0047 フローラ派の俺にタダで働けと? ざけんな家持ちの清純派美少女連れて来い
領主の館は思ったより質素でこじんまりとした建物で、美人の孫娘もメイドさんも居ないようなので、俺は寝不足を理由に席を外れ縁側で転寝をさせて貰った。その間にノエラと領主がこの後の予定を色々と決めたようである。
石工達は早速仕事を始めた。町の門には新たに「ヴェロニカ」と彫られた石版が取り付けられた。
そして神官のじいさんがやって来て言う。
「神殿にヴェロニク様の祭壇を作らせていただく事になりました。ウサジ様、ヴェロニク様はどのような御姿をされているのですか?」
あちゃー。ここであの春画、いや女神の魔法陣があれば良かったのか。ヴェロニクの姿は説明するよりあれを見せた方が早かった。俺が絵に描いてもいいが多分大惨事になる。
でもまあ、あいつは24時間俺を見てるはずだ、何とかなるだろう。
「ええ、お待ち下さいー! 確かヴェロニク様の肖像がどこかにあったはずー!」
俺はわざと大声でそう言って、ぬののふくのポケットや懐、俺用の背負い袋の中などを探す。するとほら、ズボンのポケットに入れた覚えのない紙屑がある。俺はそれをつまんで広げてみる。
『勘弁して』
「おかしいなー、ヴェロニク様の使徒である私が肖像一つ持ってない訳はないですよねー、財布の中だったかなー」
今度は財布の中に四つ折りになったレシートが挟まってる。この世界にレシートがある訳がないので、俺はそれを取り出して広げてみる。
『恥ずかしい』
「あーどこだっけなー!! お守りの中だったかな、すみません皆さん、ちょっと上着を脱いでも宜しいでしょうか?」
俺がそう言った瞬間、ラシェルが1.5倍の速さで飛んで来る。
「脱いだ服をお持ちします!!」
そして俺が上着を脱ごうと裾に手を掛けた瞬間、袖のあたりからコロンと音を立てて、長辺が5cmも無い楕円形の象牙の欠片に描かれたミニチュア肖像画が地面に落ちた。
「ああこれが」
俺が肖像画を拾い上げたその瞬間、さっきまで少し離れて様子を見ていたノエラが、クレールが、そして割と近くで見ていたラシェルが突如俺の周りに殺到し、神官さんは弾き出されてしまう。
「これがウサジの女神、ヴェロニク様……!」
「何と聡明そうな御姿だろう。神々しいとはこの事だ」
「清楚で美しい方ですねえ……ウサジさんが夢中なのも納得です」
「ラシェル! そんな言い方はウサジに失礼だよ!」
「ああっ!? 申し訳ありませんノエラさん! 私自分の立場も弁えず」
「この方が、ウサジの信ずる女神……」
俺は無言で女共をひのきのぼうで押し退け、神官さんに肖像画を渡す。
肖像画のヴェロニクは俺が一度も見た事のない、真面目な表情で澄ましている。身に着けているのも清廉潔白な学者か裁判官のような飾り気のない濃紺のローブだ。そういやコスプレしてないヴェロニクって初めて見たわ。
「お預かりして宜しいのですか……大事な物なのでは」
「こんな小さな物しかなくて申し訳ありません、これで何とかなりますか」
「大丈夫です、小さな町ですがここには腕利きの彫刻工房がありますから」
◇◇◇
ノエラにしばらくこの町周辺に滞在すると言う。期間は冒険者や他の領主からの援軍が集まるまでだ。
町からはヴェロニカという新しい名前と共に、共闘を呼び掛ける檄文を持った使者が旅立って行った。十分な報酬を出す事が出来ないので、どこまで集まってくれるかは解らないそうだが。
「とにかく僕達も色々仕事を手伝わなきゃ。まずは……町の外の狂戦士達の死骸の片付けだね……」
ノエラは肩を落としてそう言った。そうか、この世界では倒した敵の死体がパッて消えたりしないのね。そりゃそうだよな、俺もしめじソルジャー食ったわ。
「いいえ、ノエラ様達、勇者パーティのお手をこんな仕事で煩わせるのは……」
町の男達はそう言って遠慮するが。
「こいつらを一番多く斬ったのは私とノエラだ、気にしないでくれ」
クレールが謙遜とも自慢ともつかない事を言うと、みんな何も言えなくなってしまった。
緑色の肌の亜人達の事は、みんな狂戦士と呼んでいた。ゴブリン、みたいな種族名は無いのかね? 鼻が長く耳が尖っていて頭髪は貧弱、身長は大人の人間より低く身体は貧弱だが力はそこそこ強い……人間の言葉は使えなかったが、独自の単純な言語は使っていたように思う。
亜人の死骸はみんな荒れ地の方に引き摺って行って、大きな穴を掘って埋めるようだ。しかし……集められた亜人を埋める前に、筋肉質な木こりの男が、斧を揮って死骸に何かしている。
「あれは何をしているのですか?」
俺はそのへんで作業をしている男に聞く。
「あれは、あの……魔王軍の中には死体を操って人を襲わせる、邪悪な術を使う者が居るので……万一そういう事が起きても脅威とならないよう、死骸を切断してるのです」
はえー。異世界ならではの生活の知恵なのね。でもそれなら火葬すりゃいいのに……いや、こんな百を越えそうな死骸を火葬しようと思ったら、貴重な薪がどれだけ必要か解らないか。