0044 まあゴブリンにも性癖の合う合わないはあるんだろうな。わかりみ
「うおおお!」「押し戻したぞ!」
そして男達はついに、城門の外まで敵を押し返した。
「バビィ!? ボンババババ!」
敵の亜人の狂戦士の隊長っぽい少し背の高いやつが、いかにも亜人の狂戦士っぽい雰囲気で何かを叫ぶ。よし、そのまま亜人の狂戦士っぽく斬られてくれ。
「喰らえっ! 鋼炎斬!!」
門の守備から解放されたクレールはきちんと技名を叫んでから、炎を纏ったダイナミックな大上段斬りを浴びせる。
「ブバァァア!」
狂戦士の隊長も折り目正しい断末魔の悲鳴を上げ、錐揉みになって倒れる。
「ババベバ!?」「ババベバ!」
敵はまだ多数居て、切通しになっている谷間をこちらに向かって押し寄せて来ていたが、どうやらこの隊長が斬られた事でかなり動揺しているらしい。
「クレール! ノエラ達は何処へ!?」
「衛兵隊を率いて敵の大将を倒しに行った! 私達も行かないと!」
ふーん。パーティって常に一緒に戦うもんでもないんだな。
「ウサジ様! この場は我々にお任せ下さい!」
武装した町人の男共が言う。えっそれはどういう事? 俺にも敵の大将を倒しに行けって?
いやそれはおかしい、俺は武装もしてないんだぞ、そうだ、お前らが敵の大将を倒しに行くべきだ、そうしたら俺は、残された十代と二十代の女達の面倒を見てやるから……
「私はウサジを後ろに匿う事には反対したんだ」
そんな事を考えた瞬間、俺は右腕をがっつりと抱えられていた。誰に? クレールに。クレールの左腕は恋人のようにしっかりと俺の腕に絡んでいて、少しだけ見上げて来るクレールの笑顔は眩しい程に輝いている……待て。待て、今立つのはおかしい、今立つのはおかしいから立たないで。ああっ!? でもこの角度は胸の谷間の特等席、俺だけのFカップが今そこに!
「行きますよ!!」
俺はクレールの腕をすり抜け、駆け出していた。こんな状況で見境もなく元気になってしまった暴れん坊将軍を誤魔化す為に。
亜人の狂戦士共は動揺していて、誰も俺に切り掛かって来なかった。俺は無人の砂浜を馬で駆ける徳川吉宗のように、敵軍の中を突っ切って行く。
◇◇◇
俺とクレールが見たのは全滅間際の衛兵隊と、多少の手傷は負っているがまだまだ元気な、身長2m超のより大きな亜人の狂戦士だった。あれが敵の大将か。
「オまえラ! なにをじでいル、ぞいづラをゴロゼ!」
ああ、大将は少し喋れるのか。じゃあこっちの言葉も理解出来るかな。
「アスタロウはもう逃げた! お前達を置いて逃げた! アスタロウは逃げた!」
俺は狂戦士共にでも解るよう身振り手振りを加え、そう叫んだ。
ノエラは? ノエラはどこへ行った、も、もしかしてもう亜人の男共に押し倒されて……
「ウサジ……!」
ああっ!? ノエラはまだ立って戦っている、だけどあの強いノエラがもうボロボロだ! 皮鎧の肩甲が片方取れている、そしてシャツの胸の所にいい感じの裂き傷が出来ていて下着がちょっと見えている! 畜生誰だあの傷をつけたのは!? ウサジ殊勲賞を進呈するから前に出ろ!
「バがナ! アズダロウざまガにゲるものガ!」
「行けるかノエラ!? さっさとこいつを片付けるぞ!」
突進して行くクレール……とりあえず俺の仕事は死に掛けの衛兵達にしゅくふくを掛けてもう一度戦わせる事か。大変なブラック労働環境もあったものである。
「しゅくふく! しゅくふく! しゅくふく!」
なんかこれ連呼するのも馬鹿みたいだなあ。
「おおっ、力が湧いた!」「これでまだ戦える!」「ノエラさんを助けろ!」
助けるのか……いやまあ助けて貰わないと困るんだけど、ピンチのノエラはそれはもうゾクゾクするような顔をしてるんだわ。
もう少し見ていたかったなー……何なら亜人に羽交い絞めにされちゃったりして、あんな事やこんな事をされてしまうノエラの姿を……
「しゅくふく……しゅくふく……」
でも駄目だわこいつら。どうやらこの世界の亜人共は人間の女に性的な興味が無いらしい。頭にマンガみたいなコブをつけてうつ伏せに倒れているラシェルにも、誰も触れようとしない。
俺はラシェルにも「しゅくふく」を掛けてみる。
「すみませんウサジさん! MPが尽きるまで頑張ってはみたのですが!」
ラシェルは普通に起き上がった。いや、俺も今この女に性的興味は無いかな……
付き人という職業は装備出来る武器がほとんど無いらしい。まあ付き人の分際で剣なんか提げてたらおかしいわな。だからMPも尽きた今ラシェルに出来る事は灰皿で狂戦士の頭をポコポコ叩く事くらいである。
俺もひのきのぼうで亜人の狂戦士を二人ばかり仕留める。身長は小学五年生くらいの奴等だし、やってやれない事もない。
「いくぞノエラ!」「おう! 双猿無双斬り!」
そしてノエラとクレールは何か名前に違和感のある連携技らしきものを発動し、
「バがなァァア!!」
敵の大将らしき奴を斬り倒した。