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0043 これ息子をもう一度元気にするのにも使えないかね? 今度試してみよっと

「フハ……フハハハハ! 何と愚かな蒼き雷鳴のノエラめ! 何と愚かな! ヴェロニクの使徒だと!? そんな者が居るのなら、俺ならば敵の目に触れぬよう大事に囲っておくだろう! それをよりにもよって、このアスタロウ様の目の前にさらけ出すとは、何と迂闊うかつな勇者なのだ! フハハハハ! このような千載一遇の絶好機に恵まれるとは何という僥倖ぎょうこうだ! ヴェロニクの使徒ウサジ、貴様の首を持ち帰れば魔王様はどんなに喜ばれるだろうか!」


 ええっ……そういう感じになるの!? どうしよう、首を持ち帰られてはさすがに俺、蘇生出来なくなるんじゃ……? 仮に蘇生出来ても首のない男になる。そんなの嫌だ、エッチの時に相手も見えずペロペロも出来ず匂いも嗅げないなんて……


「だが俺はいかなる時にも油断しない男なのだ、ヴェロニクの使徒ウサジ! 貴様を見つけたのがこの俺、聡明なアスタロウ様で良かったな、他の魔王軍の者ならば考えもなく襲い掛かっていただろう。フハハハ! しばしの延命を喜ぶがいい!」


 赤い顔の魔族の男はそう言って、背中の翼を広げて羽ばたき、礼拝室の中空へと浮かび上がる。


「聡明な俺は貴様の存在を魔王様に御報告する為に一度この場を立ち去る! だが決して逃げるのではない、逃げるのではないからな!」


 アスタロウは最後にそう言い残し、吹き抜けの二階の窓から飛び去って行った。



   ◇◇◇



 この城壁都市は常に魔族や魔物の浸食しんしょくさらされているのだという。

 昔は街道のここより先にも人類の町や村があったのだそうだ。けれどもそれは魔物の進出が進むに連れ次第に放棄され、結局ここが最前線になってしまった。

 そして今、町の外から攻め込んで来ている魔物達の様子は、これまで町にちょっかいを出して来た連中とは違うと言う。


「今夜の奴は数が多い……奴等はこの町を攻め落とすつもりなのだ。あのノエラという子が居なければ、ここはもう陥落していたかもしれん……」


 戦闘が激しく回復が間に合わないらしく、酷く傷ついた兵士が何人か、老人達の肩を借りてここまで運ばれて来る。

 他人の怪我を治す為に力をとっておいた神官は、兵士の下に駆け寄り治療呪文を掛ける。


「私も手伝いましょう」


 俺はMPの残りが少なそうな神官に代わり、他の兵士に「しゅくふく」を掛ける。やはり俺の魔法では怪我を完治させる事は出来ないようだが。

 俺にしゅくふくを掛けられた兵士が言う。


「あ、貴方も僧侶なのですか? 貴方にも城門に来ていただく訳には行きませんか?」


 ああ、やっぱりそう言われるよなあ。どうしよう。ノエラの命令が……

 いや、この人達は助けを必要としているし、ノエラがこの場に居たら必ず言うだろう、皆を助けてと。

 付き合いは短いけど、俺は信じている。ノエラはそういう子だ、世の為人の為自分に何が出来るか、いつも真面目に考えている子なのだ。ああ……そんな真面目で正義感の強い女の子を俺の股間の解らせ棒で突っつきまくって泣かせてみたい……


「城門が破られては元も子もありません……神官さん、ここを御願い出来ますか」

「お、御願いします……ヴェロニクの使徒ウサジ様……! 不甲斐ない私に代わり、どうか町を、皆を守って下さい!」


 俺は止血だけ済ませたような兵士に導かれ、城門へと駆け出す。



   ◇◇◇



「ぐわああっ!?」「だ、だれか手当てを……」「立て! みんな立てぇ!」


 城門は思った以上に酷い有様だった。たくさんの男達が倒れてうめいていて、立っている者の方が少ない。

 襲って来ているのは、これまで俺が見て来たような土着の魔物ではない。所謂いわゆるヒューマノイド型の敵、緑色の肌をした人間より少し小さい、だが獰猛どうもうで危険な奴等だ。みんな皮の鎧を着て剣や槍、斧で武装している。


 門の真下で仁王の如く戦い続けているのはクレールだ。その周りには足の踏み場もない程に敵の骸が積み上がっている。彼女はすぐに俺に気づいた。


「ウサジ! 無事だったか!」


 クレールはそう言って微かに笑みまで浮かべた。しかしすぐにいまだ押し寄せる敵に目を戻す。彼女は奮戦しているが広い門を一人で守りきる事は出来ず、いくらかの敵はその横をすり抜けて城内に侵入して来てしまう。

 それを臨時の兵士である町の男達が迎え撃つ。初めは数の力で抑えていたのだろう、しかし敵は後から後から押し寄せ、味方には怪我人が増え、次第に抑えが効かなくなって来ていた。

 俺が来るのがあともう少し遅ければ、敵の一部は自由に街中を駆け巡っていただろう。


「しゅくふく!」

「ああっ……傷がふさがって行く……!」


 とにかく俺は、倒れている男達に治療呪文を掛けまくる。本職ではない上に武装もまちまちの連中だが、今は戦ってもらうしかない。


「しゅくふく! しゅくふく! しゅくふく!」

「あ、ありがたい!」「これでもう一度戦える!」「町を、町を守れーっ!」


 相変わらず俺の「しゅくふく」の効果は低い……ドラクエで言ったらホイミくらいの魔法だなこれ。差し詰め俺はホイミウサジか……けれども。


「しゅくふく! しゅくふく! しゅくふく! しゅくふく!」

「うおおお!」「もう一回行くぞ!」「リベンジだああ!」「町を守れー!」


 どうやら俺の「しゅくふく」はこのくらいの出力でならMP消費無しで撃てるらしい。発動も速いし効果も一瞬で出る。何なら左右の手で別々にも出せる。


「ぐわああ!」「しゅくふく!」


 敵から致命傷を受けた者にでも急いで駆け寄って呪文を当てれば、死なせずに済む事だって出来る……凄いなヴェロニク、こんな凄い魔法をくれたなら、ちゃんとそう言ってくれよ。


「すげえよあんた何者だ!?」「聖者ウサジ!」「聖者ウサジだ!」


 次第に回復した味方に、城内の敵が駆逐されて行く。

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
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