0049 賢者モードって言ったら恰好いいけどさ。虚しいよな、こういうの
俺は、昼間に亜人の狂戦士共を埋めた場所に来た。
どこに埋めたか解らなくなったら気持ち悪いから。俺はそう言って結構大きな岩を苦労して運んだ。もちろん皆も手伝ってくれた。
それ以上の事はさすがに頼みにくいと思った俺は皆に礼を言って、そこでその作業を終わりにしていたのだ。
おあつらえ向きに、月が出てんな……俺は町から借りて来たスコップを手に、辺りを見回す。
何でもいいんだ、野の花なら。その辺に生えている花を、根の周りの土ごと掘り上げて、墓標代わりの岩の周りに置いて、慣らす。
俺は一体何をやってるんだ。全くバカバカしい。だけどこうしないと気が済まねえ。スッキリしねえ。
ワイバーン、クマーモスにワンサーティン、しめじにまつたけ、エッチじゃない触手モンスター、このゲームっぽい異世界には色々な怪物が居た。
だけどこの下に埋まってる奴らは、人間の言葉が少し使えたり、大将がやられたら逃げ出したり……どうも他の奴とは、少し様子が違っていた。
俺はヴェロニクの力を使い過ぎたのかもしれない。彼女が心に秘めてはいるが、そんな事までは俺に言う事が出来ない……そんな思いが解ってしまったような気がするのだ。
岩の周りは、次第に不細工な花で一杯になって行く。
酷いもんだ。ただ集めて寄せただけである。こんなんでちゃんと根が張るかどうかなんて解らないし、何とも不格好だ。もっと園芸の名人とか、そんなのがやれば上手に出来るのだと思うが。
まあ不細工で泥臭い奴等にはお似合いだな。誰かの命令で集められて、一対一では自分達より強い人間と戦わされて命を落とし……誰にも顧みられない。亜人の狂戦士共に送る手向けの花なんざ、俺みたいなセンスの欠片も無い男が作った物で上等だろう。
俺は今でこそキラッキラのJK三人とうきうきワクワクの異世界ツアーなんかしてるけど、元々の俺はどちらかと言えばここに埋まってる奴等に近い存在だ。
こんなもんでいいか。これは俺の気持ちの問題だ、俺がいいって言えばこれでいいんだ。
あー、スッキリした。
ハゲ共が待つ宿に帰って寝るか……いや、今夜は交代のノエラが起きて来るまで見回りを続けなきゃならないんだ。とりあえず町に戻ろうか。
俺はスコップを担ぎ、町に戻ろうとした。しかし。
「ノ……ノエラ……さん」
町に戻る道の木立の影で、そっと俺の様子を覗き見するように佇んでいたのは、そのノエラだった。
「ウサジ……あの……」
俺は密かに青ざめる。やっちまった。ノエラは俺に無駄な危険を冒して欲しくないと思っていて、その為にクレールと喧嘩までしてしまっていたのだ。そしてパーティのリーダーである彼女の命令を無視する俺の態度にも悩んでいた。
今回は別に「町の外に出るな」とは言われていないが、常識的に考えれば夜中に一人で町の外に出るのは危険である。ノエラは俺に限らず、パーティの誰にも一人で危険な事をして欲しくないのだ。
ああ……案の定、ノエラは深い溜息をつく。俺は覚悟を決めてスコップを担いだままノエラの方に歩き出す。まあいいや、とにかくスパッと謝ろう。
「すみません、一人で勝手な事をして」
ノエラも木立の影から飛び出して走って来る。やべー、いきなりビンタとかされたらどうしよう。いや……この状況でそんなご褒美がある訳無いだろ。
「ち、違うんだ、あの、覗き見みたいな事をしてごめんなさい!」
ほら、そんなご褒美は無い……いや待て、何でノエラが謝るんだ?
「何故貴女が謝るのですか」
「それは……! だってこんなの、僕、ウサジの心の中を覗き見しちゃったみたいなものじゃないか!」
ひいいっ!? 何言ってんだこの子は!? 俺の心の中を覗き見しただと!? どど、どこまで見たの!? 俺が妄想で何度もノエラの服をペロンってして身体をベロンってしてついには股間のキャノンでファイヤーってしちゃってる所まで見たとでも……いやそんな、ヴェロニクじゃないんだから……
「謝るのは私ですよ、ノエラさん。この下には貴女を負傷させ苦戦させた敵の大将も埋まっています。そんな敵の墓に、こっそり花を添えてるんですから」
とりあえず俺は適当な事を言って目を逸らす。ノエラの視線はあまりにも真っ直ぐで、俺の汚れた心で受け止めるには厳し過ぎる。全く、何て真っ直ぐな子なんだろう。
「やめてよ……僕は剣を振り回して、向かって来る相手を傷つける事しか思いつかない脳筋だけど、ウサジは全然違うんだ……僕は魔王を倒す事だけしか考えられないのに……ウサジは世界を救う方法を考えてるんだ……」
何をどう勘違いしているのか解らないが、ノエラはそう言って涙をぼろぼろ流しながら俺を見上げる……
やばい! ノエラの泣き顔はやばい、この子の泣き顔には助けてあげたいという良心よりももっと泣かせたいという邪心を起こさせる魔力があるのだ(当社比)!
いじめたい、この子を俺の解らせ棒でいじめてアンアン言わせて泣かせたい、そして俺無しでは決して生きられない身体に調教してやりたい……!
俺がノエラの視線を避けながら、そんな哲学と芸術の融合点について深く思索していると。町の方と反対側の……木立が、微かに揺れる音がした。
俺は反射的にそちらを見た。何か来たぞ!? 結構な数の何かが居る、これヤバいんじゃないのか!?
そんな何かの気配に気づいていないらしいノエラが。俯いたまま、呟いた。
「僕……ウサジの赤ちゃんが欲しい……」
たぶん。多分何かの聞き違いだと、空耳だとは思うんだけど、俺の耳にはノエラのそんな呟きが聞こえた。