましたよね?」
しまった。余計なツッコミを入れてしまった。
「……え……えっちそうとは、なっ、何だ! 貴様はモンスターですら性的な目で見ているのか! どこまで性根の曲がった奴なんだ!」
クレールは真っ赤になって誤魔化す。
まあ……この子にもえっちそうなキノコのモンスターから救って貰った恩があるよな……治療費も借りてるしなあ。
宝箱にはガラクタしか無かったって言ったっけ。
そういや俺、何か持ち物とか無いのかな……
俺は着ている服のポケットなどを探ってみる……コインが少しあるな……それから……それから……それだけか。
「何も無いなあ……やっぱり身包み剥がれたのでしょうか。ポケットにコインが六枚だけあるけど、これは持って行かなかったのかな」
今度はラシェルが答える。
「それは……余計に身包み剥がれた可能性がありますね……コイン六枚は三途の川の渡し賃ですわ」
どっかで聞いたような話だなあ。本当に異世界かここ。でも俺の居た世界にえっちなキノコのモンスターは居ないよな。
「ウサジさん!」
「は、はい」
ノエラが一歩、いや二歩、いやいや三歩前に出た。あの……近いんですけど……
「とにかく、一人じゃ旅をするのも危険だよ! ウサジさん、僕たちのパーティに入って下さい! ちょうど僧侶も募集してたんです!」
えっ……?
「ノエラ! 馬鹿を言うな! こんな男信用出来るか!」
「ノエラさん、だけど私達の旅はどんな村に居る事よりも危険で……」
何だろう? 本来の俺なら、二つ返事でオーケーしてるはずなんだが。むしろめちゃくちゃ嬉しいはずなんだが。両手どころか真ん中にも花じゃないか。真ん中にも花……たまらん……
本来の俺なら。むしろ断られても諦めずにアタックしてるんじゃないか? パーティに入れてくれと。そうだよな? 何なら履歴書を偽造したり偉い人に手引きしてもらったり、スポンサーに呼び掛けて無理やり加えて貰ったり……そこまでしてるかもしれないじゃないか。
だけど。ヒゲに鉢巻き、腹巻にステテコ姿の、俺の脳内に住む小さなおっさん妖精がずっと叫んでいるのだ。よせ、やめろと。ごく普通の、おっさんしか居ないパーティに入れて貰えと……おっさんしか居ないパーティが普通かは知らんが。
「あの……私、本当にレベル1ですんで……これと言ったスキルも魔法も無いし……そもそも皆さんはどんなレベルなんですか?」