0048 いや別に俺NTRに興味無かったわ。やっぱ男優は俺ね
「すみません、ちょっとその斧を貸していただけませんか」
俺は、大柄な木こりの男の腕を掴んでいた。男は驚いて振り向く。
「どうしました、旦那?」
当たり前だが木こりの斧はとても重かった。片手で握るのはしんどい……俺は木こりが手放した斧を、近くに居たノエラに渡す。
「ウサジ……?」
「貴方もこういう仕事は嫌でしょう。ここにはヴェロニク様の力がございますから、敵とはいえ、仕事で戦いを挑んで来た者達にそこまでする必要はありません。後は私が引き受けます」
おはらいとしゅくふく、両方が必要だな……ああ。だけど何でか必要な言葉が思い浮かんで来たわ。俺は大声でその呪文を唱え出す。
クレールとラシェルも怪訝そうに俺を見る。
「ウサジ……」「ウサジさん」
自分が何故こんな事をしているのかは解らない。
亜人共は憎たらしい敵だ。こいつらは人を殺すつもりで町を襲って来た。見た目も醜いし個体の区別もつかん。
だけど、みんな色々な表情で死んでいる。憤怒に染まった奴、泣きそうな奴、悔しそうな奴……どういう胸中だったのか、笑って死んでる奴まで居る。
別にどうって事は無ぇ。一体ずつ手だの足だの切り落とすのは骨が折れる仕事だし、木こりの男もいくら力持ちだからってこんな役をやらされるのは嫌なのだろう、涙目になってたからな。だったら俺が呪文でやった方が早いじゃん。
おはらいし、しゅくふくする。そうしたらこいつらの亡骸はヴェロニクに委ねられ、魔王の手下の邪悪な死霊術師も手が出せなくなる。何故だか解らないが、俺はそう確信していた。
俺はさらに大声を張り上げる。全ての亡骸に呪文の声が届くように。端っこの方で残ってる奴が居たら面倒くさいし。うわー、何か俺、本当に坊主みてえ。いや今は本当の坊主なのか。合掌してんのは日本人のウサジだった時の癖だな。癖っつーか、何となく。雰囲気で。
なげーな、俺のお経。お経なんてもんは短けりゃ短い程いい、俺だって子供の頃からそう思ってたのに、いざ唱える側になってみると、言いたい事がたくさんあるもんだ。
まあいいや、あんまり言ってもキリがないから、このくらいにするか。
俺は呪文を終え、合掌を解く。
ノエラもクレールもラシェルも目を丸くして俺を見ている……周りの男共も。
俺がおかしな事をするから、周りも妙な空気になってしまった。
「……後は普通に埋めるだけで大丈夫です。さあ、やってしまいましょう」
◇◇◇
そしてまた夜が来る。
何しろ前夜にあんな事が起きたばかりなのだ、さぞや皆ピリピリしてるかと思いきや。
「旅人よ、遠い所から良く来たな」
「宿屋はその突き当りの右側にあるぞ」
昨日俺達を締め出そうとした衛兵達は、今日は遅くにやって来た旅人も温かく迎え入れていた。
町の中でも。通りすがりの者同士が、努めて挨拶を交わすようにしているようだ。
そして今夜は俺も夜直をやる事になった! しかし……野宿をする訳ではないので全く意味が無い。トホホ。こんなんだったら普通に眠りてえよ。
ていうか最近の俺、普通にスッキリする暇も無いのよ? ワイバーン倒した辺りからずっとか? 有り得ん。スッキリしたい! けれども……
「ウサジ様、こんばんは!」「ウサジ様、まだ見回りですか?」
そのへんを歩いていても、俺はすぐウサジウサジと名前を呼ばれてしまう。昨日俺を避けてたような町の若い女も挨拶して来る。
これじゃあ俺遊べないじゃん……えちえちなダークエルフのお姉さんが居る店とか行けないじゃん……そもそもの話、この小さな町にはそんな店は無いのだが。
いやもう絵でもいいわ、えちえちなダークエルフのお姉さんの春画とか手に入らないの? せめてそのくらい無いの? この町の男はどうやってスッキリしてるんだよ。
あーあ。異世界も意外とつまんねえな……そうだ。取り敢えず一人になれる所って無いか? そうだ。俺はここの所まともに一人になった事も無いのだ。宿の寝室はどこへ行ってもハゲ共、いや他の男共と相部屋だし。
よし。とりま一人になっちゃおう、そしてスッキリしようか。
「ウサジ様? あの、今から外へ出られるんですか?」
「我々もお供致しましょうか」
俺が門から出ようとすると、例の衛兵共がそう言って来る。おいおい解らねえのかよ、俺はどうしても一人になりたくて外に出るんだぞ、解って欲しいなあー、男なら、そういう所。
「いいえ、皆さんが門を守っていてくれるから私も外に出られるんです、どうかここを御願いします」
俺は適当にそんな事を言い、崖と城壁で囲まれた町の門を出て、谷間の道を降りて行く。
さてと、考えなきゃ。おかずは何がいい? 亜人の兵士達に前から後ろから襲われるノエラ? 敵の亜人の将軍に抱き抱えられたクレール? 親しい仲間達をおかずにする背徳感はたまりませんな! ラシェルは知らん。
俺は後ろを振り返る。衛兵達は俺の言う通り門の周りに残っている。
そして俺は一人になった。俺は自由だ。




